こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
この不定期連載「常設展へ行こう!」が
書籍化されました! うれしい!
‥‥ということで、書籍化の記念として
東京国立博物館さんに、
またまた、ラヂヲ先生と行ってきました。
今回は主にアジアの文化財を収蔵する
東洋館を、たっぷり解説いただきました。
先生の手には、当然スケッチブック!
シリーズの最新話として、
また書籍の続編としてお楽しみください。
なお、東博さんでは、ことし2024年も
1月2日(火)〜14日(日)まで
長谷川等伯による国宝《松林図屏風》を
本館2室にて展示するそうです!
お正月に見る大人気の国宝は、また格別。
ぜひ、足をお運びください。

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第3回 ミイラさん、こんにちは。

原田
ここからは西アジアが中心ですので、
小野塚にバトンタッチします。
──
よろしくお願いします!
小野塚
ここでは、西アジアやエジプトなど、
もっとも古い文明が興った地域、
いま、中東と呼ばれているあたりの
古代の美術品、出土品を展示しています。
──
はい。
小野塚
アジアという概念がまだ存在しない、
紀元前の時代からの文化財です。
先ほども申し上げましたが、
アジアとヨーロッパに境はなかった。
ある地域である製品をつくるのに、
アフガニスタンの材料のものもあり、
地中海の材料のものもあり。
現代のグローバル世界のように、
すべてがひとつに繋がっていました。
ラヂヲ
あ、ドーハの悲劇のドーハもあるぞ。
アレはどこかな、
ほら、お金持ちがたくさん住んでる‥‥。
小野塚
ドバイは、このあたりにありますね。
アブダビのとなり。
──
見た目の統一的な特徴ってありますか。
小野塚
地域によってさまざまな特徴があります。
広大なエリアなので。
いちばんわかりやすいのが
エジプトの文化財じゃないかなあと
思うんですが、
たとえば、こちらのミイラですとか。
ラヂヲ
ミイラや!

──
照明を暗くしているのは‥‥。
ラヂヲ
寝てるから?
──
起こさないように(笑)。
さすがは「やさしさの東博」さん。
ラヂヲ
むっくり起きたらビックリするね。
「まぶしいじゃないか!」
小野塚
はい(笑)。
実際は、光を当ててしまうと
彩色や布が劣化してしまうんです。
このミイラは
ここにずーっと展示してますので、
できるかぎり、やさしく。
──
すごいです‥‥この方もともとは
とんでもなく昔に、
ぼくらと同じように
話して笑って食べて泣いて‥‥
実際に生きていた人なんですよね。
そんなお方と、時空を超えて、ご対面。
当たり前ですけれど、
あらためて、すごいことだと思います。
小野塚
ぼくも、たとえば
CTで骨を調べようとかっていうとき、
ここからラボまで
やさしく連れていくわけですが
そのときに、やっぱり、
この方は同じ人間なんだと感じますね。
接していると「友情」みたいな感情も
生まれてきたりするんです。
──
おお‥‥!
小野塚
ぼくらと同じようにこの世に生まれて、
人生を送ってきた人なんです。
であるならば、当然「人格」もあるし。
だからなるべく、居心地よく‥‥って。
ラヂヲ
ぐっすり眠っておくれと。
小野塚
ケースの中は酸素をなるべく薄くして、
窒素で満たしています。
劣化の原因となる、酸化を防ぐために。
いわゆる「VIP待遇」ですね(笑)。
ラヂヲ
生きてる人で酸素室に入る人がいるね。
──
ああ、酸素カプセル。若返りみたいな。
ラヂヲ
あれに近いのかも。
窒素なら「年をとりにくい」という。
──
この人、えらい人だったんですか?
小野塚
はっきりとはわからないんですけれど、
3000年前くらいの方で、
非常に丁寧に
ミイラの処理を施されているんです。
おそらく、当時でも
けっこうな財産を持っていなかったら
できないような処置なんです。
金と同じくらい価値があるといわれる、
貴重な香料がたっぷりかけられていたり。
ですので、
身分は高い人だったのかなと思います。
──
そんな人が、たまたま日本へ来て‥‥。
小野塚
はい、人気者になったんです。
この現在の待遇についてだけ言ったら、
ひょっとしたら
ファラオのミイラよりも
いい環境で快適にすごしておられます。

パシェリエンプタハのミイラ 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) パシェリエンプタハのミイラ 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

