京都のアサヒビール大山崎山荘美術館で、
みうらじゅんさんの「マイ遺品展」が開催中です。
京都といえば、みうらじゅんさんの故郷。
おそらく「故郷に錦」のすごい展覧会に
ちがいありません。
そこで、いつもみうらさんにお世話になっている、
ほぼ日の見習い乗組員の鳥、シジュちゃんが
美術館におじゃますることにしました。
なぜなら展示の中にシジュちゃんの写真もあるという
情報を聞きつけたからです。ほんとうにあるのかな‥‥?
みうらさんが館内を案内してくれます!
第3回
捨てられなくするための方法。
- みうら
- じゃあ、次の部屋に移動しようか。
- シジュ
- はい。ここは何の部屋だっけ。
あ、シジュが展示してあるところだジュ。
スクラップブックの部屋。
- みうら
- どこにいる?
- シジュ
- どれどれ?
- みうら
- あ、いたいた。いた。シジュちゃんいた。
- シジュ
- うわーい、みうらさんの展示に
シジュがいるんだジュよ。
うれしいだジュ。
みうらさん、これはいったいなんだジュか?
- みうら
- なんだジュかって、
知ってて来てるんでしょ(笑)。
美術館の方にたのんで
そのページをわざわざ開いてもらったんでしょう?
- シジュ
- えへへへへ。
盛岡の「みうらじゅんフェス!」で
シジュを見たっていうおきゃくさんがメールくれて、
それで京都でもぜひそのページをって、
お願いしたんだジュ。
- みうら
- スクラップについてはご存知のとおり、
上京してから四十数年、
エロの写真を主に
スクラップ帳に貼りつづけてきましたがね。
- シジュ
- あの有名な「エロスクラップ」。
みうらさんは毎日貼ってるんだジュよね。
- みうら
- もう700冊を超えたんだよ。
- シジュ
- すっごいだジュ!
- みうら
- この部屋の展示はね、エロ以外の、
気になる内容の記事を切り抜いたものなんだ。
いままでそれを意味なく段ボールにいっぱい詰めて、
40年間も残してきたんだよ。
- シジュ
- 40年の紙の蓄積ってすごいだジュな。
- みうら
- このコロナ禍で、時間ができたから、
スクラップ帳に貼ってみようと思ったんだよ。
これはね、「無意識スクラップ」と呼んでます。
つまり、どれだけ無意識に貼れるかを
挑戦してみたということなんだ。
だから、右ページと左ページに
貼ってあるものには、
まったく関連性がないんだよ。
- シジュ
- ないはずなのにね。
- みうら
- そう。
なかったはずなのに、
なんだか出てきちゃってるよね。
- シジュ
- 無意識の組み合わせの妙が、
見ていてまったく飽きないだジュよ。
- みうら
- 毎日毎日やってたら、
シジュちゃんもたまたま貼ってあった。
だから、シジュちゃん貼ったのを、
僕は気がついてないんだよ。
- シジュ
- トランス状態でやってたんだジュな。
- みうら
- シジュちゃんの上には「人間椅子」って
貼ってあるね。
シジュちゃんは人間椅子のメンバーじゃないのにね。
- シジュ
- 人間椅子がこの人みたいに、
タイトルっぽくなってるね。
- みうら
- それが無意識のなせるわざだね。
- シジュ
- みうらさんはそもそも、
なんでスクラップをはじめたんだジュか。
- みうら
- 僕はまず、小学1年生のときに、
怪獣の写真のスクラップをはじめました。
雑誌や新聞に載ってた怪獣写真を切り取ってね。
僕は一人っ子だったから、
両親の愛情をたんまり受けて、
雑誌をたくさん買ってもらってたんだけど、
そうすると、まるで貸本屋のように友達が、
日々、遊びにくるようになりました。
そうしてみんなで読んだ雑誌を、
僕としては残しておきたい。
でも、毎年大晦日になると両親が
大掃除といって、
「もういいでしょ、これ捨てて」
という悪魔の誘いをしてくるんですよ。
- シジュ
- マイ遺品の宿敵、
「もういいでしょ、これ捨てて」だジュな。
- みうら
- そうそう。
そんなときには面倒がっちゃいけないんだよ。
「うん、もういいよ」と言ったら最後、
この展覧会に怪獣のスクラップブックは
並ばなかったということなんですからね。
- シジュ
- 大晦日ごとに、よくがんばっただジュな。
- みうら
