現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

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instagram: @kenkagami

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買ったもの_その27

「ヤキソバンの寝袋」


着ぐるみじゃないんですよ、これ。寝袋なんです。ヤキソバンの。懐かしいでしょ。マイケル富岡さん。敵役のケトラーって、頭にヤカン載っけたデーブ・スペクターさんだったよね。懐かしいなあ。‥‥えっ、ヤングのみなさんは、ヤキソバンご存じないかもって? ホントに? あのU.F.O.仮面ヤキソバンですよ? 必殺技で「ソースビーム」とか「あげ玉ボンバー」とか「青のりフラッシュ」とか出す。うわー、あのCМやってたの「93年から95年」なんだ? 30年くらい前なのかあ、そうかあ‥‥。ん、ヤキソバンのニセモノいませんでしたかって? いた。サンコンさん。胸に「U.S.O.」って書いてあるんだよね。「U.F.O.」じゃなくて。いい時代だったなあ。とにかくそういうお茶の間ヒーローがいて、これは、その寝袋なんです。いつものメルカリで、2000円くらいでした。まあまあ、あったかいです。寝心地は別によくない。頭の上に載ってるコレは、外して枕にでもするのかな。マントもついてます、寝袋なのに。で、いきなり思い出したんだけど、高校のときに友だちが寮のベランダで湯切りしてたんですよ。カップ焼きそばの。そしたら麺がドチャっと出ちゃったんです。勢いよく。ねずみ色のコンクリートの上に、麺が、丸ごとぜんぶ。大爆笑でした。そしたら、あわれな友だち、こっちを見てくるんです。涙目で、すがるように。あの顔が忘れられないなあ。上のほうだけすくって食べてたなあ。たぶん、現代のカップ焼きそばって、そのへんのつくりも改善されてますよね。湯を切る穴がシールをはがす式になってたりして、ドチャって出ないようになってる。日本人の気配りというか親切設計って素晴らしいなと思う反面、あの日の悲しい青春みたいな出来事が、いまは起きにくいのかな。だとしたら、何だか寂しいな。ちなみに「93年から95年」といったら、スタイリストのアシスタントをやってた時期なんです。いちおうファッションの世界で食ってこうと思ってたころで、細身のデニムにドクターマーチンを履いて、坊主頭で‥‥って、いまとそんなに変わんないけど、さすがに30年後、こういう人生が待っているとは思ってなかったです。あの日の俺に今日の俺を見せたら、何て言うだろう。でも、心のどこかでは求めていたのかもしれないとも思います。こういう人生を。そうじゃなきゃ、買わないと思うんです。ヤキソバンのフィギュアとか。800円出して。

麺の下にかやくを敷いてから湯を注げと、部活の先輩に教えられました。そうすればフタにかやくがつかないから。そのとき自分は、なぜかうっすら反発を覚えました。小利口すぎないか、と。フタにキャベツがくっつくのも含めてカップ焼きそばじゃないか、と。それがペヤングの世界観じゃないか、と。ヤングのころって、本当にまったく。

加賀美さんの「カッコいい」

スズメバチの巣を首からぶら下げるbee

本物の巣をぶら下げるのは危険なので、ニセモノの巣をぶら下げてみましょう。スズメバチの巣のある場所には、他のハチが寄り付かないと聞くし、安全です。ただ、ワイルド・スタイルの好きな女性が寄ってきてしまう可能性はあるかも。こういうラッパーがいたらカッコいいですね。

2024-05-16-THU

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