こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
この不定期連載「常設展へ行こう!」が
書籍化されました! うれしい!
‥‥ということで、書籍化の記念として
東京国立博物館さんに、
またまた、ラヂヲ先生と行ってきました。
今回は主にアジアの文化財を収蔵する
東洋館を、たっぷり解説いただきました。
先生の手には、当然スケッチブック!
シリーズの最新話として、
また書籍の続編としてお楽しみください。
なお、東博さんでは、ことし2024年も
1月2日(火)〜14日(日)まで
長谷川等伯による国宝《松林図屏風》を
本館2室にて展示するそうです!
お正月に見る大人気の国宝は、また格別。
ぜひ、足をお運びください。

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第2回 微笑む仏像。

──
なんとも立派な頭部ですね‥‥!
ラヂヲ
いま、目が合ったぞ。
──
あ、こちらの頭部の方と(笑)。

ラヂヲ
寝起きのような顔をしてるけど、
ご機嫌のようですなあ。
だってホラ、かなり笑ってるし。
原田
はい(笑)、そうですね。
仏像って、それぞれに
やさしげな顔をしていますけど、
北魏や隋の時代の仏さまって、
とくに微笑んでらっしゃいます。
──
アルカイック・スマイル的な。
いわゆるところの。
原田
そう言っていいと思います。
ラヂヲ
つまり、口もとが
ウルトラマンに似ているわけだ。
原田
そうです、そうです。
アルカイック・スマイルというのは
目が杏仁形(きょうにんぎょう)、
つまりアーモンドのような、
うつくしいカタチをしていながら、
口角がキュッと上がってる、
微笑んでいるような表情なんですね。
起源で言えば、
それこそ「古代の地中海世界」から。
小野塚
はい、
広大なユーラシア大陸を越えてきた
微笑みです。
ほんと、めちゃめちゃ笑ってますね。
いまあらためてまじまじ見ましたが、
すごい笑ってます(笑)。
竹之内
照明の当てかたも、いいんですよ。
担当の職員が、
そうとう試行錯誤して当ててます。
ここ東洋館は、
照明には少々こだわってますので。
──
おお、竹之内さんが誇らしげだ。
ドラマティックです。たしかに。
原田
リニューアルのとき、
どこに何を展示するか、その場合、
照明をどうするか‥‥について、
巨大なハリボテをつくって、
かなり検討したと聞いております。
こうした大きなお像は
いちど設置したら簡単に移動はできませんので
すべて、位置と照明を確認したらしいです。
──
ちなみに、
こちらの方の「胴体」って‥‥。
原田
実は、こちらの仏さまは
中国の龍門石窟にあったことがわかっています。
たいへん残念ながら、ある時期にはぎ取られ、
市場に流れてしまったものです。
ラヂヲ
顔がこの微笑みで、
下の胴体がどうなっていたのか、
知りたいですね。
めちゃくちゃ口角上がってるし、
めちゃくちゃ踊ってたりとかね。
──
想像してしまいます(笑)。
小野塚
これだけサイズのある仏像だと、
当時の人々は、
みんな「下から見上げた」わけです。
そのとき、どういう表情に見えるか、
というつくり方をしているはずです。
原田
この仏さまはもとは石窟寺院の
「岩肌」に彫られたものなのですが、
頭部は高い位置にあるので
大きめにつくってあげないと、
下から見上げたときに
アンバランスになってしまいますし。
──
ああ、小顔になっちゃう。
原田
ですから、このように屋内展示で
「現代の視線」で見ると、
やたら顔が大きいなと
お感じになるかもしれないですね。
──
当時の人々の「拝む視線」では、
よいバランスになっているはずだと。
ちなみに岩窟寺院ということは、
岩の壁を掘ってつくった仏像だった。
運ぶのも大変そうですね‥‥。
原田
そうですね。
現在のような輸送手段がないなかで、
近代には各国の探検隊は、
ラクダやロバなどで運んだわけですが、
東南アジアでは、王朝が代わるとき、
古い王朝のもとでつくられた
霊験あらたかなお像を運ぶんです。
石だけじゃなく、
ブロンズのすごい巨大な大仏とかも、
筏に乗せて川で運んだんですよ。
──
新しい首都へ移送したんですか。
原田
そうです。だけど城門に入らなくて
城門を壊して入れたみたいな、
そういう記録も残っています(笑)。
──
せっかくつくった新首都の城門を。
そこまでして、入れたかった。
原田
やっぱり威力があったと言いますか、
そのお像が持っているパワーを
新しい王都でも発揮してもらおうと
そういうことだったんでしょう。
あるお像を奪い合って戦争になった、
みたいな記録もあります。
これを持っていると、
何かすごいいいことあるぞみたいな。
ラヂヲ
うちにもひとつほしいね。
──
テレビの横に、このサイズの仏頭が
鎮座ましましていたら、
話題のドラマにも集中できませんね。