- 僕は小学1年生の頃からずっと、
「ものをどうやったら残せるか」
ということばかり考えてきました。
そのせいでこんなことになっちゃってるんですよ。
- シジュ
- そうなんだジュか。
- みうら
- いまは「断捨離」という言葉もあって、
ものを捨てることが、いいことになっています。
でも、みんながみんな「断捨離」になると、
文化財だって残らなくなりますから。
お寺の人も
「この仏像、もう残さなくてもいいんじゃない?」
なんてことを言い出したら、
どんなものも捨てられてしまいます。
やっぱりこの長い歴史で、そのときどきに
「残しておくべきだ」「これはいいものだ」と
ストップをかける人がいるんですよ。
- シジュ
- その人たちのおかげで、いま
お寺に行っても仏像があるんだジュな。
- みうら
- 仏像で言えば、
アーネスト・フェノロサという人がいて‥‥
「いて」と言ってるけど、僕はフェノロサさんと
酒飲んだこともないし時代も違うんですが、
フェノロサさんのおかげで、
僕たちはいま、仏像を見ているわけだよね。
外からの目線で、日本のいいものを残してくれた。
これから僕らは、
自分たちで残していかないとね。
- シジュ
- その「残す方法」として、スクラップを
小学1年生は思いついたんだジュな。
- みうら
- 奇しくもその年、
コクヨの「ラ-40」というサイズの
スクラップブックが発売されたんだ。
だから、言ってみれば、僕は小1のときに
最新型のノートパソコンを
買ったようなものなんだよ。
- シジュ
- それはもう、運命だジュな。
- みうら
- いかにして大晦日に魔がささないようにするか、
考えた末の作戦がスクラップだったのでしょう。
大切な部分だけ、
ほんとうに欲しい、
グッと来る部分の写真や記事だけを切り抜いて、
「コクヨのラ-40」に貼ればいいんだと、
小1の僕はピーンときた。
背表紙に「三浦純 責任編集」みたいなことを書いて
本棚に差し込むと、
それはもう自分の作品になって、
親も手を出せない領域になる。
そこからはじまったんだよ、
僕のスクラッパー人生は。
- シジュ
- マイ遺品を築くための重要なスタートだジュな。
- みうら
- でもね、テレビの「鑑定団」的な視点では、
値打ちのないことをしてたんだ。
持っていた雑誌をそのまま保管しておけば、
価値も出たんだろうけど、
これはそんな話じゃなくて。
- シジュ
- そこから偉大なエロスクラップまで
つながっていくんだジュからね。
自分の作品、それはアートだジュよ。
- みうら
- 怪獣のスクラップは、
小学4年生あたりで、
仏像スクラップに切り替わってるんだ。
ヒーローもののアイデアは
すべて仏教の世界観を拝借していることに
その時期、気づいていたんだね。
怪獣のスクラップを前に
僕の解説を聞いてくれていた友達も、
ネタが仏像になったとたん、
「その話、もうええわ」と言い出し、
最終的に、中学の時点で
かなりの友達をなくしてしまいました。
(明日につづきます)
2022-01-20-THU
-
アサヒビール大山崎山荘美術館
開館25周年記念
みうらじゅん マイ遺品展
2021年12月18日(土)– 2022年3月6日(日)みうらじゅんさんが長年にわたり収集、制作し、
自ら「マイ遺品」と名づける品々を、
出身地である京都の地で一挙に公開する展覧会。
ゆるキャラ、いやげ物、スクラップ、ヘンヌキなどの
みうらさんの「マイ遺品」が
国の有形文化財として登録されている「大山崎山荘」と
安藤忠雄さん設計の「地中館・山手館」からなる
静かな美術館にずらっと並ぶさまは、圧巻です。
京都の歴史ある空気を味わいながら実感する、
みうらじゅんさんの偉業のかずかず、
ぜひおたのしみください。
カフェでは特製のどらやきも食べられます。【会場】アサヒビール大山崎山荘美術館
〒618-0071 京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3
JR山崎駅または阪急大山崎駅より徒歩約10分
【開館時間】10:00 – 17:00(最終入館 16:30)
【休館日】月曜日(ただし、祝日の場合は翌火曜)