いつもお世話になっているPARCOさんから
「JAXAさんと、何かやりません?」
と、うれしいお誘いをいただきました。
そこで、わたしたちの生活に
とーっても重要な役割を果たしているけど、
「地味で、激シブで、どマイナーな」
(JAXAさん曰くです)
「地球観測衛星」について、
特集を組ませていただくことにしました。
これまで、南米・仏領ギアナの
熱帯雨林のど真ん中から、
大型ロケット発射の生中継をしたり、
宇宙飛行士さんの話をうかがったりしてきた
われわれ「ほぼ日」ですが、
「地味・激シブ・どマイナー」と言われる
地球観測衛星の話も、まったく同じく
おもしろく、胸がワクワクするものでした。
全4本のインタビューに、途中、
アニメ「ガンダム」シリーズを手掛ける
サンライズの小形尚弘プロデューサーと
JAXAさんとの特別対談もあります!
まずは「地球観測衛星の開発」篇から。
担当は「ほぼ日」奥野です。さあ、どうぞ。

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第2回 人工衛星には「花道」がある。

──
安部さんは入社10年目で「衛星指揮官」に。
それって「大抜擢」なのでは?
安部
いえ、それくらいの年次の人間が、
指揮官に指名されることが多いんですよね。
次の「だいち3号」(ALOS-3)の
打ち上げでは、
いま、ここにいる丹羽が指揮官をやります。

真ん中が、次の衛星指揮官をつとめる丹羽さん。 真ん中が、次の衛星指揮官をつとめる丹羽さん。

──
おお‥‥丹羽さん!
丹羽
いまから、ドキドキしてます(笑)。
──
ですよね。なにしろ全権、大役ですものね。
安部
わたしの仕事については、そんな感じです。
ちなみに聞かれていませんが、
趣味は
釣りとファッションとパンクロックです。
パンクロックは人生におけるモットーです。

──
パンクな気分で、打ち上げてる?
安部
人工衛星の開発に際しては、
各所からさまざまな要求が上がってきます。
そのときに、
何かにひよったり折れてしまったりすると、
やりたいことが変質してしまう。
なので、そこは、負けずにがんばります。
自分たちが、
いいと信じたものをつくっていきたいので。
──
3コードの、強い気持ちで。
安部
はい(笑)。
──
人工衛星を飛ばしていると。
安部
そうです(笑)。

H-IIAロケット40号機/温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)及び観測衛星「ハリーファサット(KhalifaSat)」の打ち上げ©JAXA H-IIAロケット40号機/温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)及び観測衛星「ハリーファサット(KhalifaSat)」の打ち上げ©JAXA

──
ちなみに、
衛星指揮官をやったときの人工衛星は、
いまは?
安部
軌道上で、元気で動いてますよ。いまだに。
愛称を「いぶき2号」と言うのですが、
地球全体の
温室効果ガス濃度分布を見ています。
──
そうやって調べたデータなどは、
具体的にはどうやって活用してるんですか。
安部
JAXAと国立環境研究所とで、
データを解析するための
さまざまなプログラムとかアルゴリズムを
バージョンアップしていって、
人工衛星から送られてくる
データから得られる情報の精度を、
どんどん上げていくんです。
それを行政機関にインプットして、
環境行政に役立てていただいたりですとか。
世界中の研究者に配布して、
それぞれの地球科学分野の研究とか、
それを基にした
各国の環境行政に活用していただいたりも。
──
地味でマイナーだっておっしゃいますけど、
すごく役に立ってるんですね。

