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「kijinokanosei」がつくった生地に
「花格子」(はなこうし)と名付けた織物があります。
これをつくったのが、尾州の三星(みつぼし)毛糸
吉川修一さんと田中喜子さんが工場を訪ね、
出会いから生地づくりのことを振り返りました。
三星毛糸で出迎えてくださったのは、
生地づくりの現場にたつ森谷佳苗さんと、
5代目の若き社長、岩田真吾さんでした。

吉川
今日はお時間をいただいてありがとうございます。
「kijinokanosei」プロジェクトで協業してくださった
三星毛糸さんは、尾州でも大手のメーカーですが、
最近の尾州は、いかがですか?
岩田
ひと昔前、私の父の代は、
東京のアパレルの方も
尾州によく来てくださったとききます。
「いい生地をおさえるぞ!」
というような勢いがあったと。
ただ、だんだんと経費節減の流れもあって、
尾州のことがあまり知られなくなったと感じます。
それで私たちは、ものづくりの背景をふくめて、
「こんなことをしていますよ」ということを
きちんと知っていただく努力をすべきだな、
と痛感しているところです。
だからこうして来ていただけるのは、
本当に嬉しいです。

▲三星毛織 代表 岩田真吾さん ▲三星毛織 代表 岩田真吾さん

森谷
よろしくお願いします。

▲三星毛織 森谷佳苗さん ▲三星毛織 森谷佳苗さん

田中
こちらこそありがとうございます。
今回、三星さんといっしょにつくった素材は、
「花格子」という名前にしたのですけれど、
組織としては5、60年前からあるものなんです。
普遍的というほどではないにしろ、
極端に珍しい組織ではないのですが、
色と糸の組み合わせで、表現が変わるわけです。
そこで「いかにかわいいものがつくれるか」を、
一緒に考えていただきました。
森谷さんとはずいぶん長いお付き合いで、
ものづくりに対して、私たちのやりたいことを
とてもよく理解してくださっています。
「kijinokanosei」は、そういう人とでなければ
ものづくりができないだろうと感じていたので、
ほんとうによかったです。
ちょっと専門的になっちゃうんですけど、
「花格子」のむずかしさは、
わざわざ経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の
質感を変えたことですよね。
色は一緒なんだけど、紡毛(ぼうもう)と
梳毛(そもう)を使い分けている。

▲「花格子」 ▲「花格子」

岩田
紡毛というのは、フラノやメルトン、
ツイード、ホームスパンなどに使われるもので、
短い羊毛を主体とした糸です。
糸が太く、粗い印象があるけれど、
柔らかくて、織物になったときに凹凸感がでるので、
冬のジャケットなどが紡毛ですね。
いっぽう、梳毛は、凹凸感が少なくて光沢感があり、
スーツ地のような感じになる糸です。
繊維長の長い羊毛の繊維を引き揃えて、
短い毛を取り除いて使います。
そして糸全体に均一に撚りをかけて、
表面を滑らかにします。
田中
「花格子」は、いかに丸みをかわいく出すか、と、
けっこう苦労しましたよね。
森谷
はい。最初は経糸と緯糸を同じ糸質にしていたら‥‥。
岩田
詰まりすぎちゃうんですよね。
田中
なんだか、かわいくなくなるんです。
森谷
それで、緯糸だけ紡毛にしたら、
程よく、目指すところの風合いになって。
──
この青い所がふわっとしているのは、
そんなひみつがあったんですね。
森谷
そうですね。
凹凸感が、梳毛と紡毛で違ってくるので、
いろいろ実験して決めました。
岩田
立体だってことですよね。
田中
そうなんです。
ペタンコにならないように。

