
2019年の夏の終り、
ほぼ日の山下と光井は富良野を訪れました。
『北の国から』の展覧会を開く準備のために。
せっかく北海道に行くのだから良い写真も撮ってほしくて、
写真家の池田晶紀さんにも同行してもらいました。
池田さんは『北の国から』の大ファンなんです。
その道中を振り返って、レポートします。
ゆるゆるとした記録ですが、
レポートの中には「北の国から資料館」の館長だった、
仲世古善雄さんへのインタビューも、あります。
そこでは貴重なお話を、たっぷりどうぞ。
いや~、
富良野はいい場所でしたよ~。
- さあ、2日めです!
- 一泊二日の、2日めです。
- 2日めはたしか、
最初に麓郷(ろくごう)に行って、
仲世古さんに会いましたよね。
- はい。
ドラマの舞台になった場所、麓郷にある、
仲世古善雄(なかせこよしお)さんの
会社にお邪魔しました。
▲仲世古さんが経営する「麓郷木材工業株式会社」。
- 仲世古さんは、
今回の展覧会で展示品をお借りする、
「北の国から資料記念館」の元館長さんです。
- お会いできましたよねぇ。
うれしかったなぁ。
- 中畑和夫のモデルになった人です。
- 地井武男さんが演じた、中ちゃん。
- なんとなく地井さんに似てる気がしましたね。
- はいはい、しました。
- 山下さん、仲世古さんに
インタビューしてたじゃないですか。
- ええ。
- あれは「ほぼ日」に載るんですか?
- 載ります。
それを、これからお届けします。
- え?
- このぼくらのおしゃべりに続けて。
- あ、そういうことか。
それはいいですね。
- では、お読みください。
仲世古さんにお会いしてきました。
このページ内すべての写真:池田晶紀
仲世古善雄さん
1943年生まれ。
北海道富良野市「麓郷木材工業株式会社」社長。
ドラマ『北の国から』で、故・地井武男さんが演じた
中畑和夫のモデルとして撮影、制作に協力。
1995年、「北の国から資料館」を設立。
- ───
- ドラマのロケ地を訪ねている
観光の方をけっこう見かけました。
シリーズが終わってずいぶん経つのに、
『北の国から』の効果はすごいですね。
- 仲世古
- ありがたいことで、ほんとうにすごいと思います。
- ───
- ドラマで有名になる前は、観光のお客様は?
- 仲世古
- 唯一、スキーだけが有名だったんです。
- ───
- なるほど、冬ですね。
- 仲世古
- そうです。
ところが夏になると、
民宿とかペンションだとかは
ぜんぶクローズになってました。
- ───
- 今は逆ですよね。
- 仲世古
- ええ。
『北の国から』のロケ地では
冬は雪で行けなくなる場所もありますからね。
- ───
- 今の季節は運転も楽でしたし、
とにかく景色がすばらしかったです。
- 仲世古
- そうですか。
麓郷(ろくごう)に住んでる私たちは最初、
この普通の景色が
観光になるとは思えなかったんですよ。
どうやら景色がいいらしい、と。
- ───
- どうやら(笑)。
- 仲世古
- ところが、
最初にフジテレビの映像を見たときに、
いやこれはすばらしい景色だ、
これは自慢してもいいんじゃないかって(笑)。
- ───
- 客観的に見られたわけですね。
- ドラマの話が最初にやってきたのは
どういうかたちだったのでしょう?
- 仲世古
- それは、先生でした。
- ───
- 先生。
原作・脚本の倉本聰先生。
- 仲世古
- 先生にはじめてお会いしたのは‥‥
あれは昭和52年か53年だったか‥‥
ドラマが56年からですよね、たしか。
- ───
- はい、昭和56年の10月です。
- 仲世古
- 富良野の青年会議所の会合で
先生と一緒になったんです。
みんなでいろいろ話しているうちに、
先生が私におっしゃいました。
「仲世古さん、あなただけは
遠くからここに来てるらしいですね?」
- ───
- 遠く? どういうことでしょう?
- 仲世古
- 私だけ、住まいが麓郷ですから。
会合に集まってたのは
町の人間ばっかりだったんです。
- ───
- なるほど、そうか。
たしかにここは
富良野の町から離れていますね。
- 仲世古
- もう、どん詰まりです。
そのころは、
麓郷がどこにあるか知らない富良野の人も
いたくらいです。
- ───
- はあー、いまは有名なのに。
- 仲世古
- 「麓郷には、なんにもないんですよ」
というような話をしてたら
「遊びに行っていいですか」と先生が。
- ───
- 麓郷に。
- 仲世古
- はい。
いろんな所を案内しました。
「こんな場所がまだ日本に残ってたんだ」
と先生がおっしゃいました。
私は、
「先生、それどういう意味ですか?」
と尋ねました。
そしたら、この景色がたまらないと。
- ───
- やはり景色が。
- 仲世古
- ここは周囲を森に囲まれています。
そこに、ちょっと畑がある。
7月の初旬から下旬にかけては
麦の色が黄金色になって、
風が吹いたらさあーっと大きくなびく。
あとは、転がっている牧草の大きなロールとか、
ジャガイモの白い花とか。
そういう景色をご覧になって先生は、
「これだよ、麓郷の魅力は!」と。
- ───
- 深く気に入られた。
- 仲世古
- 農家の人はきれいに見せようと思って
作った畑なわけじゃないんですが、
だけども先生には、
それが輝いて見えたんでしょう。
- ───
- そうして、ここを舞台にした
ドラマの構想が着々と先生の頭の中に。
- 仲世古
- ドラマの話をはじめて聞いたのは、
焚き火の前でした。
私の仕事は材木店ですから、
森で木を切る作業があります。
そういうところまで先生は
一緒にいらしてました。
- ───
- 森の中まで。
- 仲世古
- 作業が終わったら、冬は焚き火をします。
大きな焚き火を。
そこでみんなで弁当を食べる。
火にあたりながら先生がぽつりと、
「ここでドラマを作りたい」
そうおっしゃったのが、たぶん最初だと思います。
- ───
- その情景が浮かびます。
- 仲世古
- 私も火にあたりながらね、
「先生、ぜひお願いします!」って(笑)。
- ───
- ポンとお返事を(笑)。
- 仲世古
- ええ。
どういうことになるかを、
その時はまったくわかってなかったんですね。
すべての写真:池田晶紀
(つづきます)
2020-01-30-THU