特別展には、大勢の人が集まりますね。
さまざまな切り口で、
国内外から美術作品を集めてきては、
おもしろく見せてくれるから。
でも、常設展に並んだ所蔵作品にこそ、
その美術館の個性が出るもの。
日本の国宝が迎えてくれるし、
パリへ行かずとも、ピカソに会えるし。
そこで、各館の常設展示をめぐって
所蔵する作品を見せていただく、
何とも贅沢なシリーズを、はじめます。
まずは、日本のミュージアムの起源、
上野の東京国立博物館さん。
記念すべきシリーズ第1弾なので、
和田ラヂヲ先生とうかがってきました。
お話をしてくださったのは、
東博の竹之内勝典さん、
伊藤信二さん、河野正訓さんです。
ラヂヲ先生の手には、
万が一に備えて(?)スケッチブック。
準備は万端。
担当はほぼ日奥野です。お楽しみあれ!
- ──
- すみません、ちなみになんですけれど、
自在置物というのは、
どういうわけで、自在に動くんですか。
- 伊藤
- こまかなパーツをいくつも、いくつも、
つくって重ねているんですが、
それらを揺らぐように、
ゆるく組み上げて動くようにしてます。
- ──
- ああ、わざと、ゆるく。
- 伊藤
- 先ほどの「自在龍置物」も、
足なんかもガシャガシャと動きますし、
爪のような細かい部分も、
口だって、
生きてるようにパカパカと開くんです。
- ラヂヲ
- なるほど。
- 伊藤
- 兵庫県の姫路のあたりに、
チンチン鳴る明珍火箸というものが
あるんですけど、
それも、こちらの明珍さんの系譜。 - もともとの生業から枝別れして、
火箸とか馬具のクツワ、ツバなども、
つくっていたんです。
- ──
- そうなんですね。
- 伊藤
- つまり、じょじょに甲冑以外の仕事が
派生していったということです。 - こうした自在置物もそのひとつで、
もしかしたら、お殿さまに
献上したものなのかもしれません。
- ラヂヲ
- うれしいよね。これ、もらったら。
- ──
- もらってうれしいプレゼント(笑)。
でも、たしかに。
- 伊藤
- 明治時代には輸出するようになって、
こうした自在置物は、
海外にもたくさん保管されています。 - こちらの蛇なんかは、
いまは「1本」のスタイルですけど、
完全にトグロも巻けますんで。
- ラヂヲ
- 1本でもよし、トグロでもよし。
- 伊藤
- ただし、この自在の蛇というものは
数が相当あるんです。 - 高瀬好山さんという人が、
明治のころに、
たくさんの自在置物をつくっていて、
輸出もしていたんです。
- ──
- 産業化していたんですね。
- ラヂヲ
- 海外に売るほどつくってたって。
お好きだったんでしょうなあ。
- 伊藤
- セミ、クワガタ、ヒラタクワガタ、
カブトムシ、ミヤマクワガタ、
ノコギリクワガタ、ハチ、カマキリ。 - 昆虫も、いろいろ。いいですよ。
- ──
- 以前、京都の清水三年坂美術館で、
超絶技巧の工芸品を
取材したことがあるんですけれど。
- 伊藤
- ああ、あそこにもたくさん、
自在の作品が収蔵されてますよね。 - この時代の傑作が、
現代の作家にも影響を与えてます。
自在をつくる若手作家、
いまでも、たくさんいるんですよ。
- ──
- たしか『美術手帖』だったか、
雑誌で特集されてるのも見ました。
- 伊藤
- それらの「おおもと」をたどると、
さっきの龍に行き着くんです。
- ラヂヲ
- あの蛇、さっきから
めっちゃ目が光ってるんですけど。
- 伊藤
- 金をはめこんでいるので。
- ──
- わー、そうなんですね。
- ラヂヲ
- 伊勢海老も、いいなあ。
- 伊藤
- この伊勢海老も、よく動くんですよ。
- ──
- 伊勢海老らしく?
- 伊藤
- 本物の伊勢海老のように動きますね。
- ラヂヲ
- めっちゃ「Wi-Fi」出しそう。
- ──
- たしかに(笑)。
とりわけ強い電波を出しそうですね。
- ラヂヲ
- 出すぞこれは。伊勢海老型ルーター。
- 伊藤
- と、いうような感じで‥‥(笑)。
- ──
- わあ、ありがとうございました。
おもしろかったです。
- 竹之内
- 先生、何か作品でも描かれますか。
- ラヂヲ
- じゃあ、龍、描いておきますか。
- ──
- ああ、そうですね。せっかくですし。
- ラヂヲ
- あの‥‥(描きながら)誰だっけ、
昔の総理大臣でこんな人おったやん。
- ──
- いましたか?
- ラヂヲ
- ホラ、あの人‥‥‥‥‥村山さんか。
- ──
- あー、村山富市さん。社会党の。
たしかに似ているかも。ぽいですね。
- ラヂヲ
- そうこう言ってるあいだに‥‥ハイ。
できた。できました。 - 村山元総理と
「ネバーエンディングストーリー」
のファルコンと、
東宝映画の『海底軍艦』に出てきた
マンダって怪獣を足して、
3で割ったような、割らないような。
- ──
- 足しっぱなしですか(笑)。
ああ、でも、いいですね。素敵です。
- 竹之内
- 続きましては「刀剣」コーナーです。
- 今、刀や剣をモチーフにした
『刀剣乱舞』というゲームがあって、
女性に大人気なんですけど、
先生、みなさま、ご存知でしょうか。
- ラヂヲ
- わたしの知らない世界ですね。
- ──
- あなたの知らない世界でなく。
- 竹之内
- 三日月宗近という
イケメン男子のキャラがいますけど、
もともとは太刀の名前で、
この館で所蔵している国宝なんです。
- ──
- 何でもあるんですね‥‥東博さん。
- ちなみに「名刀」と呼ばれる刀って、
他と何がちがうのでしょうか。
- 竹之内
- やはり刀身の「刃文」というものが、
イケメンかどうか‥‥だそうです。
- ──
- 刃文にも「イケメン」がある?
- 竹之内
- そのようです。
- 当然、切れ味もあるでしょうし、
誰がつくったか、
ということもあるとは思います。
- ──
- ははあ。
- 竹之内
- 先ほどの三日月宗近という作品など、
天下五剣のひとつなんですが、
平安時代につくられたとされてます。
そうした歴史的名刀が錆びないよう、
刀を研ぐための部屋があるんですね。 - そこは北向きの明りが採れる部屋。
自然光の中で作業する部屋なんです。
- ──
- 北向きの自然光。
- 竹之内
- 直接、太陽の光が入らないことで、
部屋全体が安定した明るさとなって、
刀の手入れに最適のようですね。
- ラヂヲ
- この太刀も鎌倉時代につくったって。
鎌倉って「いざ鎌倉」のアレでしょ。
- ──
- とんでもなく昔の刀ですが、
いま生まれたかのような煌めきです。
- 竹之内
- 最高の国宝ですね。
- ──
- たしかに‥‥見入ってしまいますね。
妖しい魅力とは、まさにこのこと。
- ラヂヲ
- 野菜を切ったりとかはしないのかな。
- ──
- 国宝でですか(笑)。
- ラヂヲ
- アジを3枚におろしたりとか。
- 竹之内
- ご容赦ください(笑)。
(つづきます)
2021-01-29-FRI