▲工場内の織機で「花格子」が織られていました。 ▲工場内の織機で「花格子」が織られていました。

──
その元々のイメージは
田中さんの発案なんですか。
田中
そうですね。こうしたい、というイメージがあって、
そこから色の組み合わせや糸の番手、
どれくらいの大きさのスクエアにするのかなど、
どんどん突き詰めていきました。
始めは仮の色で織っていただいて。
森谷
そうですね、試織をして‥‥本物を持ってきましょうか、
お待ちください(離席する)。
岩田
森谷は僕がこの会社を継いで最初に採用した社員なんです。
──
そうなんですか!
岩田
僕が12年前くらいに戻ってきてから、
数年経った頃だったかな、
たしか京都駅で
「三星に来てもらえませんか」と口説きました。
──
えっ! どういうことですか。
岩田
当時、森谷は京都にいたんです。
その前は盛岡で手紡ぎ職人の所にいたんですが、
実家のある京都に戻ってきていた。
そんなタイミングで彼女の先輩にあたる
共通の知り合いの女性から、
「繊維の仕事をしたいという人が京都にいる」と聞き、
京都駅のカフェで紹介してもらったんです。
それで‥‥。
森谷
(サンプルを手に戻る)
お待たせしました。
あら? 私がここに来た経緯の話ですか(笑)。
あれから10年以上になりますよね。
岩田
そうです。三星に来てくれてよかったです。
それが「kijinokanosei」にもつながって。
吉川
ありがとうございます。
森谷
(笑)それで──、
これが生機(きばた)です。

森谷
織っただけだとこういうガサっとした状態なんです。
これが整理加工されると、風合いも出るし、
なんて言うんでしょう、かわいい形も出る。
吉川
別ものになるんですね。
田中
本当、もう違うものを見てるみたいです。
試織は梳毛・梳毛、
完成品は経糸が梳毛、緯糸が紡毛です。
タテは細く、ヨコがふわっとしてるんです。
その方が程よいおもしろさがあるなあと。

▲左上:すべて梳毛をつかった試織。/中央:経緯の糸質を変えて織った生機。/右:それに整理加工を施した完成品。目が詰まり、糸質の違いもあいまって、ふわっと丸みのある生地に。 ▲左上:すべて梳毛をつかった試織。/中央:経緯の糸質を変えて織った生機。/右:それに整理加工を施した完成品。目が詰まり、糸質の違いもあいまって、ふわっと丸みのある生地に。

──
そもそも、なんですが、
田中さんは森谷さんに、
どうやってイメージを伝えるんですか。
デザイン画をお渡しする?
田中
いえ、古い組織の見本と、どういう色で、
どういう番手で、どれくらいの膨らみがあって、
ということを伝えます。
──
かつて存在した素晴らしい生地を、
現代的に復刻するのを手伝ってください、
というようなことですね。
田中
そうですね。シンプルに言うと、
そういう感じになりますが、
復刻を目指すわけではなく、
それはあくまでもヒントですね。
──
じゃあ、最初の見本からも、
けっこう変わったということですか。
田中
そうです、けっこう変わってます。
森谷
変わったどころか、
風合いとか、もう全然違いますよね。
田中
グラフィック的な見え方も、
まったくの別物になりました。
だから「復刻」は技術の面だけで、
デザインとしては新しいものですね。
試織をして出来上がっていく過程で
目指すものと変わっていくこともありますが、
「変わったけれど、その方がいいね」
みたいなことも多いです。
絶対ここが最終地点だ、ということはありません。
変わっていった方が結局よかった、ということが、
「kijinokanosei」にはいっぱいあります。
──
ちょっと料理に似ていますね。
レシピ通りにつくる料理ではなく、
材料と火加減でちょっと変わっちゃったけれど、
結果、すごくおいしいものができた、みたいな。
田中
そうです、そうです。
森谷
おいしいものがつくりたい、
ということですね(笑)。

岩田
ぼくが聞くのも妙なんですけど、
梳毛・紡毛の組み合わせっていうのは、
昔からあったものなんですか。
森谷
スーツとかに使うような生地で
梳毛と紡毛の組み合わせっていうのは
あると思うんですけれど、
これ、ロービングといって、
太く柔らかい梳毛なんですね。
そこに、あえてヨコを紡毛にするのって、
あんまりないんじゃないかと思います。
岩田
普通はそれだったら、梳毛・梳毛で合わせる?
森谷
はい、番手が合ってくるので。
田中
わざわざやらないですよね。
でも森谷さんからこういうアイデアをいただけて、
ほんとうに嬉しかったです。
ドライブ中に「ここ右に行ってみない?」みたいな
冒険というか‥‥。
「kijinokanosei」は、そんなふうに、
ひとりじゃなく、みんなでつくっている感があります。

(つづきます)

2022-12-11-SUN

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