©MOE/NIES/JAXA ©MOE/NIES/JAXA

安部
地球環境って、一気には変わらないんです。
軌道上にいると、
長期間、安定して継続的に観測できますが、
そのことは、
気候変動のような長期の問題にたいしては、
大きなメリットになります。
微細な変化が、だんだん見えてくるんです。
その長期的な観測結果から、
このまま行くとこうなってしまうから、
手を打たないとダメだよねっていうことを、
世界の人たちと一緒にやっています。
──
なるほど。で、いまは、
最初のプロジェクトからは、離れていると。
安部
ええ、無事に軌道に乗っちゃえば、
あとはセンサーなどを運用する部隊だけを
3名くらい残して散り散りに。
そこからは、実際に
データを使って研究をする人たちの世界に
なってくるので、
人工衛星のお守りをする人は減るんですよ。
──
ちなみに人工衛星って、
どれくらい、軌道上で仕事をするんですか。
安部
ものによるんですけど、
5年間は壊れないような設計にしています。
ただ、壊れない限りは、
使い続けるというケースがほとんどですね。
──
壊れてしまったら‥‥。
安部
軌道に居座っていると邪魔になりますから、
使わない衛星は
地球に落とすってことをしたいんですけど、
壊れるときって、だいたい唐突なんです。
そうなるとコントロールできなくなるので、
そこは大きな課題です。
そういった「デブリ」を回収する企業とか、
最近は、出てきていますけど。
──
ちなみに、安部さんって、
昔から宇宙が大好きな少年だったんですか。
安部
いえ、それが、そうでもないんです。
大学で電気工学、制御工学をやっていて、
就職では、ものづくりがしたいな‥‥って。
メーカーなどいろいろ考えたのですが、
JAXAを知って、
国家規模のプロジェクトに携われるなんて、
こりゃおもしろそうだと思って。
──
へえ、そうなんですか。
JAXAに勤めている人とかって聞いたら、
さぞかし昔から
宇宙大好きっ子だったんじゃないかなと
思っちゃいますけど。
安部
実際、東大の航空宇宙を出ているような
宇宙のエリートもたくさんいます。
でも、ぼくはそうじゃなかったんですが、
2次面接で、履歴書に
「居酒屋でずっとアルバイトしてました。
店長代行も経験しました」
と書いていたのを見たある面接官の方が、
「ちょっとやってみてよ」って。
──
やってみて‥‥って、何を?
安部
居酒屋の仕事をここで実演してみろって。
仕方がないので、
ご新規3名ご案内の流れをやったんです。

──
ははは、
「ご新規3名ご案内の流れ」(笑)。
語呂の感じが
歌舞伎とか、講談の演目のようです。
「南部坂雪の別れ」みたいな。
安部
みなさん、すごく笑ってくださいました。
それで、受かったんです。
──
え、「それで受かった」んですか?(笑)
安部
はい。入社式のあとの懇親会で、
あれが決め手だった、というようなことを
言われたので、たぶん(笑)。
──
おもしろいなあ(笑)。
ちなみにですけど、いま、軌道上には、
何個くらいの人工衛星が飛んでるんですか。
安部
JAXAの地球観測衛星に限って言えば、
現役で運用している衛星は「6機」ですね。
──
世界全体では?
丹羽
すでに役目を終えた衛星もふくめたら
少なくとも数千はある、
というような記述を見た気がしますね。
──
そんなに!
安部
スペースXのスターリンクという衛星は、
最近めちゃくちゃ打ち上げてますし。
ああいう、企業が打ち上げる人工衛星は
コンステレーション衛星と言って、
いま、数がどんどん増えているんですよね。
現役稼働中で、
企業でなく国家が飛ばしている
政府系の衛星ならば、
100、200くらいな気がします。
──
その、企業が打ち上げている人工衛星って、
どういう役割を担ってるんですか?
安部
通信インターネットサービスの提供ですね。
ぼくらが打ち上げているような
数トンの重量がある中型・大型のクラスで
地球環境を観測しているようなものは、
現役稼働で、100とかそこらだと思います。
──
地球の軌道は人工衛星やデブリばっかりで、
すごく混雑してる‥‥みたいな話を、
よく聞くと思うんですけど、
実際の景色としてはどんな感じなんですか。
安部
宇宙では、100キロとかの距離があっても、
すごく近いって感じだと思います。
──
へええ‥‥でも、そうですよね。
もし仮にぶつかったら、一大事ですもんね。
安部
なので、人工衛星のすぐ隣にデブリが‥‥
みたいなことはないと思うんですが、
ただ「みんなが使いたい軌道」というのが、
あったりするので、そこは集中します。
──
使いたい軌道。
いまはどうかわかりませんが、
以前、パイロットのかたに取材したときに
航空機が混雑する空路があって
「御前崎から伊豆半島沖の太平洋上」だと
聞いたことがあるんですけど、
宇宙にも「人気のルート」があるんですね。
安部
結局、太陽の光の当たり具合もありますし、
地球が自転で横に回るのにたいし、
衛星は縦に回るわけですけど、
その条件下で
地表を隙間なく観測できる軌道って、
あるていど、限られてきてしまうんですよ。
なので、そういう軌道は混雑しちゃいます。
──
はあー‥‥。
安部
以前に、ぼくがいっしょに仕事をしていた
バリバリのエンジニアの方は、
「朝の10時半くらいに
人工衛星が上空を通過する軌道」のことを、
「人工衛星の花道」と表現されていました。

いぶき2号(GOSAT-2)©JAXA いぶき2号(GOSAT-2)©JAXA

──
花道!
安部
地球を観測すると言ったら、
その軌道しかないだろう‥‥という意味で。
──
花道かあ。何だか、いいなあ(笑)。
安部
ぼくら人工衛星の業界ではとっても有名な、
日本のトップエンジニアの方です。
本当におもしろそうにおっしゃってました。

(つづきます)

2022-09-14-WED

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