特別展には、大勢の人が集まりますね。
さまざまな切り口で、
国内外から美術作品を集めてきては、
おもしろく見せてくれるから。
でも、常設展に並んだ所蔵作品にこそ、
その美術館の個性が出るもの。
日本の国宝が迎えてくれるし、
パリへ行かずとも、ピカソに会えるし。
そこで、各館の常設展示をめぐって
所蔵する作品を見せていただく、
何とも贅沢なシリーズを、はじめます。
まずは、日本のミュージアムの起源、
上野の東京国立博物館さん。
記念すべきシリーズ第1弾なので、
和田ラヂヲ先生とうかがってきました。
お話をしてくださったのは、
東博の竹之内勝典さん、
伊藤信二さん、河野正訓さんです。
ラヂヲ先生の手には、
万が一に備えて(?)スケッチブック。
準備は万端。
担当はほぼ日奥野です。お楽しみあれ!
- ──
- この、大きくて重厚な扉を開けると、
どんな世界が広がっているんですか。
- 竹之内
- さっきの「モナ・リザ」のお部屋に
バルコニーがあるんですが、そこに。 - 特別な方が室内を上から眺めるために
つくったのではないかと思います。
現在では、この扉を開けて
中をお見せることはなくて、
お正月には、扉を開けて生け花を置いています。
- ──
- 先生、コンセントがありますよ。
- ラヂヲ
- あるね。チェックしてたよ。
コンセント漫画家として。
- ──
- 東博さんのコンセント。
どこか「作品」に見えてくるなあ。 - 使えるんですか。
- 竹之内
- もちろん、使えます。
- ラヂヲ
- 使えないコンセントは、
コンセントとは言えないでしょう。
- 竹之内
- みなさまをご案内したいお部屋が、
この先にあるんですが‥‥。
- ──
- えっ、どんなお部屋ですか?
- 竹之内
- 便殿というお部屋になります。
- ──
- びんでん。
- 竹之内
- 皇室の方や国賓がお見えになった際、
お休みどころとして使われています。 - 以前には、
上野駅や皇室の方が立ち寄る施設には、
「便殿」が、あったんです。
こちらです。よろしければ、どうぞ。
- ラヂヲ
- えっ、入っていいんですか?
- 竹之内
- 和田ラヂヲ先生ご一行さまですから、
本日は、特別に。
- ──
- うわー、うれしい。先生のおかげ!
あ、なんだか、ものすごい静かだ。
- 竹之内
- ここにも宝相華が描かれています。
あちらこちらに。
- ラヂヲ
- 照明もおもしろいね。
- ──
- 先生、立派なコンセントがあります!
- 和田
- どれどれ。これは‥‥‥‥!
- ──
- 金色です。デコってます。
- ラヂヲ
- このタイプは見たことないなあ。初見だ。
- ──
- さすがは便殿!
- コンセント漫画家で名高いラヂヲ先生を
うならせるコンセントがあるとは!
- 竹之内
- 光栄です(笑)。
- ──
- でも‥‥みんなでコンセントを見ている。
これは、どういう状況なのか(笑)。
- ラヂヲ
- 他に見るべきところがあるんじゃないか。
- 竹之内
- 昭和50年代に修理しているんですけど、
建築当時の意匠を再現しているんです。
- ラヂヲ
- すばらしい。
- 竹之内
- こちら側の窓のシャッタ―を開けたいと
思っているんです、将来的には。 - 窓を開けた先には江戸城があったんです。
ここは寛永寺本坊跡地なのですが、
江戸城の「鬼門」にあたる場所なんです。
- ──
- そうなんですね。へぇ‥‥。
- 竹之内
- 京都の平安京の安定を
江戸の地でも再現したいということで、
江戸城を京都御所に見立て、
鬼門に寛永寺を、
裏鬼門に増上寺をつくったんです。 - 不忍池の配置なども、
京都御所と琵琶湖の位置と同じように。
- ──
- いやあ、つくづく勉強になります。
- 竹之内
- で、そのような構成を考案されたのが、
天海というお坊さん。 - 安土桃山時代から江戸初期にかけての
天台宗の大僧正なんですが。
- ──
- 天海さん。
- 竹之内
- 江戸を設計した人とされていますけど
本能寺の変のあと、
殺されず、
生き延びた明智光秀だった‥‥という
都市伝説も持っている人です。
- ラヂヲ
- へええ。何でもできる人だったんだね。
- 竹之内
- ここでもうひとつ国宝をご覧ください。
- ──
- はい。拝見します。
- 竹之内
- こちらが、有名な「古今和歌集」です。
- ──
- わあ、これが「古今和歌集」ですか!
