美術館が所蔵している作品や
常設展示を観に行く連載・第4弾です。
今回は、2020年にオープンした
アーティゾン美術館へうかがいました。
前身は、歴史あるブリヂストン美術館。
東京・京橋の街中で、
ピカソやルノワールを見られる美術館が、
新しくうまれ変わったのです。
現在、休館中に新たに収蔵した作品を
たっぷり楽しめる
「STEPS AHEAD :
Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」
を開催しているので、そのようすを取材。
作品を解説してくださったのは、
学芸員の島本英明さん。
担当は、ほぼ日奥野です。さあどうぞ!

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第7回 アーティゾン美術館のこれから。

──
こちらの所蔵点数としては、
現時点で、どれくらいあるんですか。
島本
約2800点です。

提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三

──
おおー。それぞれの作家が
ひとつひとつ、
魂を込めてつくった作品が集まって
3000近くにもなるなんて、
美術館というものは、
何ともすごいところだなあと思います。
島本
そうですよね。
ただ、収蔵作品数自体としては、
突出して多いというわけでも
ないかもしれません。
──
そうなんですか。2800あっても。
島本
所蔵品の数が1万を超える美術館も、
少なくはないので。
ですから「数」というより、
いまおっしゃってくださったように、
1点1点‥‥ということが、
大切なんだろうなあと思っています。
──
ひとつひとつの作品を、
吟味して、
精査して選んでいるわけですもんね。
美術館のコレクションっていうのは、
全体でひとつの表現でしょうし。
島本
当館の方針に則って選んだ、
凝縮された2800点だと思います。
──
先ほど公共性の話も出ましたが、
アーティゾン美術館をはじめとする
私立の美術館と、
国公立の美術館との「ちがい」って、
どこにあると思いますか。
島本
さまざま説明があると思いますが、
まず国公立には、
国や都道府県といった枠組みに
その成り立ちがあります。
──
ああ、なるほど。
郷土の芸術家を取り上げたりとかは、
その土地の美術館ならではですね。
島本
とくに地域に根ざした公立美術館だと、
自分たちの足元を見つめながら、
地域とゆかりのある芸術家の作品を
収集の柱とするケースが多いです。
あるいは、
近隣の美術館の収蔵品等を考慮して、
相対的に
ポリシーを決める場合もありますし。
それに対し、私立の美術館は、
固有の志やビジョンが
創設とその後の活動の核となっています。
──
これも話に出ましたが、
美術の収集の歴史を眺めてみたとき、
志を持った傑物に、
多くの部分を負っていることも、
美術、美術館のおもしろさだなあと
思ったりします。
国立西洋美術館の松方幸次郎さんしかり、
倉敷の大原孫三郎さんしかり、
こちらの石橋正二郎さんしかり、
福富太郎さんみたいな人もいたりとか。
島本
そうですね。
とくに松方と大原は、
あの時代に西洋を強く意識していた。
松方は自ら渡欧していますし、
大原も、
児島虎次郎という人に資金を託して、
モネやゴーギャン、ロダンなどを
あちらで買い集め、
それが大原美術館の基礎になります。
──
そうなんですね。
島本
とくに大原は、「フィランソロピー」
つまり
社会に貢献したいという意識が高く、
裕福な人が
いかに公に奉仕するかということを、
追求していたところがあります。
だから、西洋のすばらしい美術品を、
いかに日本の人々に紹介するか、
ということに力を注いだんですよね。
──
はああ‥‥なるほど。
お話を聞いていると、
美術館って、
美術館をつくろう‥‥という
個人の思いからできているケースが
けっこうあって、
それが実におもしろいです。

提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三

島本
ええ。
──
事業で成功してお金を得ると、
美術というかたちで
社会にお返ししようという気持ちが
生まれるんでしょうか。
島本
それもあるでしょうし、
自分が集め、
つくり出したものを後世に残したい‥‥
という思いも、あると思います。
画家の場合も、晩年になってくると
散逸することのない「壁」に、
作品を残したりするじゃないですか。
モネも、睡蓮を壁画にしていますし。
──
ええ。
島本
そうすることで、
不朽となり、モニュメンタルとなる。
他方で美術を集める者は、
自分では作品を生み出さないけれど、
同じように残したい、
集めたものを散逸させたくない‥‥
という気持ちで、
美術館をつくろうとするんでしょう。
──
なるほど‥‥。
島本
基本的に美術館に収蔵された時点で、
作品は守られますから。
──
美術って、集め続けること、
コレクションを構築していくことや、
作品をさまざま組み合わせることで、
また、
固有の価値や意味が出てきますよね。
島本
はい。
──
その「キュレーション」する楽しさって、
島本さんは、
どういうところにあると思っていますか。
島本
たぶん、いろんな答えがあって、
あくまで自分の場合はということですが。
──
はい。
島本
個々の作家や作品、
その背景にある歴史などにたいする
正確な理解があっての上で、
いかにすれば、隠れた部分を含めて、
対象の「本領」を引き出せるか。
さまざまトライを繰り返すところに、
おもしろさがあると思います。

