新宿は、繁華街、歓楽街、オフィス街と、
3つの顔を持っている街です。
渋谷や池袋と並ぶ、
東京の副都心であると認識はしていても、
どうして「新宿」というのか、そして、
えもいわれぬあの「濃い感じ」はいったいなんなのか、
多くの人が謎を抱えているのではないでしょうか。
2022年、「生活のたのしみ展」新宿開催を機に、
いまこそこの街について、
お訊きすることにいたしましょう。
ミスター新宿、ミスター新宿駅ビル、
ミスターメンズ館、元祖新宿系、
新宿といえばこの方、みうらじゅんさんです!
第6回
「うん、びっちりだな」
▲今回のお話を動画でごらんください。
- みうら
- あれはいまから、40年ほど前のことです。
ある日、糸井さんは僕にこうおっしゃいました。 - 「みうらは、仕事がないんだから、
『ビックリハウス』の編集部に
毎日通って、端のほうに座ってなよ」
「それ、仕事ですか」
「いや、ちがうけど、とりあえず毎日、
意味もなく座ってるのって、よくない?」 - 「よくない?」と言われても、
当時の僕にはよくわかりませんでした。
でも「はい、じゃ、行きます」といって、
毎日のように、渋谷パルコの前にあった
雑誌「ビックリハウス」の編集部に意味なく行き、
そこでずーっと座っていました。 - ずーっと座っていますとね、
たまーに、レイアウトの都合で
雑誌に空きスペースが出ることがありました。 - 「何かあったらお声かけください」
「絵は描けます」
というようなことは伝えていたので、編集部の人が
「あ、三浦君、ここにスペース空いたから、
今回の特集に合わせて何か描いてよ!」
と言ってくださることがありました。
僕は「はい」と返事し、
持参したケントブロックを出し、
そこに何か描いて、渡して、また座っていました。 - そうやって、声をかけられたら何かやる、
ということをしながら、
ずーっと座っていただけだったのですが、
いつしかその雑誌から、
何かおもしろいものを描いてと、
1ページをいただくことができました。 - ぼくはそこに通うことを
すすめてくれた糸井さんに
「僕、ついに連載もらえましたよ」
と伝えました。
そうしたら糸井さんは
「よかったね。1ページか。
おまえは、まちがいさがしだな。
まちがいさがしの連載にしなさい」
と言うんです。
- ──
- もう、決められちゃって(笑)。
- みうら
- 「まちがいさがしって‥‥1ページしか
スペースがないんですけど」
と言うとね、
「上と下の段に、おんなじ絵を2枚描く。
1か所だけ間違ってる。
間違い探しを、毎回連載する。
な、いいと思わない?」
- ──
- 「よくない?」とか
「いいと思わない?」が
糸井さんは昔から決めゼリフですね。
- みうら
- 「はい」と言うしかないですよね。
「絵をコピーしちゃダメだぞ、
おんなじように描くんだ。
で、びっちり描くんだよ」
と、そのときに言われたんです。 - いまでもよく覚えてますよ、
「1回目は、運動会がいいな」と──。
「校庭でな、リレーやってたり、
横で騎馬戦もやってて、
周りで父母みんなが見ている。
その中の誰かのどこかが、
ちょっと違ったりするわけ。
でね、おまえは絵が下手だから、
びっちり描くんだよ、びっちり──。
びっちり描け‥‥びっちり描け‥‥
びっちり描け‥‥びっちり描‥‥びっちり‥‥」
40年以上経って、ステイホームで
ワニの絵を描いてるときに
あの糸井さんの声が、
僕の耳に響いてきたんです。 - そのとき僕が描きはじめていたワニの絵は、
びっちりではありませんでした。
「そういえば俺は、
絵の仕事ももらえるようになって、
気持ちがおごってたな」
と思ったんですよね。
- ──
- 「もらえるようになって」とは、
もうずいぶん経って‥‥
- みうら
- いやいや、発注してもらえるようになって、
気持ちがおごってたんですよ。
「このスペースだったら
