こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
この不定期連載「常設展へ行こう!」が
書籍化されました! うれしい!
‥‥ということで、書籍化の記念として
東京国立博物館さんに、
またまた、ラヂヲ先生と行ってきました。
今回は主にアジアの文化財を収蔵する
東洋館を、たっぷり解説いただきました。
先生の手には、当然スケッチブック!
シリーズの最新話として、
また書籍の続編としてお楽しみください。
なお、東博さんでは、ことし2024年も
1月2日(火)〜14日(日)まで
長谷川等伯による国宝《松林図屏風》を
本館2室にて展示するそうです!
お正月に見る大人気の国宝は、また格別。
ぜひ、足をお運びください。
- ──
- 竹之内さん、ご無沙汰しております。
- 本館をご案内いただいた前回に続き、
本日は、こちら東洋館を
ガイドしていただけるということで、
とても楽しみにしてきました。
- 竹之内
- ありがとうございます。
こちらこそ、ご無沙汰しております。
- ラヂヲ
- ギャグ漫画家の和田ラヂヲです。
- ──
- 本日も、はるばる松山から
飛行機で飛んできてくださいました。
- 竹之内
- ありがとうございます!
再度、東博へお越しいただきまして、
たいへん光栄です。 - さっそく東洋館のご紹介ですが、
こちらの建物は
建築家の谷口吉郎さんが
奈良の東大寺正倉院をイメージして
設計されたそうです。
- ──
- おお。正倉院。
- 竹之内
- ちなみに、あちら表慶館の後方には
「法隆寺宝物館」があります。
そちらは谷口吉生さん、
つまり
谷口吉郎さんの息子さんの設計です。
- ──
- なんと、親子で。東洋館と宝物館を。
すばらしいですね。
ちなみにですけど、
東洋館っていつからあるんでしょう。
- 竹之内
- 本館ができたのは1938年、
すなわち昭和13年ですが、
東洋館は1968年、
昭和でいうと43年になります。
- ラヂヲ
- 俺より年下じゃないか。
- ──
- ラヂヲ先輩! ‥‥と、東洋館が。
- 竹之内
- 1968年に誕生したあと、
10年前にリニューアルしました。 - 建物の躯体は変えずに、
中身を、だいぶ新しくしました。
こちらが原田と申しまして、
当館の企画課長をやっております。
- 原田
- はい、原田と申します。
本日は、よろしくお願いいたします。
- 竹之内
- 原田は、企画課長として、
東京国立博物館で開催する特別展を
取り仕切る役割なんが、
専門は「東洋美術」でして、
東洋室の室長も兼務しています。 - 今日はもうひとり、
当館の研究員の小野塚も
同席させていただきます。
- 小野塚
- はじめまして、小野塚と申します。
中近東を専門にしています。
- ──
- 今日はよろしくお願いいたします!
- ぼくら完全にド素人の集団ですので、
「ああ、これはアレですね!」
とか言えないため、
「これは、こういうものなんですよ」
と、みなさまのほうから
教えていただけるとうれしいです!
ですよね、先生?
- ラヂヲ
- そうです。
- ──
- さすがにこれくらい知ってるだろう、
ということも、
おどろくほど知りませんので‥‥。
- ラヂヲ
- 油断は禁物です。
- 原田
- わかりました。そうしましたら、
歩きながらで、よろしいでしょうか。 - 東洋館はまず建物がおもしろいです。
入っていただくと、
真ん中に吹き抜けの空間があります。
- 小野塚
- いわゆる「スキップフロア」ですね。
半階段をくるくる登っていくような。
- ラヂヲ
- 上がっていくのがいいんでしょうか。
下がってくるのがいいんでしょうか。
- 小野塚
- どちらでも。お好みで。
- ラヂヲ
- じゃあ‥‥上がっていきましょうか。
ブルース・リーのように。
- ──
- つまり『死亡遊戯』のスタイルで。
- 竹之内
- それでは1階から5階まであがって、
最後にエレベーターで
地下1階の展示室へまいりましょう。 - ああ、そうそう、この壁のタイルは、
10年前のリニューアル時に、
劣化してしまったものだけを、
同じように、つくりなおしています。
ごらんいただくと、
一枚一枚に線の模様が入っています。
- ──
- 入ってます。たしかに。
- 竹之内
- これはですね、ロールケーキに
線を引くみたいな道具が
百均で売っているそうなんですけど、
それをうまく活用して、
ひとつひとつ線を引いているんです。 - つくりなおした「2万枚」すべてに。
- ──
- にっ、2まんまい!?