原田
ともあれ、ここ1階のフロアでは、
ごらんのように
中国の仏像ばかりを展示してます。
小野塚
東洋館では、アジア地域の
いろんな文化財を展示していますが、
バラエティの豊かさを生かして、
フロアごとに
地域別の展示をしているんです。
だから、ぐるっとひとまわりすると、
昔のアジア圏を旅する‥‥
みたいな、そういう感じがあります。
これだけ広い地域の文化財を
1カ所で見られる場所は、
なかなか、他にないと思うんですよ。
ラヂヲ
それも、パスポートなしで。
小野塚
そのとおりです。
原田
それでは2階へ参りましょう。
まず‥‥こちらのディスプレイでは
1世紀ころにギリシャ語で描かれた
「エリュトラー海案内記」
という書物を
デジタル画像で紹介しています。
西アジアから南アジアへの
旅の案内書みたいなものです。
──
現代でいう「旅行ガイド的」な。

原田
そうそう、おもしろいんですよ。
どこでどんなお土産が買えるみたいな、
そういうことも書かれていて。
──
おお、そんな耳寄り情報まで。
でも知りたいですもんね、お土産情報。
人間というのは、
昔から変わらないですね。いい意味で。
原田
4世紀ころには、
季節風という風を利用した
長距離航海も確立するんですが、
かならず「風待ち」があったんです。
だから、船乗りたちは
主要な港で
あるていど滞在することになります。
そこで、また
知らない地域から来た人々と交流して、
モノとモノが交換されて‥‥。
いまみたいに
飛行機でピョイと行けるわけじゃなく、
「風待ち」で
4カ月とか半年くらい待っていたので。
──
そんなに待ってたんですか。風を。
そう考えるとやっぱり
現代が、すごく特殊な時代に思えます。
だって、メール一発で‥‥。
小野塚
そう、どこにいてもつながってしまう。
──
ここにおられる先生に
「1週間で絵を描いてください」とか、
そんな無茶なお願いも‥‥。
ラヂヲ
そうですよ。おかしな話ですよ。
ぼくも、風を待ちたいですね。
こんど
風が悪いから描けないと言ってみよう。
原田
おもしろいのは、
遠方に旅立っていった船乗りたちが
土地土地の話を持って帰るんです。
それが「伝説」になるわけですけど、
どうも東のほうには、
金や銀がとれる島があるらしいとか。
──
おお。
原田
そのようなウワサに惹かれるように、
みんな東へ旅していくんですが、
アラビア方面の旅人のウワサ話には、
「ワクワクの木」
という木の生えている国が東にある、と。
──
ワクワク?
原田
はい、ワクワクです。
ワクワク島には不思議な木があるんだと。
その木には‥‥
何がなっていると思われますか。
ラヂヲ
金?
原田
いえ。
──
お宝?
原田
いえ。
なんと「女性がなってる」んです。
ラヂヲ
大丈夫かい(笑)。
原田
木になっている女性たちは、
悲しげに
「ワクワク、ワクワク」って泣くと。
そういうふしぎな木や金の国が
東の方にはあるというウワサ話で、
みんな、こぞって‥‥。
ラヂヲ
男たちがスケベ心というかエロ心で。
原田
まあ、はい(笑)。
ラヂヲ
エロはすごいな。やっぱり。
──
人々を突き動かしますね。
でも「ワクワク」って、
胸躍るという意味の日本語の擬音とは
ちがうんですか?
原田
それは「倭国」なんじゃないかと
解釈する説もあるのですけど、
いまの東南アジアあたりの島嶼部だという
説もあります。
一方、東南アジアの仏教説話には、
インドの雪山‥‥ヒマラヤの山の奥に
同じように
「女の子の生る木がある」というお話が
出てくるんです。
ラヂヲ
みんな似たようなこと考えるんだなあ。
──
本当ですね‥‥われわれ人類‥‥。
ラヂヲ
でも、
昔はインターネットもないわけでしょ。
そういう人の「ウワサ」が、
ものすごい距離を飛んでいったんだね。
──
とんでもない「尾ひれ」をつけて。
ラヂヲ
長い時間をかけて。びっくりするなあ。

(つづきます)

2024-01-03-WED

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  • 書籍版『常設展へ行こう!』 左右社さんから発売中!

    本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
    第12回「国立西洋美術館篇」までの
    12館ぶんの内容を一冊にまとめた
    書籍版『常設展へ行こう!』が、
    左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
    紹介されているのは、
    東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
    横浜美術館、アーティゾン美術館、
    東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
    大原美術館、DIC川村記念美術館、
    青森県立美術館、富山県美術館、
    ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
    日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
    本という形になったとき読みやすいよう、
    大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
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    この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
    常設展が、ますます楽しくなると思います!
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    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