今年(2024年)1月に刊行された
junaidaさんの絵本『世界』は、
じつは、
「大きな大きな1枚の絵」を、
30ページに分割したものだった‥‥!
(手にした人は、知っている)
どうしてそんなに壮大で、
難しいであろうことに挑んだのか。
junaidaさんに、じっくり聞きます。
担当は「ほぼ日」奥野です。
なお現在、神田のTOBICHI東京では、
絵本のもとになった原画を展示中。
ぜひ、見に来てください。

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第4回 世界は無数で、ただひとつ。

──
junaidaさんの絵って、
最初の最初から、こうだったんですか。
初期の作品から持ってはいますが、
それより前‥‥描きはじめたころから。
junaida
細かい絵は描いてたかもしれないです。
でも、以前も言ったと思うんですけど、
絵で表現をしはじめたのは、
大学の卒業制作からくらいなんですよ。
──
最初は「音楽」だったんですよね。
junaida
そうですね。
ギターコードを覚えるのと
同時進行で曲作りをはじめてました。
それがほんとに好きだった。
曲書いて、バンド組んで、ライブして、音源作って。
そこが、ぼくの「表現」のはじまり。
だから自分の絵についても、
どこか音楽に近い何かを感じています。
──
絵と音楽って、相性いいですもんね。
junaida
そうそう。
──
とくに抽象表現主義的な人に感じます。
実際、パウル・クレーとかは
玄人はだしのバイオリニストでしたし、
カンディンスキーの絵からも
リズムとかメロディ、音楽を感じるし。
junaida
歌と絵本も似てるなあと思うんですよ。
3分のポップミュージックと、
30ページの絵本って、
同じようなサイズ感に思えるんです。
そしてどっちも、ひとつの作品で、
ひとつのことを伝えられたらОKだし。
ぼくは1曲の歌で表現していることを、
絵本で、表現しているのかもしれない。
──
歌ってるわけですね。つまり。絵で。
junaida
そうかもしれないです。
わかんないですけど。
──
カッコいいなと思う言葉に、
「すべての芸術は音楽の状態に憧れる」
というのがあるんです。
正しい意味はちがうかもしれないけど、
その言葉に説得力を感じるのは、
ぼくは、音楽というものが
「調和の極み」だからだと思っていて。
junaida
なるほど。
──
ギターのチューニングが
ほんのちょっとでも狂ってたとしても、
気持ち悪いじゃないですか。
その目でjunaidaさんの絵を見ると、
調和、ユニバース、宇宙、世界、
そういう言葉が浮かんでくるんですね。
つまり、音楽的なんです。
junaida
そういう部分はあるかもしれないです。
音楽、ポップミュージックというものは、
たとえば、あるコード進行に、
どんなメロディを乗せようか、
ベースは、リズムは‥‥というふうに、
ひとつひとつの要素を
うまく調和させてひとつの曲ができる。
──
ええ。
junaida
絵の場合も、何をどう描くかはもちろん、
この色の隣に何色を持ってくるかとか、
ありとあらゆる要素は、
一言でいえば調和とかバランス感覚です。
そのとき、
自分的にしっくりくる調和の感覚が、
ぼくの場合は
おそらく「音楽的」なんだと思います。
──
なるほど。
junaida
1枚の絵を描くときもそうですし、
絵本というものには、
ページをめくるリズムがあります。
言葉の音感も、音楽に通じてるし。
──
セロニアス・モンク的な不協和音とかも、
たまにはあえて入れ込んだり。
junaida
ああ、そうですね。
キラキラした色ばっかりじゃなくて、
あえて濁った色、
不穏な色を置いてみたりしますから。

──
世界と音楽というふたつの言葉から、
ふと思い出したことがあります。
ひとりでパリへ行ったとき、
オランピア劇場に入ってみたんです。
その日、
何をやっているかもろくに調べずに。
junaida
ええ。
──
オランダのジ・アナログズってバンドが
ライブをやってたんです。
ぼくは知らなかったんですけど、
ビートルズの完コピバンド、
それもアルバムを完全再現するバンドで、
その日の公演では、
『アビイ・ロード』をやってたんです。
junaida
アルバムみたいに演奏するんですか。
──
はい。アルバムB面のメドレー部分も
そのまま再現してましたし、
3曲目の
『Maxwell's Silver Hammer』のサビで
金属をハンマーでカンカン叩いてる、
みたいな音が出てきますけど、
そのあたりになると、
ステージの下手から
「金床をハンマーで叩くだけの人」
がずいーと出てきて、カンカン叩いてて。
junaida
へえ。
──
すごいなと思ったと同時に、
「このアルバムは、ひとつの世界だなあ」
と思ったんです。
ビートルズのみなさんが、
あのアルバムを
どんな気持ちでつくったのかについては、
まあ、いろいろ言われてますけど、
ぼくには「世界」のように感じたんです。
junaida
なるほど。
──
つまり、アーティストと呼ばれる人たち、
クリエイターと呼ばれる人たち、
ものをつくる人たち、
ようするにぼくが憧れる人たちって、
キャリアのどこかの時点で、
自分たちの「世界」みたいな表現に
挑戦するんじゃないかなって。
junaida
そのコピーバンドのアナログズって、
ビートルズからバトンを受け取っている。
「つながってる」わけですよね。
そのことも「世界」みたいだと思います。
誰かが誰かのバトンを受け取って、
次の誰かに渡して‥‥みたいなことが、
あらゆるところで起きている。
それが、この「世界」だと思ってるので。
──
なるほどー。おもしろい。
junaida
ステートメントにも書いたんですが、
ぼくは、この大きな絵を、
誰かのじゃなく、
ぼくの世界だと思って描いたんです。
でも、同時に、
他の誰かの世界ともつながっている。
そんな気がするんです。
──
おお。
junaida
それぞれの人の内面には、
自分だけの世界があると思うんですけど、
その、それぞれの世界を、
じつは、みんなで共有しているのが、
ぼくらの世界なんじゃないか。
──
現代のオランダのバンドが、
ビートルズのバトンを受け取ったように。
junaida
生命の数だけ「世界」はあるんだけど、
でも「ひとつしかない」‥‥というか。
──
それが、junaidaさんの「世界」観。
junaida
無数にあるけど、ひとつでしかない。
とっても不思議だけど。
──
バラバラに音を出しているんだけど、
同時に共鳴し合ってる。
junaida
最初、『世界』を描こうと思ったときに、
タージマハルとか
エッフェル塔とか描けばいいのかな、
いや、ちがうなと一瞬で却下したんです。
──
自分で自分の思いつきを。なるほど。
junaida
じゃあ、どういう「世界」なんだろうと
考えたときに、
やっぱり「自分の世界」でしかないなと。
ただ、「自分の世界」という絵が
最初から確立していたわけじゃなく、
描いていくうちに、
だんだんとそうなっていった、という感じでした。
──
そうやってうまれたのが、この「世界」。
junaida
はい、描いてみたら、
ぼくの世界はこういう世界でした。
たとえばここ‥‥海の中に、
エレキギターを持った人魚と向き合った王様が
いるんです。
他の人にはわからないと思うけど、
これは、まさに自分自身なんです。
憧れとぼく。
でも、その人魚と王様を見た誰かが
「ああ、何だか自分みたいだな」なんて
共鳴してくれたら、
おもしろいだろうなぁと、思っています。

(つづきます)

2024-12-12-THU

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