いまから2年ほど前、
NHKのディレクター保坂慶太さんに
取材させていただきました。
当時、保坂さんがはじめようとしていた
プロジェクトが、
とっても興味深かったからです。
それは「WDR」といって、
脚本家を公募して選抜チームをつくり、
ワクワク・ドキドキの止まらない
連続ドラマをつくる‥‥というもの。
あれから2年、そのプロジェクトから
ひとつのドラマがうまれました。
それが10月5日(土)から放映される
連続ドラマ『3000万』。
このたび再び、保坂さんに聞きました。
担当は「ほぼ日」の奥野です。
- ──
- 魅力も武器も舞台もそれぞれ異なる4人が、
脚本家チームとしてひとつに結集。 - 何だかもう、子どものころ夢中で見ていた
『サイボーグ009』みたいな感じで、
この時点で
ドキドキワクワクが止まらないんですけど、
「テレビの連続ドラマ」を
主戦場にしている方はいなかったんですね。
- 保坂
- そうなんです。松井さんと山口さんは、
テレビドラマを書いた経験もあるそうなんですが、
彼らも、基本は演劇や映画の方なので。
- ──
- 場所がちがえば、脚本もちがうんですかね。
映画と舞台と連続ドラマとでは。
- 保坂
- ちがいますね。「尺」の長さから、何から。
- 映画や舞台といった
2時間前後くらいの「尺」で描ける物語と、
今回の『3000万』は
「1話、49分」が「8話」あるんですが、
その長さの物語との間には、
やっぱり、かなりちがいはあると思います。
- ──
- なるほど。
- 保坂
- 映画や舞台の場合、劇場に入れば、
基本的には最後まで見てくれる前提ですが、
テレビの連続ドラマって
つねに「チャンネルを替えられるリスク」
に、さらされていますよね。 - ですから、毎回どころか
毎シーンごとの「引き」の部分が、
より重要になってくるんです。
- ──
- それってつまり「入り」とか「つかみ」と
呼ばれるようなところですか。
- 保坂
- そうなんですが、ただ「入り」だけでなく、
テレビでは、
ところどころに「引き」が必要になります。
極端に言えば、1秒でも飽きたら
チャンネルスイッチされてしまうからです。 - NHKにはCMがありませんが、
民放はいわゆる「CMまたぎ」があるので、
CMの前にフックをつけていたりします。
同様に海外ドラマでも各アクトの終わりを
「アクトブレイク」といって、
引っ張りの要素を盛り込む工夫をしている。
今回は、その論法を採り入れています。
- ──
- シビアな勝負をしているんですね‥‥。
- 保坂
- また、映画やドラマは映像を編集しますが、
舞台は「生」です。
お客さん自身の視線で、
物語が切り取られていく点もちがいますね。
- ──
- となると、脚本もちがってくる。なるほど。
- で、今回は、たまたまなんでしょうけど、
テレビの連続ドラマ以外の世界から、
4人の脚本家たちが集まったわけですね。
- 保坂
- そうなんです。
- ──
- 男女2名ずつという、この組み合わせは。
- 保坂
- はい、男女比について
まったく配慮しなかったかって言ったら
ウソになるんですが、
そこが絶対の基準ではありませんでした。 - あくまで、脚本家としての
魅力や能力を複合的に勘案した結果です。
弥重さんが入ることは確定していたので、
彼女の作品の作風と相性がいいか、
あるいは逆に、
彼女の持っていない視点を持っているか、
などなど、
いろんな要素を考えながら、決めました。
- ──
- なるほど。
- 保坂
- ただ、なんとなくですけど、
「4人がいいかなあ」とは思ってました。
3人でもなく、5人でもなく。 - というのも、10人で活動していたときも、
ずっと全員で一緒に動いていると、
ひとりひとりの方に割ける時間が
少なくなってしまうので、
途中から「3・3・4」にわけたんです。
- ──
- おお。3つのかたまりに。
- 保坂
- そのとき「4人が適正かもしれない」と。
- というのも、
ぼくや、もう1人の演出の小林直毅、
上田明子プロデューサー、
制作統括の渡辺哲也も議論に加わるので、
テーブルを囲む人数が、
結局、毎回6人とか7人になるんです。
- ──
- ええ。
- 保坂
- それ以上の人数になると、
距離的にも離れて会話をすることになるし、
1人ひとりが発言しない時間も増えてくる。
4人だと意見の総量もちょうどよかったし、
メンバーどうしの関係の構築においても
変に遠慮が生まれずに済んだり‥‥
よりうまくいきそうな感触がありました。
じゃあ、どんな4人が集まったら
最強のチームになるか‥‥
というような発想で人選した感じですね。
- ──
- ひとつのチームとしての総合力を高めるには‥‥
という方針で、メンバーを選んだと。
- 保坂
- そして、実際の打ち合わせを重ねながら、
各話の脚本については、
誰かひとりがメインで書くということを、
途中の段階で決めました。 - 当初は、ある人が構成を担当して、
ある人がキャラクターを書いて‥‥
というかたちも、
あり得るだろうとは思っていたんですが。
- ──
- つまり、全8回の脚本を、お話ごとに、
4人で分担して書きつなぐという方法。
- 保坂
- そうです。
- 今回の取り組みの目標のひとつとして、
それぞれの作家性に着目して、
才能発掘のようなことも意識したいと
考えていたんです。
つまり、今回の作品をステップにして
有名になってもらいたい、
そういう気持ちもあったんですよ。
- ──
- なるほど。
- 保坂
- であるならば、そもそもの物語を考えた
弥重さんだけじゃなくて、
4人それぞれの才能に、
