特別展には、大勢の人が集まりますね。
さまざまな切り口で、
国内外から美術作品を集めてきては、
おもしろく見せてくれるから。
でも、常設展に並んだ所蔵作品にこそ、
その美術館の個性が出るもの。
日本の国宝が迎えてくれるし、
パリへ行かずとも、ピカソに会えるし。
そこで、各館の常設展示をめぐって
所蔵する作品を見せていただく、
何とも贅沢なシリーズを、はじめます。
まずは、日本のミュージアムの起源、
上野の東京国立博物館さん。
記念すべきシリーズ第1弾なので、
和田ラヂヲ先生とうかがってきました。
お話をしてくださったのは、
東博の竹之内勝典さん、
伊藤信二さん、河野正訓さんです。
ラヂヲ先生の手には、
万が一に備えて(?)スケッチブック。
準備は万端。
担当はほぼ日奥野です。お楽しみあれ!

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第4回 超絶技巧の名品の数々。

──
すみません、ちなみになんですけれど、
自在置物というのは、
どういうわけで、自在に動くんですか。
伊藤
こまかなパーツをいくつも、いくつも、
つくって重ねているんですが、
それらを揺らぐように、
ゆるく組み上げて動くようにしてます。
──
ああ、わざと、ゆるく。
伊藤
先ほどの「自在龍置物」も、
足なんかもガシャガシャと動きますし、
爪のような細かい部分も、
口だって、
生きてるようにパカパカと開くんです。

明珍宗察作 自在龍置物 江戸時代・正徳3年(1713) 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 明珍宗察作 自在龍置物 江戸時代・正徳3年(1713) 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

ラヂヲ
なるほど。
伊藤
兵庫県の姫路のあたりに、
チンチン鳴る明珍火箸というものが
あるんですけど、
それも、こちらの明珍さんの系譜。
もともとの生業から枝別れして、
火箸とか馬具のクツワ、ツバなども、
つくっていたんです。
──
そうなんですね。
伊藤
つまり、じょじょに甲冑以外の仕事が
派生していったということです。
こうした自在置物もそのひとつで、
もしかしたら、お殿さまに
献上したものなのかもしれません。
ラヂヲ
うれしいよね。これ、もらったら。
──
もらってうれしいプレゼント(笑)。
でも、たしかに。
伊藤
明治時代には輸出するようになって、
こうした自在置物は、
海外にもたくさん保管されています。
こちらの蛇なんかは、
いまは「1本」のスタイルですけど、
完全にトグロも巻けますんで。

宗義作 自在蛇置物 昭和時代・20世紀
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 宗義作 自在蛇置物 昭和時代・20世紀 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

ラヂヲ
1本でもよし、トグロでもよし。
伊藤
ただし、この自在の蛇というものは
数が相当あるんです。
高瀬好山さんという人が、
明治のころに、
たくさんの自在置物をつくっていて、
輸出もしていたんです。
──
産業化していたんですね。
ラヂヲ
海外に売るほどつくってたって。
お好きだったんでしょうなあ。
伊藤
セミ、クワガタ、ヒラタクワガタ、
カブトムシ、ミヤマクワガタ、
ノコギリクワガタ、ハチ、カマキリ。
昆虫も、いろいろ。いいですよ。
──
以前、京都の清水三年坂美術館で、
超絶技巧の工芸品を
取材したことがあるんですけれど。
伊藤
ああ、あそこにもたくさん、
自在の作品が収蔵されてますよね。
この時代の傑作が、
現代の作家にも影響を与えてます。
自在をつくる若手作家、
いまでも、たくさんいるんですよ。
──
たしか『美術手帖』だったか、
雑誌で特集されてるのも見ました。
伊藤
それらの「おおもと」をたどると、
さっきの龍に行き着くんです。
ラヂヲ
あの蛇、さっきから
めっちゃ目が光ってるんですけど。
伊藤
金をはめこんでいるので。
──
わー、そうなんですね。
ラヂヲ
伊勢海老も、いいなあ。
伊藤
この伊勢海老も、よく動くんですよ。
──
伊勢海老らしく?
伊藤
本物の伊勢海老のように動きますね。
ラヂヲ
めっちゃ「Wi-Fi」出しそう。
──
たしかに(笑)。
とりわけ強い電波を出しそうですね。
ラヂヲ
出すぞこれは。伊勢海老型ルーター。

