音楽プロデューサーでベーシストの
亀田誠治さん、ふたたび登場！
子供時代の話を教えてくださった前回につづき、
今回は糸井重里との対談という形で
「チーム論」をテーマに話してくださいました。
いいチーム、いい仕事はどうやって生まれる？
俺についてこい、ではなく、
献身的なメダカのような動き方で、
さまざまなプロジェクトを進めてきた亀田さん。
近年は「日比谷音楽祭」のリーダーとして、
より大勢の人を引っ張っていく役割もされています。
いろんな紆余曲折も、亀田さんが話すと
一気に明るく聞こえてくるから不思議です。
考えを真似したくなるところもたくさん。
全11回、どうぞおたのしみください。

＞亀田誠治さんプロフィール

亀田誠治（かめだ・せいじ）

1964年生まれ。

これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、
GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、
Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、[Alexandros]、
FANTASTICS from EXILE TRIBE など、
数多くのアーティストのプロデュース、
アレンジを手がける。

2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。
2007年と2015年の日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。
2021年には日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。
他、舞台音楽やブロードウェイミュージカル
「ジャニス」の日本公演総合プロデューサーを担当。

近年では、J-POPの魅力を解説する
音楽教養番組「亀田音楽専門学校（Eテレ）」
シリーズが大きな話題を呼んだ。
2019年より開催している、親子孫３世代が
ジャンルを超えて音楽体験ができるフリーイベント
「日比谷音楽祭」の実行委員長、さらに
「日比谷野音100周年記念事業」の
実行委員長も務めるなど、
様々な形で音楽の素晴らしさを伝えている。
日比谷音楽祭2023は6/3(土)、6/4(日)に開催。

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１.たいしたことない僕らの夢。

（まずはウォーミングアップのようなトークから‥‥）

糸井
‥‥先日新宿に映画を観に行ったんですけど、
デパートの「伊勢丹」の横に富士そばがあって、
そこに従業員通用口があるんです。
昔はそこに、仕事が終わった女の子を
待っている男とかがいたんですよ。
亀田
ん？　はいはいはい。
へぇぇー。
糸井
そこを久しぶりに通ったときに、
ある時代の僕の憧れは
「この伊勢丹の通用口で女の子を待ってる男」
だったのを思い出して。
当時は「それができれば死んでもいい」
ぐらいに思ってましたから。
「あれ、やらなかったな」っていうか。
亀田
（笑）そういう夢、ありますよね。

糸井
みんな「夢の大きさ」とか語りますけど、
僕、当時の夢って
とにかくそれだったからね（笑）。
バンドマンはそんなことないでしょ？
亀田
いえ‥‥僕、子供の頃のコカ・コーラの
運転手の話ってしましたっけ？
糸井
してないと思います。
亀田
僕は中学生ぐらいでなんとなく
「ミュージシャンになりたいなぁ」
って思いはじめて。
部活で水泳やってたんですけど、
めちゃくちゃしんどいんです。
クラスでも、学年でも、学校でもいちばん速くて、
平泳ぎで100m、１分23秒ぐらい。
糸井
すごいじゃないですか。
亀田
でもこれね、都大会に行くと
絶対に予選で落ちるタイムなんです。
だから毎年、夏に負け試合をしにいくという。
それで夏休みに毎週末、神宮のプールとか、
いろんなところに通うのが、切なくて切なくて。
で、そういう夏の部活帰りのある日、
町のちょっとした商店に、
いつもジュースを買って帰る
自動販売機があるんです。
そこでコカ・コーラのつなぎを着た
お兄ちゃんが、自動販売機にコーラを
パンパンパンパンパン！ってハメていって。
ものの１分ぐらいでその仕事を終えたら、
車に戻って、ラジオをパーンってつけて、
キャンディーズかなにか
音楽を聴きながら寝てるんですよ。
それを見て「すてきな仕事だ‥‥」と思って。

