テレビでひっぱりだこの滝沢カレンさんが、
ちょっと変わったレシピ本を出しました。
おいしそうな料理が並んでいるけれど、
文章を読んでみると、あれ? あれれ?
「何も知らない鶏肉」「目つぶし覚悟の玉ねぎ」
すべて、カレンさん流の言葉で解説された
独特な世界観の“レシピ文学”になっています。
そんなカレンさんから糸井重里に、
この本『カレンの台所』の帯に添える
コメントのご依頼をいただきました。
「この人は、日本語をこわしているのではない。
あたらしい日本語をデザインしているのだ。」
と書いた糸井が、滝沢カレンさんの日本語は
どうできあがったのか対談しながら探ります。
滝沢カレン(たきざわかれん)
1992年東京生まれ。
2008年、モデルデビュー。
現在は、モデル以外にもMC、女優と幅広く活躍。
主なレギュラー出演番組に
『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ)、
『沸騰ワード10』(日本テレビ)、
『伯山カレンの反省だ!!』(テレビ朝日)、
『ソクラテスのため息
~滝沢カレンのわかるまで教えてください~』
(テレビ東京)など。
Instagram @takizawakarenofficial
- 糸井
- カレンさんの文章って、
簡単に真似できるものじゃなかったんだよ。
せっかくだから『カレンの台所』の
たまたま目に入ったページを読むとね、
これ、ロールキャベツの作り方で
「両手をバサっと大袈裟に開いた
キャベツ男の胸元に豚ひき肉乙女は飛び込みます」。
その通りだと思うんだけど、
ロールキャベツのレシピに男女を出すんだよ。
もう、詩だよね。
- 滝沢
- そんないいこと言ってくれるんですか!
料理している時に絵が浮かんで、
キャベツがバッと手を広げたんです。
ロールキャベツはもう、
男と女の台所での出来事だなって。
- 糸井
- 頭に浮かんでいるのはどんな絵なの?
写真みたいな絵なのか、それとも子どもっぽい絵?
- 滝沢
- 絵本みたいな絵ですけど、顔はありません。
頭の中でぶわっと浮かんだ時に
キャベツが人間のように動いていたんです。
そこに豚ひき肉乙女がすごく柔らかい表情で、
頬を赤らめてるという絵がふゎーって出てきました。
なんて素敵な物語なんだろうと思って書いたんです。
- 糸井
- キャベツと豚ひき肉の出会いが、
まさしくロールキャベツだよね。
- 滝沢
- それがロールキャベツです。
いい話ですよね。
- 糸井
- いい話ですよねえ(笑)。
- 滝沢
- 自分の考えは子どもっぽいなって、いつも思わされます。
絵本が大好きだったので、
今でも子どもっぽい絵が好きなんです。
だからこのレシピ本も
「大人の人にすごくおすすめします」
という自分はそこにいないんです。
- 糸井
- 自分と、料理を作る物語とが話をしているんだね。
その話を聞いた上で、ロールキャベツの爪楊枝は
どう表現されているんだろうって思ったんだよ。
「豚ひき肉乙女が完全に私たちの目から
いなくなったら両想い確定です」。
ひき肉がキャベツに包まれて両想いになった、
ここに爪楊枝が登場します。
「結婚指輪がてらに爪楊枝などの棒を
ぶっさして離れないように誓ってもらいます」。
いやー、たまんないよねえ!
