新宿は、繁華街、歓楽街、オフィス街と、
3つの顔を持っている街です。
渋谷や池袋と並ぶ、
東京の副都心であると認識はしていても、
どうして「新宿」というのか、そして、
えもいわれぬあの「濃い感じ」はいったいなんなのか、
多くの人が謎を抱えているのではないでしょうか。
2022年、「生活のたのしみ展」新宿開催を機に、
いまこそこの街について、
お訊きすることにいたしましょう。
ミスター新宿、ミスター新宿駅ビル、
ミスターメンズ館、元祖新宿系、
新宿といえばこの方、みうらじゅんさんです!
第5回
最も大きな絵を描きはじめた。
▲今回のお話を動画でごらんください。
- ──
- このたびの新宿の「生活のたのしみ展」で、
みうらさんが描かれた
巨大な絵「コロナ画」を
ご出展いただくことになっているのですが。
- みうら
- タイトルは一応「コロナ画」となっていますが、
僕の気持ちとしてはもう、
太郎さんのあの『明日の神話』です。
- ──
- 岡本太郎さんの、渋谷駅にある壁画ですね。
- みうら
- 大きいでしょ、あれ。
- ──
- 大きいです。
崩れた状態でメキシコから運ばれてきました。
- みうら
- ミスター新宿としては、大きいのを
新宿にドンと出したいと思っています。
- ──
- 大きさ、けっこう迫っている感じですよね。
- みうら
- いやぁ、『明日神(アスシン)』よりは
ぜんぜん小さいですよ。
- ──
- 『明日神(アスシン)』よりは(笑)。
- みうら
- はい、現時点では
『明日神』よりは小さいですけれども、
『明日神』くらいになる可能性はあるわけです。
なぜなら、まだ締切は先のようですから。
- ──
- はい、そうですね。
あれはコロナ収束を締切とした絵画と
うかがいました。
- みうら
- そうです。
しかしいま、コロナの収束を
誰が決めるのかということが
問題となっています。
「一人とていない」という状態を
そう呼ぶのでしたらね。
- ──
- 今後新型コロナウイルスが
ふつうの風邪になっていったとしたら、
遠い締切となりそうですね。
- みうら
- ですから、最終的に
何枚の組絵になるかは僕にもわかりません。
しかし新宿にやってくる時点で
そうとう大きいサイズになっていると思います。
- ──
- F10号のキャンバスを、
いまのところ、何枚の予定でしょうか。
- みうら
- 新宿では78枚になっているでしょう。
- ──
- 京都の展示では55枚でしたよね。
ところで、あのコロナ画は、
コロナ禍にご自宅で
描きはじめたとうかがいました。
いったいどんなきっかけがあったのでしょうか。
- みうら
- はじめはね、単にワニを描こうと思ったんです。
- ──
- キャンバスにですか。ワニを。
- みうら
- はい。あの‥‥ステイホームでしたっけ?
- ──
- はい、ステイホームです。
- みうら
- 合ってますよね。
僕はよくステイホームを
「ホームステイ」と間違えてしまうんです。
古い人間だからでしょうね、
「どうしてました?」
「ああ、ホームステイ中?」
などと言ってしまいます。
そうすると突然、海外留学の話に
なってしまうじゃないですか。
「ホームステイって、どこ行ってたんですか?」
なんて訊かれたら、
「インド、かな」なんて言うしかなくて。
だから、僕はステイホームのときは、
インドにホームステイしている気持ちでおりました。
- ──
- はあぁ。
- みうら
- インドにいるわけですから、
当然、髭はどんどん伸びていきます。
ジョージ・ハリスン化してくるわけです。
そんなふうに、せっかく自分の中のインドに
ホームステイしているわけですから、
何か「燃える」ことを見つけなきゃな、と
思ったんでしょうね、
その頃、僕は「ワニックブーム」だったんです。
- ──
- ワニック?
- みうら
- あ、要するにワニのパニック映画を
つづめたんですがね。
- ──
- ああ、「アリゲーター」とか、ああいう‥‥。
- みうら
- そうです。
ワニのパニックものって、
いままでにいくつもあるけど
どれもいまひとつ盛り上がってないのが実情です。
それを以前から気にはしていたのです。
だって、ワニの映画が出ると、
たいていあとから来たサメに食われちゃうんですよ。
動物ものでパニックといったら、なんといっても
「ジョーズ」ですからね。
決して「ダンディー」のほうではないでしょう。
- ──
- ああ、「クロコダイル・ダンディー」、
ありましたね。
- みうら
- それもね、クロコダイルより
ダンディーのほうが人気でしたし。
「どうにかせねば」と思ってはいたんですが、
その時点でハッと気づいたことがありました。
僕自身がワニを、
そんなに好きではなかったのです。
「好きになってない!」「だからだ!」
と自分を責めた僕は、
まずワニを好きになろうと決めました。
これ、昔からやってる方法なんですけど、
好きになるためには、
それをモチーフにした絵を描くのがいいんです。
絵を描くためには、細部を見るでしょう。
「ほーう、足はこうなっていたのか」とか
いろいろ思い、
完成したときにはね、
「好きだから描いたんだな」と
自らが錯覚します。
- ──
- わはははは。
- みうら
- つまり、自分洗脳のために
絵を利用しているんです。
そんなときにも、まず向かったのは
新宿の世界堂。
- ──
- 画材の専門店ですね。
- みうら
- F10のキャンバスをまず1枚、買いました。
そして、ワニの絵を描きました。
僕は基本的に下描きをしないんです。
いきなりバッと描いたもので、
鼻先が、キャンバスから飛び出してしまいました。
- ──
- 岡本太郎さんも言いますね、
「キャンバスをはみ出せ」と。
- みうら
- それ、僕と同じですかね?
ワニの鼻の先には、もう、
キャンバスはありませんでした。
ボディはけっこうきっちり描いてしまっていて、
そのままだと鼻が短~いワニになってしまいます。
「これはいかん」ということになって
ふたたび世界堂に行き、もう1枚キャンバス買い、
鼻先を描きました。
そうしたら、鼻だけ描いたキャンバスが
寂しくなるわけで、またワニを描きました。
- ──
- そうやって、どんどん増えていった、と。
- みうら
- ワニがね。
その絵が4枚くらいになったとき、
聞こえてきたんですよ。
ほんとうに聞こえてきたんです、
嘘じゃないですよ。
糸井さんの声が、聞こえてきたんです。
(明日につづきます)
協力 新宿住友ビル
2022-04-28-THU
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コロナ画2022
in SHINJUKU
2022年4月29日(金祝)– 2022年5月4日(水祝)みうらじゅんさんがコロナ禍に描きはじめた、
コロナ収束が締切となるであろう作品が、
4月29日~5月4日に新宿で開かれる
「生活のたのしみ展」で公開されます。
F10号のキャンバスを
現在のところ78枚つないだ、巨大作品です。
また、4/30(土)13:00より、
みうらじゅんさんと糸井重里による
ミニトークショーも場内で開催します。
※トークショーの着席観覧募集は終了いたしました。
「コロナ画2022 in SHINJUKU」は、
入り口を入ってすぐ、
「ウェルカムマルシェ W-0」に展示しています。
写真もOK。ぜひ見にきてください!