「仕事って、なんだろう?」をテーマに、
糸井重里が3日間で3人のスペシャリストと
語り合ったトークライブ。

最終回のゲスト中竹竜二さんは、
早稲田大学ラグビー蹴球部監督を経て、
ラグビーU20日本代表ヘッドコーチを
3期にわたって務めたスペシャリスト。
また、ラグビーだけでなく、
企業のリーダー育成トレーニングを行う会社や
コーチの学びの場を促進する団体を設立するなど、
ジャンルを超えて人を導いてこられた方です。

そんな中竹さんが話してくださったのは、
「行動」から「考え方」、「ものの見方」まで、
今すぐ挑戦できそうなことの数々。
そしてそれは、
これから就活をする人にも、
何十年も働いている人にも、
届くようなものばかりです。

出席者全員が体験した空気の変化や、
昨年のラグビーワールドカップで日本が強かった理由など、
糸井も何度も感心したお話を
全8回にわけて、「ほぼ日曜日」からお届けします。

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第4回

組織に入ると始めてしまう、もうひとつの仕事

中竹
隣の人と話すようなときもそうですが、
自分がアクションを起こして、
自分が主役になったほうが、
断然、自分の空間がラクになります。
面接でも、
こちらから相手に質問まではできませんが、
面接官から何か言われる前に、
「今日はお時間いただきありがとうございます」
とか言ったほうがいいです。
そしたら向こうが応答しますので。
絶対、仕掛けたほうがいいです。
どっちが今日の主役なのか。
糸井
「俺の空間」にするわけですね。
中竹
マウント取るわけじゃないですよ?
マウントを取りにいくと、すごくイヤなヤツなんで(笑)。
自分が楽しむ。
矢沢永吉さんと同じように、
自分がその場を‥‥。
糸井
「楽しめ」。
たとえば永ちゃんって、
ライブがはじまるとき、ステージの真ん中まで
ガードマンと一緒に歩いて来ますからね。
ガードマンと世間話しながら、
全然お客さんを見ないで歩くわけです。
それで後ろ向いてバックバンドに合図を送って
‥‥バッと振り向いて歌う。
そしたら、お客さんはお金払って来てるのに、
「永ちゃんの家に遊びに来させてもらった!」
「ありがとうございました!」
っていう感じになっちゃうんです。

中竹
本当は逆ですよね。
糸井
逆です(笑)。
「客なんだから俺は威張っていい」というのを
最初にひっくり返すんです。
お前らを無視して、
こうやって喋りながら出て来て、
後ろ向いて始まって、
音楽が鳴ったらバッと前を向く。
それは「俺んちにようこそ」なんです。
動物的にわかってるわけですよね。
中竹
そうですね。
糸井
だから、それを、
「負けてなるものか、負けてなるものか‥‥」
だけで緊張していると、そんな余裕なくなっちゃう。
どんどん飲まれていっちゃう。
さっき楽屋で
「生本番のときに
糸井さんが平気な顔してるのが信じられない」
って言われたんですけど、
中竹さんはどうですか?
中竹
僕も基本、緊張しないです。
緊張しない主な理由は、
僕は、人からの評価を
ふつうの人より感じてないからだと思います。
どうせダメなんでしょって。
早稲田大学ラグビー蹴球部の監督をやっていたとき、
僕は部員から常に「つまんねぇ」と言われていました。
練習が本当につまんなかったので(笑)。
なぜなら僕はラグビーの指導者経験なしで
監督をやっていたんです。
前代未聞ですよね。教えられませんから。
糸井
(客席に向かって)
実話なんです、これ(笑)。

中竹
ただ、僕はこういうタイプなので、
選手に「マジこの練習つまんねぇ」とか言われても、
怒らないです、基本ね。
「人がそう評価するのは、まあしょうがないな」
と思うわけです。
人からの評価を気にしてないんですよね。
たぶん、みなさんが緊張するのは、
どこかで「自分がダメなんじゃないか」とか、
「隣の人に劣っているかもしれない」とか、
「知識がないのがバレるんじゃないか」とか、
それを気にしているからですよね。
これはすごくもったいないことですが、
しょうがないことでもあります。
「組織の中で働く」というのは、
評価が伴うものなので。
そういうことを一番研究している
組織心理学者のロバート・キーガンがよく言うのは、
「人間は組織に入った瞬間にanother job、
つまり“もうひとつの仕事”をやり始める」と。
その仕事というのは、
「自分が偉くありたい、高く評価されたい」
というものなんです。
それを目の前の仕事と同時にやり出すんですね。
糸井
あーーー!
中竹
これ、かなりもったいないですよ。
意識の半分ぐらいを
「こんな仕事してばかにされないかな」
「怒られないかな」に使うわけですから。
そこを断ち切ったら、
絶対にパフォーマンスは上がります。
糸井
じぶんのことで恐縮ですけど、
それ、ぼくはできてますね。
「人にこう見られたい」というのは、
本当にどうでもいいと思ってる。
そうか、みんなは、そうじゃないんだね。
みんな「もうひとつの仕事」をやってるんだ。
中竹
いろんな研究でもわかってるんですが、
みんな、「もうひとつの仕事」をやってるんです。
でも、それを変えることはできます。
自分でそれを「意味がない」と思うこと。
もちろん、仕事の前後で
自分で「どう評価されたかな」と考えることは
全然悪くないです。
自分の成長の確認にもなりますから。
でも、なにかをやっている最中にそれを考えると、
パフォーマンスが落ちるんですよ。
めちゃくちゃダメなんです。
一番いいのは、
そういう場では無になって、
自分が主役で、楽しくやる。
終わった後に、
「今日はどうだったかな」と振り返る。

糸井
うん。
中竹
そうすることに組織で取り組むときは
「心理的安全性」という言葉を使います。
糸井
心理的安全性。
中竹
これは、物理的ではなく、
心理的に安全かということです。
要するに、
ばかなことを言ってもばかにされないかとか、
敵と見られないかとか、無能と思われないとか。
糸井
ああ、なるほど。組織のなかで、
そういうことを心配しなくていい環境のことを、
「心理的に安全な場所」と。
中竹
はい。
糸井
弊社は心理的安全性が保たれてるでしょうかね。
(ほぼ日の乗組員に)どう?
「ばかだな」と思われる心配はしなくていい?
乗組員
ばかなことをして
「ばかだな」と言われるシーンもあるんですけど、
根本的な否定とか、ガッカリとか、
あきらめとかじゃないなと思います。
脅かされない、みたいな感じはあります。
中竹
いいですね!
僕は糸井さんの会社は
心理的安全性がかなり高いと思います。
以前、Googleが、
「プロジェクト・アリストテレス(Project Aristotle)」
という生産性向上計画の中で、
すべての業種を調べたことがあるのですが、
営業も、エンジニアも、バックオフィスも、
良い組織には根底的に心理的安全性があった。
つまりこれは、すべての組織に大事なことなんです。

(つづきます)

2020-05-15-FRI

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