神田駅はほうぼうから駅まで行けるけれど、
線路よりも西側にいたら、
西口商店街を通って駅に向かうことが多い。
意識しているわけではなく、
この通りがいちばん明るいから、
自然と吸い寄せられている節はある。
ラーメン屋に鰻屋、
自分が行ったことのある
いくつかのお店をチラッと見つつ、
歩くスピードは早足だ。

この前、初めて一人でバーに行った。
とある神田のお店なのだけれど、
マスターと詮索し合うわけでもなく、
お酒のこと、情勢のこと、
そして神田のことも話した。
マスターは
「神田駅前のような駅って、案外少ないものです」
と言った。
それは、いろんなお酒の飲み方の、
夜のお店がある、
というニュアンスではあったけれど、
そうかあと思いつつ、
たしかに25歳にもなって初めて
一人でバーに行くぐらいなのだから、
いろいろと無頓着に生きてきたなあという気持ちで、
多少酔った。
けれど、こういう知らない世界のことは、
知らないという選択でもあるのだから、
一応勘弁して欲しいなあ。
いずれにせよ、
バーにはもう少し行ってみよう。
お酒は弱いし、知識もないけれど、
神田で過ごす静かな夜を、
見つけられそうな気がする。

そして、神田駅に到着したときに、
西口商店街のネオンが目に入った。
明るさそのものは、
今までと変わらないはずなのに、
どうして今まで何も感じなかったのだろう。
景色に違いがあるとすれば、
商店街を歩いている人の数が増えた、ということだ。
居酒屋の外飲み席も、
ぼちぼちと席が埋まっている。
不思議だけれど、
数ヶ月前はこの辺りもほんとうに静かだった。
そのときは、立ち止まることすら違和感があった。
どうやらまちを歩く人が増えると、
ネオンの明るさは眩しくなるらしい。