- 竹之内
- はい。「古今和歌集」の元永本ですね。
- 平安時代に書き写された
「古今和歌集」は数多いんですけれど、
仮名序と20巻が
すべて、完全にそろったものとしては、
こちらが最古の写本となります。
- ──
- ひゃー‥‥。紙がすごい。模様入り。
- 竹之内
- 紫や赤、茶などの色を染めた地に、
唐草、七宝などの中国風の文様を
雲母(きら)で刷り出して、
その上に
金銀の箔や粉をまいているんです。
- ──
- そんなものが、
12世紀‥‥1000年近く前から、
残っているだなんて。
- ラヂヲ
- いやあ、本当ですな。すごいよ。
- 竹之内
- 仏教というものが日本に入ってから、
さまざまな表現で、
仏さまがつくられるようになります。 - こういった涅槃図という絵も、
たくさん描かれるようになりました。
- ラヂヲ
- 寝とるなあ。
- 竹之内
- 中央で横たわるお釈迦さまの周囲に、
お弟子さんたちが、たくさん。
- ──
- 14世紀の鎌倉時代の作。
こんな絵を、描いていたんですねえ。
- ラヂヲ
- まじまじ見ると、おもしろいよ。
- 竹之内
- なかなか、鮮明に残すということが
難しいのですが、
当時は、もっといろんな絵が、
たくさん描いてあったと思うんです。
- ラヂヲ
- これってアレですかね。
画面に、十二支が入ってるんですか。
- 竹之内
- はい、おっしゃるとおりです。
- こういったものには
すべて作法、ルールがありますので。
必ず、描かなければいけないものが。
- ラヂヲ
- 鳥とか犬とか。めっちゃ寝てるし。
- ──
- 本当だ。かわいい(笑)。
- ラヂヲ
- これもええ顔しとるな。それも全員。
- ──
- 「三酸図」‥‥さんさんず?
- ラヂヲ
- 何だか、バカにされてる気がするぞ。
いいなあ(笑)。
- ──
- 「蘇軾(そしょく)、黄庭堅(こうていけん)、
仏印禅師(ぶついんぜんじ)が
瓶に入った酢をなめて酸っぱい顔をしています。
儒教・道教・仏教の教えが
根本的には同じだという、
三教一致の思想を比喩的に表すもの。
アクの強い面貌が何ともユニークです。
作者の輞隠は
狩野派の画家・之信とする説が有力です」 - ‥‥だそうです。それでこの顔。
- ラヂヲ
- 酢をなめて、酸っぱい顔をしてる顔の絵でしょ。
当たり前だけど、素晴らしいじゃないか。
- ──
- 素人の感想ですみませんが、
何でも絵になるもんですね。
- ラヂヲ
- ほんとだよね(笑)。
料理の「さしすせそ」の絵が全部あったりして。
- ──
- 砂糖であまーいとか、
お醤油でしょっぱーとかですか。ははは(笑)。
- 竹之内
- この絵は「三教一致」の思想を表現したもので
儒教・道教・仏教、
3つの教えのどの立場に立っても、
酸っぱいものは酸っぱい、
真理はただ一つということを表しているのです。
- ──
- そんなに深い絵だったんですね‥‥。
(つづきます)
2021-01-31-SUN