ずっと気になっていた工事現場がある。
場所は神田小川町と神田猿楽町あたりで、
小学校と幼稚園が新しくなるそうだ。
周囲は仮囲いによって、
隣の錦華公園までぐるっと囲まれている。
もちろん中の様子はわからない。
何が気になっていたのかというと、
工事現場の中よりも、夜に現れる光だった。

ある夜、とっても美味しいうどん店の
丸香さんがある錦華通りを歩いていたとき、
足が止まった。
近くがその工事現場になっていて、
夜も工事を進めているようだった。
そのためであろう設置された、
出入り口を照らすスポットライトが、
とても強力だったのだ。

ライトは右と左の両サイドから、
透明な光を放っている。
街灯のオレンジ色とは違うし、
ライトの位置がやや低い。
それに、ナイターでフットサルができそうなぐらい強力だ。
そうなると、
光が強くて近いわけで、
歩いたときの影が濃くて大きい。
ぼくはそれが面白かった。
しかし、自分の影はつまらないので、
もっと別の角度で撮れないかなあと、
何度か夜に歩くようになったのだった。

そして今回、
神田でお会いした方がいて、
一緒に食事をしたあと、
外は夜になっていた。
ぼくが散策をしてから帰りますとお伝えをしたら、
一緒に行きますと言ってくださって、
そのときに
「行きたいところがあるのですが‥‥」と。
それで、錦華通りへやって来た。

逆の立場からすれば、突然、
工事現場の近くに案内をされるわけで、
謎である。
加えて
「せっかくなので、そこに立ってもらえますか？」
などと言われるわけで、
なにがせっかくであろう。
と、申し訳ない気持ちがありつつも、
ぼくにとってはとても貴重な機会であった。

そう、こっちの角度から
見てみたかったんだよなあと思いつつ、
写真を撮った。
そして、オッケーです、
ありがとうございますとお伝えをしたときに、
すぐ近くをひと組の親子が通り過ぎた。
小学生ぐらいの娘さんが、
お母さんと手をつないで、
目の前に出来た大きな影を見て、
バタバタと足を大きく動かした。
お母さんは何やってるのという素振りをしながら、
娘さんと楽しそうに通り過ぎていく。
この影を見ていたのは、
ひとりじゃなかった。