これぐらい描いときゃいいか」
なんて思うようになってた。 - そういえば忘れてたな、
あのときの、びっちりを。
- ──
- そしてそのコロナ画は、
びっちり化していったんですね。
- みうら
- けれども、これを判定する人はね、
世の中に糸井さんただひとりしかいないのです。
それは「うまい下手」じゃありません。
「うん、びっちりだな、これ」
と、糸井さんに言ってもらえれば、
僕は気が済みます。
だから、どうにかして
糸井さんに「びっちり判定」を
してもらわなきゃなんないと思い、
ほぼ日に電話して相談しました。
- ──
- はい、私はあの日
おなじくステイホームで電話を受け、
お話をうかがいとても驚きました。
しかしちょうど新宿住友ビル三角広場の
「生活のたのしみ展」開催を計画していたので、
もしかしてあの大きな場所なら展示できるかも、
雨露もしのげるし、と思いつきました。
- みうら
- 三角広場だったら糸井さんも
絶対見られますから、と
言っていただいてね。
- ──
- その絵を前にして、
みうらさんと糸井さん、
おふたりのトークイベントを
4月30日に組みました。
- ──
- 「びっちり描け」は41年で、
みうらさんの耳に響いてきて‥‥
- みうら
- いま思うとね、
「びっちり描け」には
つづきがあるような気がするんです。
きっと当時、
「みうら、お前はほんとうに絵が好きか?」
ということを
問うておられたと思うんです。
- ──
- びっちりの先には「好き」があるんですね。
- みうら
- そうです。
仕事って、好きじゃないと続けられないんですよ。
糸井さんはそれを見抜いていたんです。
「おまえは手慣れ絵でごまかさず、
びっちり描いて本気で絵を好きになれ」
とおっしゃったのではないかと思っています。 - ステイホームで
びっちりした「コロナ画」を描きながら、
僕ははじめて絵を描くことが
好きになった気がしてます。 - 小学校のときから、絵は好きで描いていましたが、
この仕事に就いてから、
好きで描いてるという
意識が薄くなっていたんですよね。
だから「びっちり描け、びっちり描け」と
糸井さんに言われたことで、
依頼のない絵を今回こうして
何十枚も描くことになりました。
描きつづけることで
「好き」を通り越して、
絵を描くことが「大好き」になっていたんです。
仕事より「大好き」が勝ったんですよ、ついに。 - 「生活のたのしみ展」で、みなさんにコロナ画を
見てもらって
「あ、この人、好きで描いたな」と
いうことがわかる絵になっていたら
いいなと思います。
- ──
- コロナ画を生で拝見すること、
おふたりのトーク、
とてもたのしみにしています。
「生活のたのしみ展」ではまた、
よろしくお願いいたします。
- みうら
- こちらこそ、よろしくお願いいたします。
- ──
- 本日はありがとうございました。
(おわります。「生活のたのしみ展」のみうらさんのトーク、おたのしみに!)
協力 新宿住友ビル
2022-04-29-FRI
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コロナ画2022
in SHINJUKU
2022年4月29日(金祝)– 2022年5月4日(水祝)みうらじゅんさんがコロナ禍に描きはじめた、
コロナ収束が締切となるであろう作品が、
4月29日~5月4日に新宿で開かれる
「生活のたのしみ展」で公開されます。
F10号のキャンバスを
現在のところ78枚つないだ、巨大作品です。
また、4/30(土)13:00より、
みうらじゅんさんと糸井重里による
ミニトークショーも場内で開催します。
※トークショーの着席観覧募集は終了いたしました。
「コロナ画2022 in SHINJUKU」は、
入り口を入ってすぐ、
「ウェルカムマルシェ W-0」に展示しています。
写真もOK。ぜひ見にきてください!