現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

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instagram: @kenkagami

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買ったもの_その19

「消火器スタンド」

これはですね、ようするに「何を置くか」なんです。消火器スタンドに、何を置くか。宮崎駿監督ふうに言うならば「君たちは、何を置くか」です。ぼくはドン・ペリニヨンを置いてみました。大五郎とかの巨大ペットボトルでも一見成り立つけど、この場合高級感が必要かなと思って。あ、ドンペリはもちろん空き瓶ですよ。こんなこともあろうかと、500円くらいで売っていたのを買っといたのが役立ちました。ちなみに「何を置くか」で、いろんなことがわかります。ボタニカルっていうんですか、植物の鉢植えを置いたあなたは「ていねいな暮らし」にあこがれていますね? ミネラル麦茶を置いたあなたは、どういう人かはわからないけど、季節は夏でしょう。ダイソンのハンドクリーナーを置いたあなたは、充電器と間違えている可能性があります。消火器スタンドって「何の変哲もないもの」ですよね。見た目がヘンとか、おもしろいとか、そういう類のものじゃない。狂気の作家がつくった、一点ものの地獄のオブジェでもありません。誰でも買えるし、どこでも売ってる。実際ぼくもホームセンターで買いました、1500円くらいで。つまり、世の中にありふれた「何の変哲もないもの」「どう遊ぶか」なんです。ここで問われているのは。以前に紹介した「たこ焼きのかぶりもの」「泣くほど怖いかっぱの置物」なんかは、ある意味「見つけたもん勝ち」ですよね。おかしなものに運よく出会い、それにお金を払う非常識家族の理解、そしてせいぜい数千円があればいい。購入ボタンを押した時点で、仕事はほとんど終わっています。買えれば勝ちなんです。でも、消火器スタンドはそうじゃない。買っても勝てない。買っただけではむしろ負け。勝つには「どうおもしろがるか」を死ぬ気で考える必要がある。真面目な話、ぼくが作品制作で考えているのは、だいたいそういうことです。我こそはという人がいたら、ぜひ毎日、何かを置いてみてください。けっこうな修行になるはずです。できれば公衆の面前がよいでしょう。道ゆく人の厳しい評価があなたを大きくするのです。「今日はジャコメッティの彫刻か」とか「え、二郎系ラーメンかよ」とか「またう◯このフィギュア置いてる! 何回目だよ」とか。小学生とかおばあちゃんにコキ下ろされる経験は、きっとあなたの人生の糧になるハズ。あとこれ、家の中でやると家族に対するメッセージになって便利です。ある朝、ここに置かれたひょうたんを見て「今日のパパ、こういう気持ちなんだね。そっとしておこうか」とか。ママと娘が目配せしながら。どんな家族?

※公共に設置された消火器は勝手に移動させてはいけません。加賀美さんも、あくまでご自宅のリビングで楽しんでいます。 ※公共に設置された消火器は勝手に移動させてはいけません。加賀美さんも、あくまでご自宅のリビングで楽しんでいます。

加賀美さんのお買いもの道、異世界のディメンションにたどり着きつつありますね。だって「消火器スタンド」ですよ。それ自体ほしくも何ともないのに「何とかすれば、おもしろいかも」という視点で買っているんです。すごいわ。そのうち「くつした」とか「食器用洗剤」とか「消しゴム」とか出てきたらどうしよう。「字が消せるじゃないですか」とか(笑)。それもう何周回ってんのかわかりません。

加賀美さんの「カッコいい」

結束バンドのキーホルダーkeyholder

こういうの、すごいおしゃれだと思うんです。自分でもぜひやってみたい。何かを結束するバンドだから丈夫だし、もし切れちゃっても、新しいやつに変えればいいわけで。色もいろいろ出てますよね。派手な色味の結束バンドもかわいいけど、でも、やっぱり半透明がいちばんカッコいいかな。結束バンドだし。

2023-09-16-SAT

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