特別展には、大勢の人が集まりますね。
さまざまな切り口で、
国内外から美術作品を集めてきては、
おもしろく見せてくれるから。
でも、常設展に並んだ所蔵作品にこそ、
その美術館の個性が出るもの。
日本の国宝が迎えてくれるし、
パリへ行かずとも、ピカソに会えるし。
そこで、各館の常設展示をめぐって
所蔵する作品を見せていただく、
何とも贅沢なシリーズを、はじめます。
まずは、日本のミュージアムの起源、
上野の東京国立博物館さん。
記念すべきシリーズ第1弾なので、
和田ラヂヲ先生とうかがってきました。
お話をしてくださったのは、
東博の竹之内勝典さん、
伊藤信二さん、河野正訓さんです。
ラヂヲ先生の手には、
万が一に備えて(?)スケッチブック。
準備は万端。
担当はほぼ日奥野です。お楽しみあれ!
- 竹之内
- お次は「漆工」のお部屋になりますね。
さっそくですが、こちらが国宝の。
- ──
- 国宝の!
- 竹之内
- 尾形光琳作「八橋蒔絵螺鈿硯箱」です。
- ──
- ひゃあ〜、これが国宝!
先生、国宝です。描いておかれたほうが。
- ラヂヲ
- 国の宝ね。どれどれ。
- ──
- 国宝というものは、
お宝の中でもすごいもの‥‥ということ?
- 竹之内
- すごいものイコール国宝というわけでも
ないと思うんですが、
当館所蔵のものですと、
比較的、日本絵画が多かったり、
ジャンルによって、その数はちがいます。 - 硯箱の場合は、
平べったい形、中が層になっている形、
いろいろあるんですが、
それぞれのタイプで、国宝はひとつです。
- ──
- でも、見れば見るほど、素晴らしいです。
- 花びらの部分、貝殻を埋め込んでますね。
ギターの装飾とかでもよく見ます。
- 竹之内
- これを「螺鈿(らでん)」と言いますね。
- ちなみにですが、この硯箱のレプリカを
ミュージアムショップで販売しています。
- ──
- へぇ‥‥レプリカ。国宝の?
- 竹之内
- はい、サイズはひと回りちいさいですが。
お値段は「300万円」でございます。
- ──
- そんな金額ですか(笑)。
- ラヂヲ
- ほんとですか?
- 竹之内
- ほんとです。300万円です。
- ラヂヲ
- びっくりするなあ(笑)。
- ──
- それって‥‥売れるんですか。正直。
- 竹之内
- 年にいくつかは。ありがたいことに。
- ──
- ご自宅に、尾形光琳の硯箱‥‥。
レプリカとは言え300万円の。
- 竹之内
- ちなみにですが、国宝や重要文化財は、
1年に60日しか展示してはいけない、
という決まりがございますので、
レプリカをおもとめいただけましたら、
一年中、ご自宅で
この綺羅びやかさを楽しめますよ。
- ラヂヲ
- 強くオススメされている(笑)。
- ──
- じゃ、いま、この硯箱を見られるのは、
ラッキーなんですね、つまり。
- 竹之内
- はい、当館の収蔵品は、
当館だけで「60日間」ではなくて、
その半分くらいは、
国内の他の博物館や美術館に
お貸し出ししていますし。
- ──
- おいくらくらいで、借りれるんですか。
ぶっちゃけたところ。
- 竹之内
- 貸し出し料金はいただいておりません。
- ──
- えっ、お金、要らないんですか?
- 海外から名画を借りたりなんかしたら、
すごい金額だと思うんですけど。
- 竹之内
- はい、いただいておりません。
- 日本の国宝というのは、
みんな共通の財産という意識ですから。
- ラヂヲ
- えらい!
- 竹之内
- また、とくに当館は国立の施設ですし、
税金で成り立っていますので。
- ──
- でも当然、どこへでも
貸し出しているわけではないですよね。
- ラヂヲ
- うちのリビングとかね。
- ──
- テレビの横に国宝が‥‥とか(笑)。
- 竹之内
- 温度や湿度の管理や学芸員の在籍など、
さまざまな条件がございまして。 - その条件を完全に満たした、
きちんとしたところでないと無理です。
- ──
- 先生のお宅のリビングに学芸員は‥‥。
- ラヂヲ
- おるかい。そんな人。
- 竹之内
- この尾形光琳の「八橋蒔絵螺鈿硯箱」、
こちらのすごいところは、
箱を開けると
「波」が表現されているんですけれど。
- ──
- 波。
- 竹之内
- はい、平安期の『伊勢物語』の一場面を
描いたものなんですが、
これが、本当に、素晴らしいんです。 - 箱を開けて内側を展示することもあって。
- ──
- こういった「国宝」というものは、
ここへ収蔵される前は
どこで保管されていたんでしょうか。
- 竹之内
- 多くは大名家がお持ちになっていて、
博物館に寄付されたり、
博物館が購入したりしていますね。
- ラヂヲ
- 個人で維持するのはタイヘンでしょうな。
他に国宝というと、何があるんですかね。
- 竹之内
- はい、たとえば、
長谷川等伯という人の「松林図屏風」は、
当館でも有名な国宝のひとつ。 - 薄い墨の濃淡で、松林を描いた作品です。
毎年、お正月に展示をしているんですが。
- ──
- 謎が多いんですよね、いろいろと。
描いた等伯も描かれた「松林図屏風」も。
- 竹之内
- はい、そうこうしているうちに、
ミュージアムショップの前に参りました。
- ラヂヲ
- あ、300万円。
- 竹之内
- はい、お見せいたしますね。こちらです。
- ラヂヲ
- でた!
- ──
- 本当に300万円だ。
というか、税込みで330万円だ。
- 竹之内
- カードもお使いいただけますので。
- ラヂヲ
- 限度額、超えとるし。
- 竹之内
- でも、ほら‥‥美しいでしょう。
- ──
- はい。たしかに‥‥美しいけれども‥‥。
- ちなみに、300万円てお値段の根拠は、
何なのでしょう。素材、技術ですか?
- 竹之内
- はい、レプリカだから
そのあたりどうなのと思われるんですが、
この硯箱も、
本物に劣らない技術を注ぎ込んでいます。 - ですので、おっしゃるとおり、
お値段の「300万円」に見合う技術が
費やされているのです。
- ラヂヲ
- 国宝のレプリカだから300万円だって
わけではなく、その価値のあるものだと。
- 竹之内
- もちろん本物の貝の「螺鈿」ですし、
この商品は、やはり実際に購入されて
手に取ってみてはじめて、
その真価がわかろうかと思いますね。
- ラヂヲ
- めっちゃオススメされてる‥‥。
- ──
- 先生、買えそうですか。
- ラヂヲ
- フタだけなら‥‥
がんばって漫画を描けば、何とか‥‥。
- 竹之内
- あちらに硯箱のクッキー缶がありますが、
それなら1000円です。
- ──
- あ、それなら買える。いま買える(笑)。
- ラヂヲ
- しかも、クッキーが入っているんでしょ。
レプリカよりおトクじゃないか!
- ──
- 300万円のレプリカには、
クッキーは入っていませんもんね。
- ラヂヲ
- てことは、レプリカにクッキーを入れたら、
もっと高くなるってことだな。
- ──
- そうですね。クッキーのぶんだけ。
しかも、たくさん入りそうですし。
- 竹之内
- お入れして、ご用意いたしましょうか?
- ラヂヲ
- いえ、大丈夫です(笑)。
(つづきます)
2021-01-30-SAT