「仕事って、なんだろう?」をテーマに、
糸井重里が3日間で3人のスペシャリストと
語り合ったトークライブ。

2人目のゲストは、
人材紹介会社KIZUNAパートナーズの
代表取締役社長、河野晴樹さん。
以前は株式会社リクルートで
就職の最前線を見つめてこられた方です。

これまでも
「ほぼ日」のお仕事コンテンツや
就職についての本『はたらきたい。』などに
ご登場いただいてきた河野さんが
今回、就職活動中の若者を前に語ってくれたのは、
採用側が求めている、本当のこと。

実例や具体的なアドバイスも多かったトークを
全6回にわけて、「ほぼ日曜日」からお届けします。

イラスト|堤淳子(223design)、編集|中川實穗(なかがわみほ)

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第6回

質疑応答

糸井
ではそろそろ質疑応答の時間です。
ただ、事前アンケートでも質問を受け付けたのですが、
結構「そのまま考え続けてください」
と言いたいようなことが多かったです。
今日、「仕事って我慢賃じゃないんですよね」
って話をしましたが、
こういうことって実は、
僕らに答えを聞くよりも、
友達どうしで「どう思う?」って
ずっと話していてほしいんです。
間違った答えっていうのはたぶんないので、
「友達同士で話す」っていうのをしていると、
相当なにか見えてくると思います。
‥‥っていうことを伝えたうえで、
質問はありますか?

質問者
僕は4月からフリーターになります。
働きたいものがわからないのに
なんで就職するのかなっていうのが‥‥。
河野
働きたいものがわからないんですか?
糸井
働くってことの理由がわからないんだよね。
質問者
そうです。
なのになんで就職できるのかと僕は思っていて。
その疑問がずっと残ったままなので
フリーターになるんですけど。
糸井
それは僕に聞くより、さっき言ったように、
客席の人どうしで話したほうがいいかもしれない。
でもひとつ自分の話をすると、
父親が、僕が大学に入る直前に
「100万円あげる」って言ったんですよ。
えーうれしいと思ったら、
「大学に行かないのなら」って言ったの。
「大学に行くともっとお金がかかるんで、
行かないんだったらキャッシュで100万円やる。
無駄遣いしようがなにしようがいい。
それとも大学に行くのか」
って聞かれて、
僕はぐずぐずっと「大学に行く」って言ったの。
それはつまり、友達がみんな行くからなんだよ。
大学に行く理由なんかわからなかったけど、
友達が行く場所に自分も行きたかったんだよ。
群れなんだよね、やっぱり人って。
理由なんかなくても、人は動くんです。
大学に行くときでさえそうなんだから、
就職ってもっと縛られる気がするし、
絶対イヤだって気持ちになるよね。
俺、小学校のとき泣いたんだから。
「いつか自分も働くんだ‥‥」と思って。

河野
(笑)
糸井
学校でも怒られてるのに、
会社ってもっと怒られるんだと思ったの。
テレビの影響ですよ、たぶん。
『スチャラカ社員』(テレビドラマ/1961年)とか、
サラリーマンものって、ガミガミ怒られるじゃない?
幡野(広志)さんっていうカメラマンは、
のび太のお母さんのことをすごく怒ってますよ。
あんなにガミガミやったら
のび太だって伸びようがないって。
だからあれは毒親だって言ってますよ。
河野
ああ(笑)。
糸井
そういうふうに「本当は」ってところまで考えると、
自分の道を見つけるためには
ちょっと遅延しちゃうよね。
フリーターになる人の人生って、
いったん遅延するんだと思います。
浪人したみたいなことだから。
でもその遅延を取り返せるほど
いいことがあるかもしれないし、
どこかのタイミングで
「あ、やべ! どっか入っとこう」というのも
アリだと思うし。
今って、そんなに食いっぱぐれないから、
やりゃあいい、って思うんですよね。
でも、他の人たちが普通に就職するのが
なんでだろうっていうことへの答えは、
「みんなが行くから」だよ。
それはちゃんとした答えだよ。
質問者
ありがとうございます。
糸井
それでは、次の方。
質問者
私は今、大学院1年生で、
就職活動を始めたところなのですが、
今日、おふたりも話されていた
「一番大切にしてきたことはなんですか?」
ということを考えなきゃと思っています。
ただ正直、
大切なものは私の中で変わっていっています。
だからそういうことを聞かれると、
どこを切り取ればいいのかなとか、
どの一面を出してほしいのかなっていうふうに
穿って考えちゃうんです。
正解はないとは思うのですが、
なにを求められているのかがわからなくて、
もう少し教えていただけたらと思います。
河野
頭のいい人が陥りがちなパターンだなあと思います。
(質問者に)自分のことは好きですか?
質問者
あまり好きじゃないです(笑)。

河野
だからなんですね。
でもおそらく
「自分のことが好きな瞬間」は必ずあるんですよ。
それを思い出してもらって、
そのときに大切にしてたことでいいと思います。
「相手に全部合わせて答えよう」
とか考えなくていいので。
自分のことを好きな瞬間に、
自分が大切にしていたことで十分だと思いますよ。
糸井
(質問者に)小説は好きですか?
質問者
はい、好きです。
糸井
小説の中にいっぱい書いてあると思うんですよ。
小説って、なにを大切にしてる人が
どういうふうに生きたかが
書いてあるので。
悪人は悪人で、主人公は主人公で、脇役は脇役で、
大切にしているものがありますよね。
とくに、いわゆる古典の小説は、
「なにが大切なんだろうね」っていうのを
探す物語でもあるので、
それを読んで共感したところに
あなたと重なるものがあるんだと思います。
だから、
「向こうからしたら正解はなんだろう」
と考える必要はないです。
落とされたら「落ちたんだな」って
いうぐらいの気持ちで会えば、
たぶん本当のことが言えると思うんですよね。
質問者
悪いことでも、それが自分にとって大切なら
大丈夫ということでしょうか?
糸井
うん。
小説の中にはいっぱい答えが入っているんだけど、
今って、
ビジネス書の中に答えがあるって思い込んでるから、
みんながアンチョコみたいな答えを知りたがる。
それが、いろんな間違いの元じゃないかな
と思いますけどね。
質問者
ありがとうございます。
糸井
質問は、以上ですね。
本当はね、お客さんにここで話してもらいたかったの。
客席からふたり、壇上に上がってもらって、
「お前どう思う?」って話してもらって、
それをみんなが聞くっていうのをやりたかった。
でもそれはぜひ友達同士でやってください。
河野
せっかくだから、ここで今日初めて会った人と
やってもいいと思いますよ。

糸井
そうだね。
幼なじみとかとやると手の内がわかっちゃうから。
こういう場所で「なんでここに来たの?」とか、
そういう話をするのが一番いいような気がする。
今日は、どうもありがとうございました。
河野
ありがとうございました。

(おわります)

2020-04-27-MON

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