──
この絵の隣にどの絵を置くか‥‥で、
何かが、変わってきたりとか。
島本
同じ作品でも、歴史的な文脈に置けば、
ある時代のドキュメントとしての性格を
持ってきますし、
逆に
歴史性の拭われた文脈に置かれることで、
創作物として新たな姿を帯びる、
というようなことも、あると思います。
対象をどのような姿で示したいか、
それは公共の場で提示されるものなので、
責任を伴うわけですが、
対象との対話を繰り返しながら、
答えを探し続けています。
──
おもしろいお仕事ですね‥‥!
島本
ただ、その「答え」も、
自分の年齢や経験、考え方などが変われば
変化していくものでしょうし、
そういう意味では
「絶対の正解はない」と思っています。
ただ、その機会ごとに、
対象にできるだけ誠実に向き合い、
より良い答えを探る‥‥
という作業そのものが
自分には、おもしろいのだと思います。
──
コレクション展のように、
その美術館ではおなじみの作品を
組み合わせることで、
新鮮に見せる‥‥ということって、
かなり
創意工夫が要るような気がします。
島本
はい。やはり、ふだんから
どれだけ作品と向き合えているかが、
問われてきますね。
作品のある面だけをお見せするのは、
難しいことではありませんが、
並べ方や切り口などで、
まったく別の文脈が生まれるんです。
──
ええ。
島本
であれば、自分たちの勉強しだいで、
大げさでなく、
数え切れないほどの見せ方ができる。
所蔵作品というものは、
そういう大きな可能性を秘めている。
そんなふうに思っています。
──
で、そういうことぜんぶが、
展覧会のタイトルに凝縮しますよね。
島本
そうなんです。
──
ぼくらは、ほぼ、
タイトルを見て行くじゃないですか。
だから、
本当に重要だなあと思うんです。
琳派と印象派展‥‥とか言われたら、
詳しい内容はともかく、
まずは行ってみたくなりますから。
琳派と印象派が並んでるのか‥‥と。

島本
「琳派と印象派」展のときの、
展示内容を率直に伝えるタイトルは、
うまくいったと思っています。
今回の展覧会については、
内容を端的に説明しようとした場合、
「新収蔵作品展示」と
おもしろみがなくなってしまうので、
なるべく説明的にならないよう、
かつ
当館のメッセージが伝わるようにと
いろいろ考えた挙げ句‥‥。
──
「STEPS AHEAD展」と。
島本
はい。エレイン・デ・クーニングの
強烈なビジュアルとともに。
──
拝見して「前に進もう!」という提案や、
館の方針まで含んだタイトルで、
アーティゾンさんの気持ちを感じました。
島本
ええ、これからアーティゾン美術館は
こういう方向へ進むのか‥‥
ということを
感じていただけたなら、うれしいです。

提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三 提供:アーティゾン美術館 撮影:木奥惠三

(おわります)

2021-07-07-WED

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  • ブリヂストン美術館を休館した後、
    2020年に
    新しい美術館として開館した、
    アーティゾン美術館。
    開催中の「STEPS AHEAD」では、
    この真新しいミュージアムに
    新たに収蔵された作品を、
    たっぷりと楽しむことができます。
    なんと展示の半数近くが、
    はじめて公開される作品とのこと。
    メインビジュアルに採用された
    エレイン・デ・クーニングはじめ
    女性作家たちの抽象画、
    藤島武二、キュビスム、具体、
    マティスの素描‥‥など
    3つのフロアにまたがる展示は、
    みごたえ十分です。
    ルノワール、ピカソ、青木繁など
    この美術館の代表作も。
    9月まで会期も延長されたので、
    ぜひ、足をお運びください。
    チケットなど詳しいことは
    アーティゾン美術館の公式サイト
    ご確認ください。

    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館