会場
（笑）
亀田
自分はいつか音楽に関わりたいと思っているけれど
「これもいいなぁー！」って。
そういうささやかなのが、夢でしたよ。
いつかはコカ・コーラの配達員になって、
あのつなぎを着て、自動販売機に
パパパーン！って手際よくコーラを入れて。
あとは車に戻って好きな音楽を聴く。
「これが僕のミュージックライフだ！」みたいな。
糸井
それ、全部入りだもんね。
「あいつは昔から只者じゃなかった」
とかそんなのないよね。
もっと本当にくだらないっていうか。
亀田
そう。
糸井
僕はよく文章で
「自分はたいしたことないやつだけど」
みたいに書いたりするんです。
でもそれ、読む人からちょっと
謙遜だと思われてる節があるんですよ。
亀田
それはそうですよ。
糸井
だけどそういうこと、僕は本当に
「自分はたいしたことないやつだ」
と思いながら書いているんです。
だって覚えてるのは、そういうことなんですよ。
いまのコカ・コーラの昼寝の話みたいな。
「伊勢丹の従業員通用口で待ってる男」とか（笑）。
亀田
ね。人それぞれに。
糸井
若いときの夢や憧れってそういうもので、
あの永ちゃん（矢沢永吉さん）ですら
「うどん屋をやりたかった」とか。
自分でお店をやって、うまいうどんをいつでも
腹いっぱい食えるようになりたいとか。
亀田
いま、はじまる前の雑談だと思ってたんですけど、
今日はちょっともう、
この続きがしたくなってきました（笑）。
糸井
しよう。やっちゃいましょう。
亀田
あの、たとえばですよ？
よく「ビッグになって、海の見える
高級住宅地に大邸宅を構えて」とかの夢を
実現させていく方がいるじゃないですか。
糸井
はい、いますね。
亀田
で、いまのコカ・コーラの話のほかに、
僕の夢というのが、もうひとつあって。
ずーっと思ってたものなんですけど。
それが
「ミスタードーナツとケンタッキーフライドチキンが
２つとも駅にある街に住みたい」
っていう。
会場
（笑）
亀田
ずーっと思ってて。ずーっと。
少し前、それを叶えたんですよ。
その２つがある駅に住みはじめたんですけど。
でもね、ミスドが撤退しちゃって。
ケンタッキーだけまだあって。
隣の隣の駅にはまだ両方あって
「あの町もいいな」なんて考えるんですけど。
だから僕はもう40年以上その
同じ夢というか、
「いつかはそうしたい」と思ってて。
糸井
ああー（笑）。
亀田
極めつけが僕、年４回ぐらい、
この夢を見るんです。
だいたい１クールに１回。
糸井
ドーナツとフライドチキンの夢？
亀田
そう、寝てるといい匂いがしてきて‥‥。
会場
（笑）
亀田
「あっ、これはドーナツの匂いだ。
ミスドがあった。よかったー！」って。
でね、僕は海も好きなんですけど、
エメラルド色のサンゴ礁の海が見えて。
そこにすごくきれいなお姉さんが
ケンタッキーのフライドチキンを
バスケットに入れて、持っていて。
そんなシチュエーション、あるわけないんですよ（笑）。
でもそれで
「ああ、今日はいい夢見たー！」って
気持ちよく起きる日が、
年に４回ぐらいあります。

糸井
いまでも？
亀田
いまも。
糸井
もう大好き、そういうの。
なんだろう、それ、借り物じゃないじゃないですか。
人が「夢と言えばこう」と思うものからは
外れてるかもしれないけど、
心から思ってるものだから。
亀田
で、さらにミスドのお話をしますと、
僕、高校のときに電車通学をしてたんですけど、
途中の通過駅にミスタードーナツがあったんです。
それで僕ね、あまりにもミスドが好きすぎて 。
わりと自由な、あんまり出席をとらない
学校だったので、受験勉強のときに
「英単語はミスドで覚えよう！」って、
自分で勝手にカリキュラムを決めて。
糸井
そういうタイプの人なんですね（笑）。
亀田
毎朝「行ってきまーす！」って出かけて、
両親は「誠治は時間通りに学校に行った」
と思ってるけど、
僕は学校の２つ前の駅で降りて、ミスドに行って。
そこでコーヒーとエンゼルクリームを頼んで、
英単語を一個一個覚えていくというのをやっていて。
そういうことの積み重ねなんですね。
あとはケンタッキーもね、
住んでいた街の駅前にお店があったんです。
しかもそこはいろんな洋楽が有線から流れてきて、
むちゃくちゃ気持ちが上がるんですよ。
なので大学受験のときに
「ミスドが英単語だから、
ケンタッキーは日本史にしよう！」と決めて、
その店が僕の日本史の予備校みたいになったんです。
糸井
はあー。
亀田
で、朝はミスドで英単語、帰りはケンタッキーで
日本史をやる。
そういう高校生活を２年間ぐらい続けているうちに、
30～40年後のいまでも、そのふたつが
自分の夢にまで出てくるパラダイス（笑）。
糸井
すばらしいですね。
なんでしょうかね、それ。
亀田
糸井さんにもきっとそういう場所、
おありなんじゃないですか？
さきほどの、伊勢丹とか。
糸井
あ、いや、それは別ですね。
僕のはなんかもっとなにか、やましいものですよ。
亀田
やましいもの？
糸井
やましいものっていうか、その。
亀田
いや、こういうのは掘り出すべきですよ。
それ。どうですか。
糸井
いや、まあ、それぞれに掘るのは
構わないですけどね。
会場
（笑）

（つづきます）

2023-03-01-WED

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