ほぼ日の「老いと死」特集は、
佳境に入ってきました。
入ったからにはこの方に
ご登場いただかなくてはなりません。
みうらじゅんさんです。

このインタビューの動画は、
ほぼ日の學校でごらんいただけます。

>みうらじゅんさんのプロフィール

みうらじゅん

1958年、京都生まれ。イラストレーターなど。
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。
以後、作家、ミュージシャンなど、多方面で活躍。
1997年には「マイブーム」が
新語・流行語大賞のトップテンに選出。
「ゆるキャラ」の名づけ親でもある。
2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。
著書に『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』
『「ない仕事」の作り方』
『通常は死ぬ前に処分したいと思うであろう100のモノ』など。

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第1回 アウト老。

──
みうらさん、
そのヘビの杖はどういう‥‥?

みうら
これはずいぶん前にインドで買ったものです。
旅の空の下では、当然、
この杖をついて歩いていたのですが、
成田に到着したとたん恥ずかしくなってね(笑)。
日本では実は
「1(ひと)つき」もしてないですよ。
インドではまったく平気だったんですが、
やっぱり自分の中にあったんでしょうね、
「ヘビの杖なんて、やっぱイケてないんじゃないか」
という気持ちが、
あったんでしょう。
しかし、コロナ禍あたりから、
心に決めたことがあるんですよ。
それはね、「老けづくり」ってやつで。
──
老けづくり?
みうら
まだ、お気づきになってませんか?
みなさん、年を取ると必死で
「若づくり」されるじゃないですか。
僕はその逆をいこうと
決めたんですね。
だからいま、こうして、
ヒゲも伸びていますでしょう?
これは「老けづくり」の演出の
ひとつなんです。
僕ね、残念なことに、
年を取っても
白髪があまり出ない体質のようで。

──
白髪、ないですね。
染めてもいらっしゃらないですよね。
みうら
そうなんです。
これじゃなかなか
じいさん呼ばわりされないでしょ?
若い頃からじいさんに
憧れがあった身としては、悔しくてね(笑)。
──
(笑)
みうら
そう思っていたところ、
ヒゲを伸ばすとかなり大量に
白髪が混じってたんです。
──
ああ、おヒゲにはたしかに。
みうら
何度かヒゲを伸ばしては止め、を
続けてきたんですが、これは
「老けづくり」には朗報でした。
この姿で早速テレビに出たところ、
親からも早速電話がかかってきて
「あんた、そのヒゲ、いつ剃るんや?」
と言われました。
──
ヒゲでわざわざ電話を。
みうら
90歳すぎの親が60歳すぎの息子に、
ですからね(笑)。
そりゃ、いくらなんでも
「もう、いいでしょ? 自由にやっても」
という反発を覚えたんです。
僕は、そういえば
反抗期というものが
あまりありませんでしたから。
──
ひとりっ子でいらっしゃいましたし。
みうら
ですね。
買ってほしいものは、僕が言う前から
親が推測して「箱買い」してくるような
家だったもので、
反抗を忘れてたというかね。
高校時代、部屋でひとり
オリジナルソングをギター弾いて歌ってたら、
その歌を母親が台所で口ずさんでいる、
そんな状態です(笑)。
逆にこちらから
「歌うのだけはやめてくれ」って
止める側にいましたから。
だから、ようやく世間の常識に反発する
「老けづくり」でいこうと決めたんです。
──
ヒゲを境に、60代からの反抗期。

みうら
ですね、ひらたく言えば(笑)。
そういえば、みなさんは
黒澤明監督の映画『生きる』という映画を
ご存知ですか?
──
ブランコで歌うシーンが有名な映画ですよね。
みうら
そうです。
余命いくばくもない、役場にお勤めの方を、
志村喬さんが演じておられました。
志村喬さん、あのときなんと
47歳だったっていうじゃないですか。
僕にとって「老けづくり」の鏡です。
──
その一環で、杖も‥‥?
みうら
これは、30代の終わりぐらいのときに
「杖ブーム」が来たんですよ。
老けづくりとは関係なくね(笑)。
──
そういえば
「ザ・スライドショー」のステージ上で
杖をついていらっしゃる回がありましたね。
みうら
あれは単に「マイブーム」でついてたんです。
しかしいま、杖をつくと、
いわゆるフツーのおじいさんになってしまいます。
たしかに楽なんですがね。
──
あんばいが難しいですね。
みうら
その難しいジャンルを称して、
「アウト老(ロー)」と呼ぶことにしました。

──
アウトLAW(法律)ではなく
アウト老(ロー)。
みうら
ですね。
僕が提唱している「アウト老」は、
LAWの老がOUTじゃないといけません。
いやぁ、これ、実に難しいんですよ。
つまり、ふつうの老人を目指してもアウトですから。
──
すごく狭いですね。
みうら
でもね、ここで今日の本題なんですけども、
「おじいさん」と一概に言っても、
いろんなおじいさんがいることを
みなさんはご存知ですか? と
問いたいわけですよ。
──
(笑)
みうら
みなさんがおっしゃる
「おじいさん」「おばあさん」は
世間で言われるイメージどおりの
老人ではありませんか?
ってことです。
──
志村喬さんのような‥‥。
みうら
そうそう、志村さんが演じておられたような
お年寄りでしょうね。
でも、おじいさんの中には花さかだっているし、
こぶとりだっていますでしょ?
──
わはははははは。
みうら
戒名を付けられてしまう前に
自分のキャッチコピーを決めておく、
それが「アウト老」のやり口です。
特徴あるじいさんになろうという運動、
そのムーブメントを、これから僕は
自分に対してアピールしていこう、
ということなんです。

(明日につづきます)

2024-11-12-TUE

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