「仕事って、なんだろう?」をテーマに、
糸井重里が3日間で3人のスペシャリストと
語り合ったトークライブ。

最終回のゲスト中竹竜二さんは、
早稲田大学ラグビー蹴球部監督を経て、
ラグビーU20日本代表ヘッドコーチを
3期にわたって務めたスペシャリスト。
また、ラグビーだけでなく、
企業のリーダー育成トレーニングを行う会社や
コーチの学びの場を促進する団体を設立するなど、
ジャンルを超えて人を導いてこられた方です。

そんな中竹さんが話してくださったのは、
「行動」から「考え方」、「ものの見方」まで、
今すぐ挑戦できそうなことの数々。
そしてそれは、
これから就活をする人にも、
何十年も働いている人にも、
届くようなものばかりです。

出席者全員が体験した空気の変化や、
昨年のラグビーワールドカップで日本が強かった理由など、
糸井も何度も感心したお話を
全8回にわけて、「ほぼ日曜日」からお届けします。

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第5回

日本代表が「ヤバかったっす」と言えた環境

中竹
ちょっとラグビーの話をしますと、
今回のジェイミー・ジャパンにも、
「心理的安全性」がありました。
つまり、失敗したり、うまくいかなかったりしても、
その人がだめだとは思われない。
強さの秘訣を僕はそこに結論づけてます。
糸井
前の監督のときは違ったんですか?
中竹
はい、心理的安全性は低かったです。
でも失敗を活かすそのステップを踏めたので、
今回の日本代表は
心理的安全性を持てたのだとも思います。
糸井
そうだったんですね。
中竹
スポーツでも心理的安全性は大事なんです。
あまり想像がつかないかもしれませんが、
日本代表の選抜メンバーでさえも、
「こういうことを言ったらばかにされるかも」
「こういうことをやったら自分の地位がなくなるかも」
と思っちゃうんです。
でも、当たり前ですよね。
みんなライバルがいて、
試合に出られるか出られないかを競っているわけなので。
ジェイミー・ジャパンは、
そこに3年かけて心理的安全性を作り上げたんです。
ジェイミーは
「ファミリーの絆が大事だ、本当の家族になるんだ」
と言い切っています。
さっき話していた、
ばかなことをやった人に明るく「ばかだな」と言えて、
ばかなことをやった人がダメだったと思わないこと、
これが心理的安全性なんです。
ばかなことをやった人を裏でこそこそ
「あいつ、ばかだよね」と言うのは絶対ダメ。
それで言うと、ジェイミー・ジャパンのなかで
心理的安全性が保たれていることを確信できたのは、
ラグビーワールドカップの最初のロシア戦です。
糸井
ボールを落っことしたよね。
中竹
そう、そのときに記者会見があって、
田村選手が
「いやぁ、マジ死ぬかと思いました、緊張して」
って言ったんです。

糸井
言った、言った!
中竹
「僕、1週間飯食えなかったです」って。
リーチマイケル キャプテンも
「僕もちょっと震えちゃいました」と言った。
その2人の会見の裏側で、
残りの選手ほぼ全員もインタビューを受けていますが、
そこでもみんな
「いやぁ、緊張して。
ほんと人生最悪のゲームでした」
とふつうに言えたんですね。
実は、今のスポーツ事情で言うと、
オリンピックも含め、
ほとんどのチームがメディアトレーニングを受けてます。
つまり、インタビューや会見では
どういうことを言うべきかという
セオリーを学んでいるんです。
たとえばそこでは、試合後の会見は
多くの国民や、青少年たちが観ているので、
「常に正々堂々と」
「常に理路整然と」
「夢を与えるような発言を」
と言われる。
糸井
良い子の話をしろ、と。
中竹
はい。
だけど今回、ラグビーのチームは、
メディアトレーニングを一切受けなかった。
それがまずひとつ大切なことです。
そして、なぜ誰もカッコつけずに
「ヤバかったっす」と言えたかといえば、
ふだんからそうしていたからです。
カッコつけることもできたんですよ。
「照明に慣れてなかったし、
ホームゲームでお客さんが多かったんで、
ちょっとプレッシャーでした」とかね。
そういうふうに会見で言えば、
言葉としてキレイじゃないですか。
でも、彼らは素直に
「緊張して震えちゃったんです!」と言った。

糸井
(笑)
中竹
全部、さらけ出しているわけです。
この言葉が当たり前に出るようなムードを作ったのが、
僕はジェイミー・ジャパンの素晴らしさだと思います。
根底に、心理的安全性がかなり色濃くある。
糸井
だとしたら、就職活動でも、
企業の側が、面接に来る学生たちに
心理的安全性を作ってあげるぐらいに
なんないといけないってことですね。
中竹
絶対にそうですね。
ただ、会社もいろいろですからね。
とにかくコストの安い若手を採用して、
5年で辞めさせようっていう会社もあるんですよ。
要するに、給料が上がる頃に入れ替えるぞ、という。
そういう会社は、敢えて心理的安全性を作らない。
圧迫して、それに応じる人を採用します。
でも、のびのびと働きたくて、
この会社と人生を共にするぞ、というんだったら、
心理的安全性を作ってくれる会社かどうかは、
みなさんが選ぶ指標にしてもいいかもしれません。
糸井
それはとても大きな指標になりますね。
企業側の人間として、
それができているように意識的にするべきだな
と思いました。
中竹
もうできていると思いますけどね(笑)。
糸井
できてるつもりだったんだけど‥‥
どうだろうなぁ(笑)。
まあ、でも、少なくとも、
誰も傷ついてないという感じはある。
中竹
基本的に、みんなで認め合っている
会社はいいですよね。
糸井
そこですね。
中竹
仕事ができる人が偉い、とかじゃなく、
それぞれが自分らしくいるということを
大事にしているってことです。
糸井
みんなね、欠点だらけなんですよ、弊社。
でも、「素でいられる」ということは大事なんですね。
中竹
そうです。

(つづきます)

2020-05-16-SAT

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