恋愛、生死、戦争、家族……
さまざまなテーマを子ども同士が話し合う
「こどもかいぎ」をする、とある保育園があります。
輪になって、自由に、ときに真剣に話す。
先生は進行するだけで、
正解や答えを導くことはしません。
その保育園に1年間密着した
ドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』。
ナレーションを糸井がつとめたご縁で
ひと足先に観たのですが、
考えさせられるものがありました。
「対話」というあたり前に
あえてカメラを向けた豪田トモ監督に、
お話をうかがいました。
担当は3歳の子どもを持つ「ほぼ日」の羽佐田です。
豪田トモ(ごうだとも)
映画監督。
1973年東京都出身。中央大学法学部卒。6年間のサラリーマン生活の後、映画監督になるという夢を叶えるべく、29歳でカナダへ渡り、4年間、映画製作の修行をする。在カナダ時に制作した短編映画は、数々の映画祭にて入選。
「命と家族」をテーマとしたドキュメンタリー映画『うまれる』(2010年/ナレーション:つるの剛士)、『ずっと、いっしょ』(2014年/樹木希林)、『ママをやめてもいいですか!?』(2020年/大泉洋)は、累計100万人を動員。2022年7月、映画『こどもかいぎ』(ナレーション:糸井重里)を公開予定。2019年、小説『オネエ産婦人科』(サンマーク出版)を刊行。
- ─
- 『こどもかいぎ』を観ておどろいたのが、
子どもって、あんなに自分の気持ちを話せるんですね。
何が悲しいとか、うれしいとか。
- 豪田
- そうなんです。驚きますよね。
- ─
- 保育園で喧嘩をすると、
大人が仲裁に入るのではなくて、
子ども同士で話し合うように
先生が促しているのも印象的でした。
テーブルに対面で座って、
「ここがイヤだった」
「あれはやめてほしい」と
あまりにはっきり言うのでびっくりして。
- 豪田
- 遠慮がないから、
大人なんかより生々しい喧嘩ですよね(笑)。
- 豪田
- 話すことが苦手な子どもも、
対話する環境に置かれることで
自分の気持ちを吐き出せるようになって、
ずいぶん成長していくんだなと思いました。
- ─
- 喧嘩をしても子ども同士で話し合ったり、
「結婚」「戦争」といったテーマを設けて
自分の考えを話してもらったり。
「こどもかいぎ」という取り組みは、
保育園側も初めてだったんですよね?
- 豪田
- 「こどもかいぎ」自体は前例がいくつかあって、
ほかでも実践している園がありました。
ただ、子どもや先生の成長を追っていくという意味で、
今回はかいぎを導入したばかりの園に入らせてもらって。
最初は先生も子どもも初めてのことだから
「どうやってやるんだろう」
みたいなところがありました。
- ─
- 何を話したらいいのか、
最初はわからないですよね。
- 豪田
- 大人だって難しいことだと思います。
でも、子どもはマネすることが上手だから、
誰か一人、質問に対してよく答えられる
子どもがいると、吸収するんですよね。
「ああやって答えればいいんだ」って。
そうして、自然と質問と発言が
習慣になっていって、
最終的には全くしゃべれなかった子どもが
自発的にしゃべるようになっていました。
- ─
- 私は、しゃべりすぎちゃう子が印象的でした。
「長い!」ってお友だちに
怒られてたじゃないですか。
「何言いたいのか、わかんない」とか。
それでもめげずにしゃべり続ける姿が素敵でした。
- 豪田
- あの子も、いいですよね。
僕自身は、彼とは対照的に、
小さい頃から人と対話することが
ものすごく苦手だったので、
うらやましいと思いました。
- ─
- おしゃべりが苦手だったんですか?
- 豪田
- そうですね。
人の話を聞くとか、
自分の気持ちを適切に伝えるとか、
「対話」全般が苦手でした。 - そのまま大人になっちゃったものだから、
娘ができたとき戸惑ったんですね。
5歳くらいの、
おしゃべりが上手になってきた
タイミングですかね。
娘のことはとても好きなのに、
うまく会話ができなくて。
- ─
- 何を話したらいいのかわからない、
ということですか?