ラヂヲ
方角は大丈夫なんですか。枕の。
──
気にされますか、そこ。
小野塚
どっちが北だろう‥‥。
ラヂヲ
めちゃくちゃ怒ってたりしてね。
「方角がちがうじゃないか!」(笑)。
小野塚
ミイラの頭の方角については、
埋葬の際に
ルールはなかったのではないかと。
建物の軸には、
こだわっていたりはするんですけれど。
──
いつからいらっしゃるんですか?
小野塚
1904年ですから‥‥。
──
えええ、そんな昔からですか!?
小野塚
ちょうど来年で、来日120周年です。
竹之内
はじめて日本に来たミイラなんです。
明治時代、当館の前身である
帝室博物館に、エジプト考古庁の
ガストン・マスペロ長官が、
寄贈してくださったものなんですが。
ラヂヲ
はじめて日本に来たミイラ‥‥って。
すごい肩書きだなあ。
もっと大きな声で
それ言ったらいいんじゃないですか。
はじめて日本に来たミイラですと。
なかなか強いですよ、字面的に。

──
ちなみに男性なんです‥‥よね?
小野塚
そうですね。
アンクムートさんという女性の息子で、
パシェリエンプタハという名前です。
よく古代エジプトの人物は、
名前と一緒に称号‥‥たとえば
「軍の司令官」とか
「宝物庫の長官」とか、
身分を示す言葉が書かれるんですが、
この人の場合は、
なぜか名前しか書かれていないんです。
──
ほお。
小野塚
そこで、
まだ社会的なポジションに就く前の
若い男性だったんじゃないかと
ずーっと言われてたんですけれど、
CTを撮って骨を調べたら、
ふつうのおっさんだったんですよね。
ラヂヲ
ふつうのおっさんて(笑)。
小野塚
それで、「え?」ってなったんです。
それからというもの、
3000年前のニートじゃないかと‥‥。
ラヂヲ
いまはめっちゃはたらいてますけど。
──
たしかに。
ずーっと展示されているってことは
日本に来てから120年、
ほぼ休みなしで、がんばっていると。
小野塚
そうなんです。日本に来て、
はじめて一般に公開されたときには、
ものすごい行列ができたという
記録があります。
その日から多忙な人気者です。
ラヂヲ
日本に来て、
労働のよろこびに目覚めたのかなあ。
みんなが大行列してくれるし。
──
ちなみに「ミイラ」という名称って、
エジプトに限った話なんですか?
即身仏的なかたって
日本にもいらっしゃいますけれども。
小野塚
はい、エジプトに限ったものでなく、
世界の各地域に
いろいろな形態のミイラがいますね。
ラヂヲ
あるよね、マヤ文明とか。
──
それらもすべてミイラと呼んでいい。
小野塚
ミイラと呼んでいいです。
──
つくりかたっていうか、
そのへんは同じなんですか。全世界。
小野塚
あ、そこは気候などなどによっても、
かなり変わってきますね。
エジプトでは内臓をすべて取り出し、
ナトリウムや布を詰めたりして、
腐敗する部分を取り除いてから
乾燥させたりとかしているんですよ。
──
この方も、そうなってらっしゃる。
小野塚
はい、この人も。綺麗なものですよ。
ラヂヲ
なるほどねぇ‥‥おもしろいなあ。
竹之内
ちなみに以前、
東博にサッカーチームがありまして、
チーム名が「ACミイラ」でした。
ラヂヲ
おいおい(笑)。
──
東博のみなさん、
何かもう、本当におもしろいですね。
以前の取材でも思ったんですけれど、
日本の博物館の大元であり、
かつ揺るぎなき殿堂なのに、
そのイメージを裏切る、
意外すぎるやわらかさがステキです。
ラヂヲ
それにしてもギリギリじゃないか?
ACミイラって(笑)。

(つづきます)

2024-01-04-THU

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  • 書籍版『常設展へ行こう!』 左右社さんから発売中!

    本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
    第12回「国立西洋美術館篇」までの
    12館ぶんの内容を一冊にまとめた
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    左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
    紹介されているのは、
    東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
    横浜美術館、アーティゾン美術館、
    東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
    大原美術館、DIC川村記念美術館、
    青森県立美術館、富山県美術館、
    ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
    日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
    本という形になったとき読みやすいよう、
    大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
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    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