現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

https://kenkagamiart.blogspot.com/
instagram: @kenkagami

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買ったもの_その28

「世界のおなら」


おならが好きです。気づいたら好きでした。おもしろいから。誰かが「ブッ!」と発すれば、その場がパァッと明るくなる。ちびっ子たちには、100パーウケる。もう何十年もやってる技があって、あ、おならが出そうってときに「指つった! 引っ張って!」って叫ぶんです。そしたら引っ張ってくれますよね、誰かが。その瞬間に「ブッ!」と放つ。大爆笑です。ただ当然ですが、人間関係の距離感には細心の注意が必要です。初対面の人しかいないオフ会や何十年かぶりの同窓会で披露すべき技ではありません。また、おなかの調子が悪いときも禁物です。ぼくはこの道長いんで「今日はニオわないな」ってわかるんですが、ふつうの人はイチかバチかじゃないですか。ニオイって。出してみなけりゃわからない。イヤ~な感じで漂ってしまった場合、爆笑どころではありません。みんな口を閉ざしてしまいます。え、おならが好きになった心当たり? 小学生のとき、腕を口で「ブ~ッ!」って‥‥つまり、こうして「ブ~ッ!」ってやって(編集部注:すごい完成度でした)、いまの音をテープに録って教室のラジカセで流してたんです。何パターンも撮って、休み時間ごとに。そしたら「ケンのおならヤベェな!」って大好評で。女子たちも「やめてよ~」とかって、うれしそうに。その成功体験があるから、おなら好きになったのかも。え、「女子のうれしそう」は気のせいじゃないかって? まあ‥‥たしかに「指、引っ張って」も、特別仲いい子にしかできないしね。そうだなあ、7人。いや、5人かな。そのうち女性は2人です。OKなのは。でも、その距離感さえ見誤らなければ素晴らしいですよ。おならって。平和の象徴だとさえ思ってる。この『世界のおなら』って本は、いろんなおならを国別に収録していて、もちろんデタラメなんだけど、めっちゃおもしろい。スイス、やまびこみたい。タイ、どこか仏教的。メキシコ、恐竜のうめき声っぽいな。イギリス、短すぎない?(笑) 最後にジャマイカ、ラスタなリズムを刻んでる。最高なんだけど、ただのくだらない本ともいい切れないと思う。裏テーマは「世界平和」じゃないかな。だって、いくらケンカしてたとしても、相手がおならした瞬間に笑っちゃうじゃない。「てめえ!」「ブッ!」「ヘロヘロ~。どうでもいいかあ」みたいな。ロシアの人だってウクライナの人だって、おならする。どっちも同じ人間なんだ。

おならについての思索と語彙が半端ない。おしりから出てくるだけで不当に差別されているとも言ってました。たしかに。アンニュイな美女のため息は詩歌となり、おならは不浄と忌み嫌われる。出口が、同じ「管」の「上か下か」のちがいだけなのに。いつの日か、おなら文学の金字塔を打ち立ててください。

加賀美さんの「カッコいい」

スマホのガラケー用ストラップsmartphone

一見、何だかわかんないでしょ。iPhoneの背面のカバーを外してガラケー用のストラップをつけたものです。つまりチャームがスマホの殻で、本体がガラケー。スマホを買ってもらえない中学生の、親へのあてこすりか? とにかく最高にカッコいいアティテュード。これぞ温故知新という気もします。

2024-06-16-SUN

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