- 豪田
- 聞きたいことはあるんですよ。
だけど、おしゃべりが続かないんです。
うちの娘は、自分からペラペラしゃべってくれる
タイプの子ではなかったので、
たとえば「学校どうだった?」と聞くと、
「うん、楽しかったよ」以上、みたいな。
- ─
- すぐに沈黙がおとずれてしまうんですね。
- 豪田
- 慌てて次の質問を投げかけるんです。
どう楽しかったのか。
先生や友だちとはどんな話をしたのか。
一つ一つ、丁寧に質問しないと
話してくれないものだから、大変で。
- ─
- でも、ドキュメンタリー映画を撮るお仕事は、
対話する場面が多い仕事というイメージです。
- 豪田
- やっぱり、大人としゃべるのと
子どもとしゃべるのは、
ぜんぜん違いますよね。
大人は空気を読んだり、
相手が気を遣って話してくれたりするけれど、
子どもはそうもいかない。
- ─
- 空気は読んでくれないですもんね。
- 豪田
- ただ僕も小さな頃、
対話が上手ではなかったけれど、
嫌いではなかったんですよね。
苦手だっただけで。
- ─
- なるほど。
嫌いじゃないけれど、苦手だった。
- 豪田
- それで、どうして対話が苦手だったのか、
ものすごく考えたんです。
思い出されたのが、親との関係ですね。
端的に言えば、子どもの頃に
親から話を聞いてもらった記憶が、
あまりなかったんです。
それだけが原因ではないけれど、
自分にとってはそれが大きな要因に思えて。
- ─
- 話を聞いてもらえる機会がないから、
話すのが苦手になってしまったんですか。
- 豪田
- 経験がないと誰しも不安になったり、
苦手意識が芽生えたりするじゃないですか。
対話に対して、
僕はそんな感情を持っていたんだと思います。
- ─
- 私もいま、小さな子どもを育てているので、
ちょっとドキッとしました。
子どもの話を聞けているかな、って。
- 豪田
- わかります。
僕もそれがわかったときに、
「自分は聞けてるのかな?」って不安に思いました。
だから“親として対話の正解”を見つけたくて、
いろんな方法を試したんです。
矢継ぎ早に質問してみたり、
場づくりをしてみたり。
- ─
- 積極的に、子どもと対話する機会を。
- 豪田
- あらゆる作戦を実践しては、失敗して。
そこで「対話ってなんだろう?」と
考え始めたことがきっかけで、
今回の映画ができました。
- ─
- 対話以外でも、
娘さんとの関係性をつくっていく方法を
考えられたりしたんですか?
- 豪田
- ああ、なるほど……考えなかったですね。
相当、対話がトラウマだったのかもしれない(笑)。
娘も僕と同じように、
対話が苦手になってしまったら
どうしようという不安がありましたから。
- ─
- 同じ道は歩ませたくない、と。
- 豪田
- そうですね。
それは、映画づくりで学んだ部分も
大きいと思います。
過去に取材した人たちの多くが、
コミュニケーションの不一致で悩んだり、
逆に、対話がうまくいっているから、
たとえ血がつながっていなくても絆が深かったり。 - 人間関係も、子育ても、
すべてのことにおいて「対話」が大事なことを、
取材したみなさんに教えてもらったんです。 - なので、子育ての中で話を聞いてもらえたり、
発言する機会が与えられたり、
子ども同士で対話する機会があったりすれば、
それは今後の人生にとても役に立つんじゃないかと
思って、カメラを回させてもらいました。
(つづきます。)
2022-07-22-FRI
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映画『こどもかいぎ』
子どもたちが「かいぎ」をする
とある保育園に1年間密着した、
ドキュメンタリー映画『こどもかいぎ』。
さまざまなお題に対して5-6人で輪になり、
自由に、自分の意見を発言します。
先生も進行役としてつきますが、
明確な答えや結論は求めません。小さいながら彼らは何をみて、
何を考えているのか。
質問を投げかけることで、
思いもよらない言葉が返ってくる様子も映され、
彼らを通してあたらしい視点に気づかされました。
たとえば「戦争はどうして起こるのか?」という質問に、
「話し合えばいいのにね」とまっすぐ答える姿も。
いち親として、ともに生きる者として、
子どもたちの「話したいこと」に耳をかたむけたいと
あらためて思う映画でした。
1年間で、めきめきと成長していく姿も見どころです。
上映情報など、くわしくはオフィシャルサイトを参照ください。
映画『こどもかいぎ』
監督:豪田トモ
7月22日より全国公開。