いまから2年ほど前、
NHKのディレクター保坂慶太さんに
取材させていただきました。
当時、保坂さんがはじめようとしていた
プロジェクトが、
とっても興味深かったからです。
それは「WDR」といって、
脚本家を公募して選抜チームをつくり、
ワクワク・ドキドキの止まらない
連続ドラマをつくる‥‥というもの。
あれから2年、そのプロジェクトから
ひとつのドラマがうまれました。
それが10月5日(土)から放映される
連続ドラマ『3000万』。
このたび再び、保坂さんに聞きました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。

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第1回  2025人から選ばれた4人。

──
まだ、第一話しか拝見していませんが、
とってもおもしろかったです。
保坂
本当ですか。
──
前回のプロジェクト開始前の取材では
「ドキドキ、ワクワクの止まらない
連続ドラマがつくりたい」
っておっしゃっていたじゃないですか。
まさにそんな第1話だったと思います。
保坂
よかった。ありがとうございます。

──
今回のインタビューは、
その第1話のオンエアの前後にかけて
更新されていくと思うので、
そんなにそこまで、
具体的には言えないと思うんですけど。
保坂
ええ。
──
主人公の夫婦が、何らかの事件に
「巻き込まれていく」話なのかなあって、
事前には思っていたんです、ふつうに。
でも、第1話のラストが
「えっ、そんな? 巻き込んでく感じ?」
みたいな雰囲気で終わっていて。
実際どうなるのかは、わからないですが。
保坂
たしかに、自ら罠にはまっていくような、
そういう予感をはらんでるかも。
──
昨日の晩に見たんで、
いま、続きが、すっごい気になってます。
見た人がそう思うように、
いろいろ設計しているんだと思いますが。
そのあたりのことも
いろいろとおうかがいしたいんですけど、
まずはやっぱり、
前回の取材のあとにどうなったのか、
そこから教えていただけますか。
たとえば、どれくらいの応募が来たとか。
保坂
はい、合計で「2025」です。
──
えええ、すごい。
保坂
はい、ありがたいことに。
課題としては「15ページの脚本」で、
話の内容は何でもOK。
「続きが気になる、という点をだけを
大事にしてほしい」とお願いしました。
また、その15ページで
物語が終わる必要もありません、とも。
──
ぜんぶ読んだんですか、2025作。
保坂
はい、もちろんです。
何人かで手わけはしましたが、ぜんぶ。
課題を15ページにした理由も、
なるべく多くの候補から選びたいなと
思ったからなんです。
ただ、予想以上の応募が来ましたし、
他のドラマの演出をしながら
読んでいたこともあって、大変でした。
──
つまり「15ページの脚本」というのは
「短い」ということですか。
保坂
そうですね、いわゆるコンクールなど
審査対象の脚本としては短いです。
通常、連続ドラマ1話ぶんの脚本でも
60ページとかありますし、
応募企画によっては、
シリーズ全体のプロットまでも含めて
審査したりするので。
──
その分量の「軽さ」もあって、
2000名を超える応募作が届いた、と。
どうやって、選んでいったんですか。
保坂
まずは、すべての応募作を
上田明子プロデューサー、
中山英臣プロデューサーと
分担して読んだうえで議論し、
「42名」に絞りました。
そして、その42名全員と面談して
応募作についてフィードバックしつつ、
10日後までに
リライトしたものを再提出いただいて、
第2次審査としました。
そうやって、最終10名が残ったんです。
──
最初の42人に絞った時点では、
何人くらい残そうと決めてたんですか。
保坂
とくに決めてはいなかったんですけど、
フィードバック面談を、
ひとりにつき
1時間は確保しようと思っていたので。
──
おおお、それだけで「42時間」。
それじゃあ、闇雲には残せないですね。
保坂さん、全員に会ったんですか。
保坂
はい、まだコロナ禍の時期だったので、
オンラインですけど。
でも、ただ面談するだけじゃなくて、
42本分のホン打ち‥‥つまり
脚本についての打ち合わせをする、
みたいなことだったので、
このときもまた、大変でした(笑)。
──
ひゃー。42人の面談‥‥だけじゃなく、
応募作を読み込んで、
改善点をフィードバックする‥‥って。
ちなみに応募してきたのって、
どういった人たちなんですか。
保坂
さまざまなバックグラウンドの方々が
応募してくださいました。
劇団で脚本を書いている作家さんから、
いちども書いたことのない方まで。
──
ようするに、脚本として
いわば「整ってないもの」も混じると。
それ、読む作業もよけい大変そうです。
保坂
でも、そこがおもしろかったんですよ。
書いたことのない方の脚本って、
ある意味でセオリーごと知らないので、
見た目の体裁としては、
整っていはいないんですけど、
話の展開がぶっ飛んでたりするんです。
これは化けるかもしれないと思って、