伊藤
と、いうような感じで‥‥(笑)。
──
わあ、ありがとうございました。
おもしろかったです。
竹之内
先生、何か作品でも描かれますか。
ラヂヲ
じゃあ、龍、描いておきますか。
──
ああ、そうですね。せっかくですし。
ラヂヲ
あの‥‥(描きながら)誰だっけ、
昔の総理大臣でこんな人おったやん。

──
いましたか?
ラヂヲ
ホラ、あの人‥‥‥‥‥村山さんか。
──
あー、村山富市さん。社会党の。
たしかに似ているかも。ぽいですね。
ラヂヲ
そうこう言ってるあいだに‥‥ハイ。
できた。できました。
村山元総理と
「ネバーエンディングストーリー」
のファルコンと、
東宝映画の『海底軍艦』に出てきた
マンダって怪獣を足して、
3で割ったような、割らないような。
──
足しっぱなしですか(笑)。
ああ、でも、いいですね。素敵です。

和田ラヂヲ筆 村山元総理とファルコンとマンダを足した龍
令和2年(2020) 和田ラヂヲ筆 村山元総理とファルコンとマンダを足した龍 令和2年(2020)

竹之内
続きましては「刀剣」コーナーです。
今、刀や剣をモチーフにした
『刀剣乱舞』というゲームがあって、
女性に大人気なんですけど、
先生、みなさま、ご存知でしょうか。

福岡一文字吉房作 太刀 銘 吉房 号 岡田切(国宝) 鎌倉時代・13世紀 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 福岡一文字吉房作 太刀 銘 吉房 号 岡田切(国宝) 鎌倉時代・13世紀 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

ラヂヲ
わたしの知らない世界ですね。
──
あなたの知らない世界でなく。
竹之内
三日月宗近という
イケメン男子のキャラがいますけど、
もともとは太刀の名前で、
この館で所蔵している国宝なんです。
──
何でもあるんですね‥‥東博さん。
ちなみに「名刀」と呼ばれる刀って、
他と何がちがうのでしょうか。
竹之内
やはり刀身の「刃文」というものが、
イケメンかどうか‥‥だそうです。
──
刃文にも「イケメン」がある?
竹之内
そのようです。
当然、切れ味もあるでしょうし、
誰がつくったか、
ということもあるとは思います。
──
ははあ。
竹之内
先ほどの三日月宗近という作品など、
天下五剣のひとつなんですが、
平安時代につくられたとされてます。
そうした歴史的名刀が錆びないよう、
刀を研ぐための部屋があるんですね。
そこは北向きの明りが採れる部屋。
自然光の中で作業する部屋なんです。
──
北向きの自然光。
竹之内
直接、太陽の光が入らないことで、
部屋全体が安定した明るさとなって、
刀の手入れに最適のようですね。
ラヂヲ
この太刀も鎌倉時代につくったって。
鎌倉って「いざ鎌倉」のアレでしょ。
──
とんでもなく昔の刀ですが、
いま生まれたかのような煌めきです。
竹之内
最高の国宝ですね。
──
たしかに‥‥見入ってしまいますね。
妖しい魅力とは、まさにこのこと。
ラヂヲ
野菜を切ったりとかはしないのかな。
──
国宝でですか(笑)。
ラヂヲ
アジを3枚におろしたりとか。
竹之内
ご容赦ください(笑)。

(つづきます)

2021-01-29-FRI

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