ほぼ日の「老いと死」特集は、
佳境に入ってきました。
入ったからにはこの方に
ご登場いただかなくてはなりません。
みうらじゅんさんです。
このインタビューの動画は、
ほぼ日の學校でごらんいただけます。
みうらじゅん
1958年、京都生まれ。イラストレーターなど。
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。
以後、作家、ミュージシャンなど、多方面で活躍。
1997年には「マイブーム」が
新語・流行語大賞のトップテンに選出。
「ゆるキャラ」の名づけ親でもある。
2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。
著書に『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』
『「ない仕事」の作り方』
『通常は死ぬ前に処分したいと思うであろう100のモノ』など。
- ──
- 私(ほぼ日の菅野)は、
いま55歳で、あと5年で還暦です。
「自分が還暦である」ということに、
いつか慣れていくものなのでしょうか。
自分が還暦になる気が、ぜんぜんしません。
- みうら
- そりゃ当然ですよ。
僕だってほんとうはまだおじいさんに
なった気がしてないんですから。
- ──
- おじいさんに。
- みうら
- それ以前の「オヤジ」も、
いまひとつピンときてないままです。
「そこのおじいさん、財布落ちましたよ」
って親切に言ってもらっても、
たぶん振り向かないと思います。 - またね、「じゅん」という名前も
じいさんにはいただけないんですよね。
「じゅんじいさん」って呼ばれてもねぇ(笑)。
- ──
- ハイカラなお名前ですからね。
- みうら
- いやいや、ひらがな表記にしてるのも
イタくないですか?
だから「アウト老」で
ごまかそうとしてるんだと思います。 - そういえば、前に糸井さんがこんなことを
おっしゃってましたよ。
「みうらは60になったけど、
まだ60だと思ってないだろう。
それは65になったときに思うことだから」
って。だから菅野さんも、そう思うには
あと10年かかるということです。 - やっぱり年は、
ジャストではなかなか思えないものです。
みなさんのコンテンツでも僕は
還暦のちゃんちゃんこを着ましたけど、
当然、その頃は、しっくりは来ませんでした。
あれは5年着つづけないと
いけないってことですね(笑)。 - いま着たら、ようやく
じいさんなんだって自覚が出るのかもしれません。
そうそう、菅野さん、
還暦になったらお貸ししますよ、
僕のマイちゃんちゃんこ。
その背中には優勝旗みたいに
還暦仲間のサインがいっぱい入ってますから(笑)。 - そもそも「還」なんて漢字、
使い慣れていませんもんね。
- ──
- ぜんぜん見慣れない漢字です。
- みうら
- いまから習字でいっぱい書いとくのが
いいかもしれませんよ。
「還」と「暦」って書いたふたつの麻雀牌が
落ちてくるイメトレもいいかもですね。 - まわりから「もう還暦なんだね」と言われて、
ふと手の中を見たら
「還」「暦」と書かれた牌ふたつ握ってた。
「あ、握ってんだ」
そう思うと腑に落ちるかもしれません。
- ──
- なるほど、なるほど、
麻雀牌がいつのまにか落ちてきて、握ってるんですね。
心構えができました。
- みうら
- もし、腑に落ちたくなかったら、ですよ。
今後、老々の人にしか会わないという
心構えが必要になりますね。
- ──
- 年を取ったら、若者のなかに
入っていかないほうが
ショックが少ないですね。
- みうら
- 昔の若者は入ると危険でしょうね。
僕はね、10年ぐらい前まで、
高校野球に出場しても
ばれないと思ってたんですよ。
どうです? 自分でいうのもなんですけど、
DS(どーかしてる)でしょ(笑)? - 高校野球で勝つと、
横に並んだ選手を、カメラが
一人ひとりなめていくじゃないですか。
- ──
- 甲子園の、勝利のあとの校歌斉唱で、
カメラがドリー移動して
選手の顔を大きく映しますね。
- みうら
- それです。
その映像のなかに僕が入りこんでいても
べつにおかしくないと思ってたんです。 - そのとき、おそらくカメラは止まらずに
スッと流れていくだろう、とね。
友達にその話をしたら
「もう監督のほうだよ!」
と言って、笑ってました。
だけど、よく考えたら監督も
僕より年下ですからね。 - だから、高校野球に
しれっと顔を出しているつもりでも、
カメラは完全に止まりますね。
放送事故として(笑)。
- ──
- あきらかに、野球やってない感じの、
中年の方が(笑)。
- みうら
- やっぱりそういう人間は、
「老けづくり」を自ら進めていかないと、
よくないと思うんです。 - でも「おい、そこのクソジジイ」と言われたら
ぜったい振り向きませんよ(笑)。
アウト老がはやく世の中に浸透することを
願ってやまないです。
- ──
- みうらさんは、終活はなさらないんですか。
- みうら
- そんなのしたらアウト老に
なれないじゃないですか(笑)。
- ──
- でも、みうらさんがよくおっしゃる、
「走馬灯を自分で描いておく」活動は、
終活ではないのでしょうか。
- みうら
- あれはたんに走馬灯「ブーム」なだけです。
走活といってもいいでしょうね。
それに、あんな走馬灯、
見るわけないじゃないですか。
あれはきっと嘘ですよ。
- ──
- 嘘だったんですか。
- みうら
- いや、人生はそんな思いどおりになんか
いかないじゃないですか。
嘘というか、僕の大好きな妄想ですから。
- ──
- アウト老はやっぱり、
すべての人にはあてはまらない
けわしい道ですね。
ありがとうございました。
- みうら
- こんな結末でいいのでしょうか(笑)?
ま、人生に正解なんてありませんからね。
ありがとうございました。
(おしまいです。ありがとうございました)
2024-11-21-THU