- 滝沢
- ありがとうございます。
- 糸井
- 夢見がちな不思議ちゃんじゃないところが
「ぶっさして」ですよ。
思いきりのいいハードボイルドな台詞がパンと入る。
離れないように誓ってもらうんだよね。
- 滝沢
- ぐにゅぐにゅと刺してしまうと、
キャベツにどんどん穴が開いちゃうんで、
ここはもう、ぶっ刺そうと思って。
- 糸井
- 爪楊枝が結婚指輪の代わりになった
ファンタジーなんだけど、
そこで込めている力は作者の力だよね。
- 滝沢
- 嬉しい、すごくわかっていただいてます。
- 糸井
- 響きますよ、それは。
この本ではどこをめくっても
こんなことがずっと書いてあるわけです。
じゃあ、他のページも読んでみましょうか。
「ある程度の男子学校になるなという分まで
ばらけさせたら」とかね。
男子学校が出てくるんだよ、麻婆豆腐に。
- 滝沢
- ふふ。たしかに。
- 糸井
- レシピを読んでみましょうか。
「まずは油を引いたフライパンに
生姜とにんにくをレディファーストしてあげ」。
つまり、生姜とにんにくは主役ではない、
レディの役割なんだね。
- 滝沢
- そうです、あれだけ小さく刻んだので。
- 糸井
- 次にいきましょうか。
「なんだか匂ってきたらひき肉塊を入れ」。
レディファーストで炒めた生姜とにんにくのあとに、
主役の挽肉の塊を入れているわけです。
ここは「なんだか匂ってきたら」が
文章としてうまいんですよ。
「匂ってきた」だけじゃなくて、
「なんだか匂ってきたら」というところに、
あなたの肉体があるんですよ。
- 滝沢
- ふわんと優しく鼻に香ってくるように。
ガッツキじゃないんです。
- 糸井
- 匂いが、向こうからやってきてくれる。
うすーくきて、だんだんと匂ってくるんだよね。
「まな板で千切りするかのように、
ガツガツとヘラで刺激してあげてください」。
これもですね、フライパンの油の上で
ひき肉をヘラでつぶしているんだよね。
- 滝沢
- そうです。すごいっ!
- 糸井
- この文から全部伝わってくるんですよ。
「ガツガツ」というところに、
ロールキャベツの「ぶっさして」と
同じような表現が出てくるんです。
- 滝沢
- 豪快なところはあるかもしれません。
- 糸井
- 料理にはメリハリが要るんだよ。
ひき肉の塊だから
ガリガリガリってやらないとダメで、
なでているわけにはいかないんだよね。
「刺激してあげてください」というのもさ、
たしかに切るわけじゃないし、
ばらけさせるという言い方もおかしいんで、
刺激してあげてくださいになったんだろうなあ。
「私的には、この言葉以外になかったんです」
というふうにできているから、
読んでいて、ものすっごい疲れるの。
- 滝沢
- えっ、疲れちゃった(笑)。
- 糸井
- これはね、読みやすい本じゃないの。
要するに、作者に心を合わせたくなるんです。
- 滝沢
- 私にですか?
- 糸井
- だから疲れるんです。
- 滝沢
- やさしい!
- 糸井
- 本を読むって、そういうことなんだよ。
- 滝沢
- どんな本を読んでも疲れますか。
- 糸井
- つまんない文章の方が、読むのは簡単なのよ。
間違っているけどもおもしろい文章だとか、
子どもが書いた文章とかは、
書いた人の気持ちに重ねたくなるから、
読み進めていくのが大変なのよ。
言ってみれば、これを書いている作者の背後に
読者がくっついて読んでいるわけ。
- 滝沢
- 背中に糸井さんが‥‥?
そこまでの人、なかなかいないと思います。
- 糸井
- でもね、みんな無意識にそうすると思うよ。
麻婆豆腐のそのあとを読むと、
「ある程度の男子学校になるな
という分までバラけさせたら」。
共学だったら男と女がいるから、
2人でくっついていたり、3人で溜まったりする。
男子校だとお互いの仲はよくても、
「俺は俺で」というふうにバラバラなんだよ。
それが男子校のばらつき方なんです。
もうね、ほんっと見事。
- 滝沢
- いえいえ。
- 糸井
- まとめが、その後ろですよ。
「男子という名のひき肉は喜びに変わり
どんどん男らしくなっていきます」。
ここはもうね、ぼくにもわからない(笑)。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- おいしさを醸しだしはじめるのかな?
- 滝沢
- そう、ひき肉がいかつくなってくるんです。
大人の顔になったなと思わせるひき肉が、
そこにはありました。
- 糸井
- はあー、たまんないね!
あのさ、この本を読んでみたけど
ちっちゃい文字で
書いているのがもったいないのよ。
- 滝沢
- えっ?
(つづきます)
2020-04-17-FRI
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滝沢カレンさん初の料理本、
『カレンの台所』ができました!