もっと直接的に光を当てられないか、と。 - 名嘉さんなら名嘉さんの物語る力や
松井さんの世界観、
そして山口さんの視点‥‥を、
前面に出せるようなつくり方にしたかった。
そこで、毎回の「メインライター」を
順番に担う形式にしよう、と。
そういうことのできる人‥‥といった点も、
選考の大きなポイントでしたね。
- ──
- その回のメインの脚本家が書いた脚本を前に、
みんなで意見を言い合って、
より磨き込んでいく‥‥みたいな感じですか。
- 保坂
- そうです。
- 第1話のメインライターは弥重さんですけど、
第2話のメインライターは名嘉さんだったり。
- ──
- 前のお話を書いた人からバトンを受け取って、
自分の100メートルを自分なりに走り、
また次の人に、物語のバトンを渡していくと。
- 保坂
- そうですね。
- ──
- 保坂さんもはじめての試みだと思いますけど、
4人の脚本家さんたちだって、
同じく、はじめての経験だったわけですよね。 - やってみて、実際、どうだったんでしょうね。
- 保坂
- まあ、確実に、大変な点もあったと思います。
だってこれまでは、
ひとりで原稿に向ってきたみなさんですから。 - ただ、最初にみんなで
全8話の全体のプロットはつくっていました。
大きくはこういう展開の物語であると、
事前に、すり合わせは済ませていたんですね。
- ──
- ええ。
- 保坂
- 毎週かならず打ち合わせしていたので、
路線変更がちょっと生じたら、すぐにわかる。 - やっぱりみなさん、筆が進むと、
「もっとおもしろいほう」へ行きたくなって、
すり合わせではこうだったけど、
「ごめん。書いてみたら、こうなっちゃった」
みたいなこともあったり(笑)。
「ええっ、ここで終わっちゃうんだ!」とか。
- ──
- なるほど。それはありそうですよね、大いに。
- 実際に手を動かしはじめたら、
想定どおりには、まあ、いかない気がします。
- 保坂
- だから、次にバトンを受け取る人との間で
「ここ、こうなってると、
次のシーンでは、こうはならないんですよね」
みたいな感じで調整したりはありました。 - 毎回、相当な量の展開や感情や情報を
凝縮する必要があったので、
こっちでは入らないからそっちに入れてとか。
- ──
- 基本は、話し合いで解決できるものですか。
物語だから、
ちょっとのほころびも破綻につながりそう。
- 保坂
- まあ、「いや、さすがに、それは無理だよ!」
みたいなときは
押し戻したりもしましたが、
「でも、そっちのほうが、おもしろいなあ。
わかった。そっちでそうできるように、
こっちで何とか調整する!」とか、
みなさん臨機応変に対応してくださいまして。
- ──
- プロだなあ。かっこいい。
- 保坂
- 結局、自分の担当回だけおもしろければいい、
みたいな人はいなかったんですね。
チーム全体として、この物語を、
どう、よりおもしろくできるか考えてたので。
- ──
- プロ同士が集まってそれができるのは、
すごいと思います。 - それぞれに作家性があるわけですから。
- 保坂
- みんな、言うべきことは言うんだけど、
変な諍いなどは起こりませんでした。 - 大前提として、全員が全員、お互いに
それぞれの作家性を、
尊重しあっていることがわかるんです。
- ──
- おお‥‥。
- 保坂
- 松井さんのセリフ回し、
やっぱり、独特でおもしろいよねとか、
ごちゃごちゃした状態を整理するのは
山口くんが得意だよねとか、
それぞれに持っている「武器」を
互いに認め合えるチームだったんです。 - ぼくが全体の調整をするような場面も
ありましたが、
4人が主体的に取り組んでくれました。
- ──
- それぞれの話にメインライターがいる、
その時点で
各人の作家性は担保されていたことが、
プロ同士の協業が
うまくいった理由のひとつなんですね。 - なるほど‥‥。
- 保坂
- 物語の「背骨をとおす」ような意味で、
ぼくのほうから
「こうしたほうがいい、ああしたい」
と提案することもありましたし、
弥重さんが、他の人の担当回について
推敲したりとか、
そういうようなことも試しました。
- ──
- もともとのお話をつくった弥重さんに、
意見をもらうみたいなことですか。
- 保坂
- それをそのまま採用するわけじゃなく、
どこまで取り入れるか、
ひとつひとつ検討していきました。
それぞれの話の「最終的な決定者」は、
その回のメインライターなので。 - すべてが「はじめてのこと」ばかりで、
試行錯誤の連続でしたけど。
- ──
- そういうことって、
アメリカで勉強してきたことのなかに、
含まれているんですか、
- 保坂
- ぼくがアメリカで学んできたことは、
最初の7か月間のところ。 - それも、執筆する側としてなんです。
- ──
- あ、そうか、演出家としてではなく。
- 保坂
- だから、最初の7ヶ月間に関しては、
イメージ通りにやれたんですが、
そのあと、
実際4人でシリーズ開発する段階は、
完全に未知の領域でした。 - 全員で手探りしながら、
少しずつ進んできたような感じです。
(つづきます)
2024-10-05-SAT
-
いまから2年とちょっと前に
保坂さんがはじめたWDRプロジェクトから、
ついに連続ドラマがうまれました。
タイトルは『3000万』。
安達祐実さん、青木崇高さん演じる夫婦が、
偶然に遭遇した事件から、
ドロ沼にはまっていくクライムサスペンス。
全8話、しばらく、みなさんと一緒に
土曜日の夜を楽しみにしたいと思います!土曜ドラマ『3000万』
NHK総合
10月5日より毎週土曜夜10時放送