面談の時間をいただいた方もいました。
──
そういう「素人の方」の応募も含めて、
「ぜんぶ読んだ」んですね。
保坂
はい。2年前に募集をかけた段階では、
1ページ、2ページ読めば、
これはなさそうかなあみたいなことが、
わかると思っていたんです。
でも、実際の応募作に当たりだしたら、
「ひょっとしたら、次のページに、
いいセリフが出てくるかもしれない、
最後の最後で、
めちゃくちゃおもしろい話の展開が
待っているかもしれない」
って、どこか期待しながら読むんです。
結果、最後まで読むことに。
──
なるほど。
保坂
応募者の方も
それぞれが時間と情熱を注いで
執筆してくださったと思うので、
感謝の気持ちもあって。
当たり前のことですが、
こちらも全力で真剣に読みました。
──
そうですよね、それは。
保坂
あと、やってみてわかったんですが、
15ページの脚本それぞれに、
当然ですが、
「ひとつの世界観」があるんです。
キャラクターや時代設定だけでなく、
舞台が海外だったり、
架空の地域だったりもするんですね。
1日のノルマとして
100件は読もうと思ってたんですが、
できませんでした。
頭の中をリセットするのに、
めちゃくちゃ時間がかかったんです。
──
あー、ひとつの世界から
次の世界へ行くのが、大変だった。
保坂
結局、1日「70件」くらいが
最大で読めたって感じでした。
──
それでも、すごいことですよ(笑)。
でも、そういうプロセスを経て、
2000名超が、精鋭10名に絞られて。
保坂
そこで、ようやく
脚本開発チームWDRプロジェクトが、
スタートしたんです。
始動から約7か月をかけて、
合計19本の「パイロット」つまり
シリーズの第1話を、
10名の脚本家が書き上げました。
──
そして、その中から選ばれたのが、
今回の連続ドラマ『3000万』。
保坂
はい。弥重早希子さんの脚本ですね。
──
あ、第1話で
「作」とクレジットされていた方。
保坂
彼女の作品なので、
まず第1話を書いていただいたんです。
でも第2話を書いたのは、別の方。
第3話もまた別の方‥‥という感じで、
各話を分担してつくっています。
──
あ、そういうことなんですね。
ぼく、いちど、打ち合わせのようすを
見学させてもらってるんですが、
あのとき、
脚本家さんは4人だったんですけれど。
保坂
はい。19のパイロットを書いた時点で
プロジェクトはいったん解散し、
どの作品ならシリーズ開発できるかと
NHKの局内で揉んだんです。
結果、弥重さんの作品が選ばれました。
そして、その弥重さんの脚本をもとに
連続ドラマをつくるにあたって、
他の3人の脚本家に、
あらためて、集まってもらったんです。
──
なるほど。男女2名ずつ、でしたよね。
みなさん、
それぞれ、どういった方々なんですか。
保坂
まずは、作品を書いた弥重早希子さん。
彼女は映画の世界の脚本家で、
若手の脚本家の登竜門的な賞・城戸賞で
佳作を受賞しています。
そして、演劇の世界で活躍されてきた、
松井周さん。
松井さんは岸田國士戯曲賞の受賞作家。
──
松井さんは、存じ上げています。
以前、柄本明さんの舞台を取材したとき、
脚本が松井さんで、
そのときに
インタビューさせていただいたんですよ。
保坂
そうなんですよね、聞いてます。
そして「シンクロ少女」という劇団を
主宰している、名嘉友美さん。
テレビドラマの脚本は
書いたことがないという人だったので、
それこそ
「応募作の『体裁』が整っていない方」
のおひとりでした。
──
体裁は整ってなくても、光っていた。
保坂
そうですね、センスの塊だなと感じました。
そして最後に、山口智之さん。
彼は、最近だと
朝ドラ『ブギウギ』も執筆された脚本家、
足立紳さんに師事されていて、
共作もあります。
シナリオ作家協会の所属で、
やはり映画を中心に書いている方です。
──
主戦場も経歴も、作法も異なる4人が、
ひとつのチームとなって、
1本の連続ドラマをつくりあげた。
それが、NHK土曜ドラマ『3000万』。
保坂
はい。

(つづきます)

2024-10-04-FRI

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  • WDRプロジェクトからうまれた 連続ドラマ『3000万』は 10月5日(土)夜10時、第一話放映。

    いまから2年とちょっと前に
    保坂さんがはじめたWDRプロジェクトから、
    ついに連続ドラマがうまれました。
    タイトルは『3000万』。
    安達祐実さん、青木崇高さん演じる夫婦が、
    偶然に遭遇した事件から、
    ドロ沼にはまっていくクライムサスペンス、
    だそうです。
    取材の都合上、第1話だけ拝見しましたが、
    すでにして、
    ドキドキ・ワクワクが止まらなそうな予感。
    全8話、みなさんと一緒に、
    しばらく
    土曜の夜を楽しみにしたいと思います!

    土曜ドラマ『3000万』
    NHK総合
    10月5日より毎週土曜夜10時放送