「“いい会社”とは、これからの社会に
ほんとうに必要とされている会社であり、
その存在を思わず応援したくなるような会社のことです」
これは、鎌倉投信のファウンダー・新井和宏さんの言葉です。
新井さんは鎌倉投信を立ち上げて10年間
“いい会社”を探すため、
日本全国のたくさんの会社を訪問し、
じっくりと経営者にインタビューし、
そこで働く人やお客様と対話してきました。
新井さんが考える「これからの社会」とは。
そして、そんな社会でどう働き、どう生きるのか。
これからの時代をになう「宝」である就活生に向けて、
新井さんに講義をしていただきました。
※授業は2020年2月21日に行いました。
新井 和宏(あらい かずひろ)
プロフィール
講師 新井和宏さん
世界最高峰といわれた資産運用会社で働き、
リーマンショックを機に金融のあり方に疑問を抱く。
その後に鎌倉投信を仲間とともに立ち上げた。
「志ある会社を応援する」。その投資姿勢が共感を呼び、
「R&Iファンド大賞」の
NISA/国内株式部門で最優秀ファンド賞も受賞。
そして2018年に、共感資本社会の実現を目指して、
株式会社eumo(ユーモ)を設立。
■運用していた金額は10兆円。
僕は小さいころ、たいへん貧乏な生活をしました。
お金に苦労して、大学は夜学に通い、
就職するときは「お金だ」と思って住友信託銀行、
今の三井住友信託銀行に入りました。
1992年のことです。
同期に半沢直樹というのがいましてね(笑)。
いわゆるバブル最終入行組といわれている年で、
同期の半数以上は
東大、京大、一橋、早稲田、慶應などの一流大学。
理科大の出身で、しかも夜学から来たやつなんて
僕ぐらいしかいないわけです。
そういった環境下で、必死になってがんばりました。
あるとき人事から
「おまえ、なにしたい?」と連絡が来ました。
僕は「勉強がしたい」と言ったんですね、
お金がなくて大学院に行けなかったから。
そうしたら、なんと調査部門に送られまして。
信託銀行の調査部門には
「経済マクロ調査」と「投資調査」というのがありました。
僕は投資の部門に送られて、投資の世界に入っていきます。
で、いろんな調査をしていると、気づくわけです。
当時のアメリカはやっぱり最先端で、レベルが全然違った。
しかも海外の資産運用会社のほうが、お給料が高い(笑)。
それで8年ぐらい働いたあとに
バークレイズ・グローバル・インベスターズという
外資系の金融機関に転職しました。
今は社名が変わって、
ブラックロックという会社になってます。
ほんとうに大きな会社で、世界最大級の運用会社です。
世界最大って、どれぐらいの大きさかわかります?
約6兆ドル、日本円に換算すると600兆円以上。
日本のGDPよりも大きい金額を運用してます。
そんな会社で、
僕のチームは10兆円近くを運用していました。
10兆円というと、世界の中規模国家の予算ぐらい。
当時は「社会に貢献している実感」がありましたね。
みなさんの年金を増やすことに命を懸けている、
そういう誇りを持ってやっていました。
ところが2007年の夏、ストレス性の難病にかかりました。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)という病気で、
湿疹が出て、膿や血が出て、痛くてかゆくて眠れない。
しかも薬が効かず、ビタミンしか投与できない。
皮膚科の先生からは「7年は治らない」と言われました。
会社は、やめました。
■生かされた命を、なにに使う?
会社の元同僚からは、こう言われました。
「新井さん、よかったね。体が悲鳴を上げてたんだよ」
でも、一生懸命やってた者からすれば
「おれは負け犬だ」って心理になるんです。
世界で24時間バリバリ働いて高い年収をもらうことが、
体のせいでできない、自分の体が弱いせいだと
自分の体を責めるわけです。
でも、別の元同僚が心臓発作で亡くなるんですよ。
そのときに初めて気づくんです。
「僕は生かされた」って。
その生かされた命を「なにに使う?」と考えたとき、
僕は「社会のために使う」と決めました。
そうして「いい会社」を応援する会社、
鎌倉投信を作るわけです。
そんなときに出合った本が
『日本でいちばん大切にしたい会社』です。
もう退官されましたが法政大学の坂本光司先生が書かれた、
シリーズで70万部以上売れてるベストセラーです。
この本を読むまで、
僕にとって会社というのは
売り買いする対象でしかなかった。
儲ける対象でしかなかったんです。
でも、会社というのは人の血が流れてる、
愛してる人たちがそこに存在すると気づかされました。
それが「いい会社」なんだ、
会社は応援するものなんだと切りかえて、
それで鎌倉投信を作ったんです。
人生、変わりましたね。
(つづきます)
2020-04-27-MON