京都のアサヒビール大山崎山荘美術館で、
みうらじゅんさんの「マイ遺品展」が開催中です。
京都といえば、みうらじゅんさんの故郷。
おそらく「故郷に錦」のすごい展覧会に
ちがいありません。
そこで、いつもみうらさんにお世話になっている、
ほぼ日の見習い乗組員の鳥、シジュちゃんが
美術館におじゃますることにしました。
なぜなら展示の中にシジュちゃんの写真もあるという
情報を聞きつけたからです。ほんとうにあるのかな‥‥?
みうらさんが館内を案内してくれます!
第2回
残そうと思っても、ふつうは残せない。
- シジュ
- この部屋には、ヘンヌキ(へんな栓抜き)が
展示してあるんだジュよな。
故郷に錦は飾らないけど、
ゴムヘビやヘンヌキは飾る、
そんな展覧会が開催されています。
- みうら
- だから今日はシジュちゃんに
「これは故郷に錦を飾ったことになるのかな?」
というポイントを、
ぜひ見てほしいんだよね。
- シジュ
- うん、わかっただジュ。
- みうら
- もっと言うとね、僕はいまの段階で、
まだ錦は飾りたくないんだ。
- シジュ
- あ、そうなんだジュか?
- みうら
- これはまだ、錦には
なっていないんです。
そうだね、おそらく、あと100年後です、
未来の柳田國男があらわれて
「これは民俗学的に貴重な資料である。
ああ、よく残してくれました」
と言ってくれる、
そういうものが陳列されているわけです。
- シジュ
- ほんと、ほんと。
だってさ、こんなの残してる人、
いないよ。
- みうら
- これ、残そうと思って
残せるもんじゃないんです。
それはね、僕もそんなに欲しくないわけだから。
- シジュ
- え、そうなの?
- みうら
- 僕はよく、人から
「趣味が多いですね」とか、
「好きなものいっぱいあっていいですね」とか
言われがちなんですけどね、
そうじゃないんです。
- シジュ
- そうじゃないんだジュか。
- みうら
- 僕は「それらを好きになることが好き」なんです。
- シジュ
- ‥‥‥‥!!
- みうら
- うん。たとえば、これ。
- シジュ
- このヘンヌキ。
- みうら
- みやげ物のなかに「いやげ物」という、
もらっても困るものが
混入されてることは、
ずいぶん前から気がついてたんですけど。
けれども、そこからさ。
- シジュ
- みうらさんが人と違うのは、そこから。
- みうら
- これらのものが
ここに集まっているということはつまり、
僕がどこかで買ってきてるわけですよ。
はじめの1個を買うときには
それなりに勇気が要るもんです。
まず、こういうものを見つけるのは、
どこかに出かけた旅先でしょう?
これね、よく考えてね、
ヘンヌキは金属でできてるんです。
重いし、土産にしては意外と値段が高いんだよ。
- シジュ
- あ‥‥高いんだ。
- みうら
- うん。
なかには3000円ぐらいするやつも
あるわけですよ。
- シジュ
- え? じゃあ3つで1万円ちかく‥‥。
- みうら
- そんなのね、嫌でしょう?
- シジュ
- 嫌だ。
- みうら
- 嫌だし、持って帰るとき、
こんなヌードの栓抜きをね、
かばんに入れると重いんだ。
よく見て、この、頭の上で
輪にした手のとこで、
栓は抜くらしいんだけど‥‥
- シジュ
- わははははは。
- みうら
- そういうことより、南部鉄でできていて、
ずっしり重いわけよ。
もういまや、抜くものもほとんどない時代にですよ。
- シジュ
- そんなのおみやげにもらっても、困るし。
- みうら
- でしょ?
買うのももらうのも困るし、
高いし重いし、まぁ、言ってみれば
「嫌なことばっかり」のものを、
勇気を出して買うんです。
- シジュ
- どこから切り取っても
いま欲しくないものを
ずしっと手にとって。
- みうら
- 断腸の思いでレジに持っていくという、
その時点からもう、
民俗学なんだよね。
- シジュ
- そうだジュよ。
こんな、何万円も何万円も‥‥。
- みうら
- 僕がやってるのは「学」だから。
- シジュ
- 「学」だジュからね。
- みうら
- コレクションじゃないんだ。
「学」のための資料ですから。
- シジュ
- マイ遺品であり、なおかつ、
未来の柳田國男さんに対する
メッセージだジュからな。
- みうら
- ほら、これも見てよ。
この灰皿は「コイ皿」と呼んでるものなんだけど。
- シジュ
- ははは、かわいい。そして大きい。
- みうら
- 鯉に‥‥肩ってあるの?
- シジュ
- 肩?
- みうら
- 人間には肩があるでしょ?
この鯉にも肩らしき部分が
無理やり作ってあるんだよ。
そこに穴があいていて、
タバコを置く仕組みなんだよ。
- シジュ
- ちょっとおかしな発想だジュな。
- みうら
- 鯉の口の部分が空いてるから、
きっとここからタバコの煙が
出るようになってるんじゃないかな。
でもね、どう考えても、それは無理だし、
第一、中が洗えないでしょ。
- シジュ
- 洗えないね(笑)。
- みうら
- 設計ミスでしょ。
- シジュ
- これ、すごく高かったんじゃないだジュか?
- みうら
- いや、いま思い出したんだけど、
これ、奈良の橿原神宮前のみやげ物屋さんで
買ったんだ。
そんな高くなかった気がするけど、
さすがにデッドストックでね。
- シジュ
- そうだジュよな、こんな割れそうで大きな、
使いにくくて洗いにくい灰皿を
おみやげに買う人は
今後あらわれないだジュ。
- みうら
- 店の人も、持って帰ってほしくて
たまらなそうな顔をしてた。
だから、だいぶ安くしてくれたよ。
- シジュ
- それは、徳を積んだね。
- みうら
- デッドストックは値札がついてない
場合もあるんだよ。
- シジュ
- そうなんだ。
- みうら
- こういうものは、たいがい、店の奥のほうにいる。
僕は視力がよくないんだけど、
こういったものたちのことは、
なんだかよく見えてしまうんだ。
それはね、ほんとうに
「早く引き取ってほしい」という
いやげ物からのサインなんだろうね。
- シジュ
- 値段は一種の賭けだね。
- みうら
- うん、交渉次第のとこもあるよ。
- シジュ
- 人々との交渉、フィールドワーク。
柳田國男だ。
- みうら
- だから、柳田國男用なんだよ。
(明日につづきます)
2022-01-19-WED
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アサヒビール大山崎山荘美術館
開館25周年記念
みうらじゅん マイ遺品展
2021年12月18日(土)– 2022年3月6日(日)みうらじゅんさんが長年にわたり収集、制作し、
自ら「マイ遺品」と名づける品々を、
出身地である京都の地で一挙に公開する展覧会。
ゆるキャラ、いやげ物、スクラップ、ヘンヌキなどの
みうらさんの「マイ遺品」が
国の有形文化財として登録されている「大山崎山荘」と
安藤忠雄さん設計の「地中館・山手館」からなる
静かな美術館にずらっと並ぶさまは、圧巻です。
京都の歴史ある空気を味わいながら実感する、
みうらじゅんさんの偉業のかずかず、
ぜひおたのしみください。
カフェでは特製のどらやきも食べられます。【会場】アサヒビール大山崎山荘美術館
〒618-0071 京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3
JR山崎駅または阪急大山崎駅より徒歩約10分
【開館時間】10:00 – 17:00(最終入館 16:30)
【休館日】月曜日(ただし、祝日の場合は翌火曜)