- 竹之内
- はい、2万枚ほぼ手づくりなんです。
岐阜県の工房でつくっていただいて。
- ──
- 2万枚のタイルを、
ロールケーキに線を引くアイテムで、
一枚一枚、手でつくった。
もう、これからして「作品」ですね。 - 東博さん、
あいかわらずスケールがデカいです。
それなのに
道具が百均で売ってるやつかもって、
親しみやすいところも、すごくいい。
- 竹之内
- おそれいります。
- 原田
- さっそく、展示を見ていきましょう。
- 1階は中国の彫刻を展示しています。
東洋館は1968年にできましたが、
アジア諸国の文化財は、
もう150年くらい前から
東博に集まりはじめていたんですね。
- ──
- つまり東洋館のできるずっと前から。
- 原田
- この東洋館は、そのようにして
東博へ集まってきた
アジアの
さまざまな文化財を展示するために
つくられたのです。
- ──
- なるほど。
- 原田
- ここ東洋館に展示されている
アジア各地の文化財は、
もともとは本館で展示していました。 - コンセプトとしては
日本文化の「源流」を考えるときに
アジアの文化財を比較展示する、
という文脈に置かれていたんですけど、
どんどん
コレクションが充実してきたので、
独立した展示場所をつくりましょうと。
- ──
- では、ここ東洋館には
日本の文化財はないということですか。
- 原田
- はい、基本的には展示しておりません。
- ラヂヲ
- どのへんまでをアジアというんですか。
ひとくちにアジアといいますが。
- 竹之内
- すばらしい質問です。
- ラヂヲ
- えっ‥‥そうでしょう(笑)。
- 原田
- 難しいんです、「アジア」というのは。
時代時代で
アジアの領域は変わってくるので。 - たとえば「東洋史」というと、
中国が中心になってくると思いますが、
ここで扱う「アジア」はもっと広い。
小野塚さんの専門でいうと、
いちばん西はどのあたりになりますか。
- 小野塚
- 地中海です。具体的には、
現在の「イタリア」あたりまでですね。
- ──
- えええっ、イタリア!?
めっちゃヨーロッパじゃないですか?
- 小野塚
- 現代的なイメージではそうなんですが、
じつのところ、
アジアとヨーロッパに境はないんです。
歴史的には、たとえばトルコが、
現在のヨーロッパの地域にまで
領域を広げていた時代もありましたし。 - 東洋館で展示している文化財の範囲、
という意味では、
地中海から
南太平洋の島々までが含まれています。
- ──
- 広大ですね‥‥!
- 原田
- まあ、そういった「東洋」の資料が
ここには2万件ほどあるんですけれど、
そのうち半分は、
中国、朝鮮半島由来のものなんです。 - やはり東アジアの文化財が
圧倒的に多いことはたしかなんですね。
- ──
- こういった仏像とか仏頭みたいなのも、
どこかの寺院から散逸して、
流れ流れてこの場所へというような? - それぞれいきさつがあって、
ここへ集まってきたんでしょうけども。
- 原田
- 東洋美術コレクションには、
中国漆工や中国北方青銅器を除けば、
館側が能動的に収集した作品は少なく、
さまざまなコレクターからの寄贈品や、
東洋館開設時の外国博物館との交換品が
中心となっています。 - 作品によっては、
購入したりというものもございます。
- 小野塚
- 戦前、20世紀の前半くらいには、
古美術のマーケットができていたので。
- 原田
- ただ、購入というかたちを取る場合は、
非常に厳格な審議がなされますし、
ご寄贈の場合でも、
いつくらいに収集されたのかなど、
さまざまな点に、気を配っております。
- ──
- と、おっしゃいますと?
- 原田
- 海外の文化財の場合は、
これは、もとあった場所へ返還すべき、
というケースもあるんですね。
- ──
- なるほど。経緯によっては。
- たとえば、ナチスの略奪品とかならば、
当然、返還すべきだと思いますが、
歴史の流れの中で散逸したものも、
返してあげるのが筋という場合もある。
- 小野塚
- ケースバイケースです。
そのもののたどった歴史によりますね。
- ラヂヲ
- 東博さんの半分は、
「やさしさ」でできてるっていうし。
- ──
- ですよね(笑)。
- 小野塚
- 誰かが持っていたものが略奪されたと
はっきりわかる場合は、
やはり道義的に、
真摯に対応していく必要がありますね。
- 原田
- ただ、日本にある海外の文化財は、
それこそ正倉院に入っているものなど、
古くから伝わるものも多い。 - あるいは、足利将軍家の人たちが
中国の「唐物」を集めたりですとか。
- ──
- ええ。
- 原田
- そうすると、日本に入ってきてから、
そのもの自体が
日本の中で歴史を積み重ねています。 - ですから、「どこで線を引くか」を
慎重に見極める必要があります。
ひとくくりに
「もともとあった場所に戻します」
ということは難しいのではないかと。
- ──
- そうですよね。わかります。
- 原田
- ともあれ、いろいろないきさつを経て、
広範なアジア地域から
集まってきたものが、
一堂に見られる場所としては、
日本では、唯一の場所だと思います。 - その意味で、ここ東洋館は、
地味かもしれませんが、
非常におもしろいところだと思います。
(つづきます)
2024-01-02-TUE
-
本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
第12回「国立西洋美術館篇」までの
12館ぶんの内容を一冊にまとめた
書籍版『常設展へ行こう!』が、
左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
紹介されているのは、
東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
横浜美術館、アーティゾン美術館、
東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
大原美術館、DIC川村記念美術館、
青森県立美術館、富山県美術館、
ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
本という形になったとき読みやすいよう、
大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
常設展が、ますます楽しくなると思います!
Amazonでのおもとめは、こちらです。