宇宙の話って、なんとなーく面白そう。
だけど普通に暮らしていて、くわしい人に
話を聞ける機会って、そんなにない気がしませんか。
今回、ほぼ日にたまたまメールをくださった
新井達也さんが、宇宙服の生命維持装置の
エンジニアだったので、
「宇宙服」を切り口に、いまの宇宙開発のお話を
いろいろと聞かせていただくことにしました。
「宇宙に興味はあるけど、まだよく知らない」
そんな、超初心者の方向けの宇宙入門です。
宇宙がちょっと身近になる全11回。
どうぞじっくり、おたのしみください。

>新井達也さんプロフィール

新井達也 プロフィール画像

新井達也(あらい・たつや)

1980年生まれ。
東京大学工学部航空宇宙工学科 (学士、修士)、
米国マサチューセッツ工科大学
航空宇宙工学科 (博士)を卒業後、
医療機器メーカー勤務を経て、
現在テキサス州にて
オーシャニアリング社の宇宙システム部門に勤務。
専門は生命維持装置。

ほぼ日とは、糸井重里とほぼ日乗組員が
2010年にボストンを訪れたときに、
お昼をご一緒したとき以来の縁。

『MOTHER』シリーズの大ファンでもあり、
プレイするときの
主人公の名前はテントウムシ、
好きなものはあぶらむし。

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(11) うまくいく未来を見てみたい。

ほぼ日
新井さんの今後の夢って、なんですか?
新井
ああ‥‥
「人間が月を歩くのをライブで見てみたい」
というのはありますね。

ほぼ日
それ、2024年には
叶っちゃうんじゃないですか?
新井
おそらく実現するだろうと言われていて、
いま、多くの人が努力しているんですけれども。
あとは「生命維持」の観点から、
いま、地球の二酸化炭素濃度が上がってますけど、
その問題が解決するめどが
ついてほしいなと思っています。
ほぼ日
あ、地球規模の夢。
新井
ほかにも、みんなが
政治的な課題も技術的な課題も解決して、
地球全体のシステムとして
「こうすれば住みにくくならないよね」
という未来を見られたらと思いますね。
そしてさまざまな課題を解決して、
「これでめどが立ったな。いい勉強になったな」
となって、ちゃんと子孫たちに
「今後こうやって地球の面倒を見ていってね」
と渡せるのを見届けられたら。
それが夢といえば夢ですね。

ほぼ日
たしかに、本当に叶ってほしい夢はそうかも。
新井
やっぱり不安になりますから。
「尿を再利用して水を作る」といった
技術に関わっていると、
「完全な再利用というのは本当に難しい」
と思うんです。
エネルギーの消費もありますし、
途中で老廃物も出ますから。
ぼくたちは本当にいま、地球をどんどん使っていて。
再利用していても、衰退する時間を稼いでいるだけで、
いつかは使い尽くす気がするんです。
だから、最近ますます
「そのスピードをできるだけ遅くするのが
務めだな」という感じがしてきました。
ほぼ日
ああ‥‥。
新井
太陽エネルギーとかを使って、すべてを再利用して、
これまで使ってきた分を全部もとに戻すのは
夢物語な気がしますし‥‥。
「本当に難しいな」というのが最近の実感ですね。
もちろん、何十億年後には太陽が膨らんできて
地球がなくなるはずですけど、
そのまえに自滅したらもったいないですから。
あと何十億年、ちゃんと
人間が住めるめどが立ってほしい。
その未来が見れたらうれしいですけどね。
でもきっと、
生きているうちには難しいんでしょうね。
ほぼ日
数十年程度でなんとかなる話では
ないんでしょうね。

新井
夢っていうと‥‥やっぱりそうですね。
そんなふうに人類全体が、
地球の環境をちゃんと住みやすく
コントロールできている姿を見たいですね。
ほぼ日
ああ‥‥そうですね。
新井
だけど、いまの新型コロナウィルスの
問題とかも
「みんなでがんばったら、
こんなに変えられる」
という例になり得ると思うんです。
ほぼ日
そうだ。
新井
最近「コロナの影響で二酸化炭素や
有害物質の量が減っている」
という話も聞いたんですよ。
だから今回のことをきっかけに、
みんながもっと
地球に優しく暮らすようになったら
いいなと思いますね。
「みんなで行動したら、こんなこともできるんだよ」
って学ぶ、いいきっかけになれば。
ぼく自身も最近、ものすごくリサイクルを
しまくってるんですけど(笑)。

ほぼ日
おおー、いいですね。
ぼくももっとやろう。
新井
アメリカだと、
まずは「リデュース」減らす。
そして「リユース」再利用する。
そのあと「リサイクル」って言われるんです。
リサイクルの前に、まず使わない、
作らないことがいちばん。
もし作っちゃったら、それは何回も再利用する。
それでも使えなくなったらリサイクル。
その3段階。
ぼくもけっこうリサイクルしてますけど、
その前にリユース、
使えるものは何回も使わなきゃと
最近本当に考えますよね。
ほぼ日
その「リデュース」「リユース」
「リサイクル」の考えは、
宇宙服の作り方にも近いですか?
新井
宇宙服の場合は人間の安全が第一なので、
もし使えることで得になるなら再利用しますけど、
宇宙飛行士の安全のために
まったく新しいものを
作らなきゃいけなかったら、作ります。
まだそういう状況です。
ほぼ日
あ、ちょっと思ったのは、
二酸化炭素の処理の方法とかにも、
リサイクル、リユースなどの
「まずは減らして」みたいな発想があるのかなと。

新井
ああ、そういった意味では
ぜんぶやっていますね。
二酸化炭素から炭素をとって、酸素にしたりしますし、
尿から使える水はちゃんと取り出そうとしています。
リデュース、リユース、リサイクル、
どれもやってます。
毎回新しい水を宇宙に持っていっていたら、
お金もかかるので。
ほぼ日
そうしないとやっていけないところもあるし、
みたいなことですよね、きっと。
新井
そうですね。
その意味では、そういう宇宙の技術は
地球にもけっこう応用できると思います。
逆に、地球のために使われている技術が
宇宙の分野に応用されたりもよくあります。
だから環境問題に興味のある人が
大学とかで勉強をして、
それが宇宙開発に役立つこともあるはずです。
たとえば海水をきれいにする技術は、
尿をきれいにする技術とも似ていますから。

ほぼ日
そういった感じで、
宇宙開発に関わることもできますね。
新井
もうひとつ思い出したことで、
宇宙飛行士の若田さんが
たしかこんなことをおっしゃっていたんです。
「ものすごく未来に、いつか地球は住めなくなる。
太陽がどんどん大きくなって、
最終的には地球を飲み込んでしまう。
そのときまでにほかの星に移住できる
技術を作っておくことは、すごく重要」って。
この話もすごく共感します。
世界情勢や政治的理由などで、
宇宙開発ができる・できないも多々あると思うので、
できるときに全力でできることをやっておく。
それは、すごく重要だと思います。
宇宙開発の予算って、
多そうに見えて、本当に少ないので。
ほぼ日
そうなんですか。
新井
たくさんの人が関わっていますけど、
産業的にはそこまで大きくないんです。
だから本当にできるときに
しっかり頭を使っていいものを作って、
ほかの星に移住できるようにしておくのは
大事だなと。
ほぼ日
最後に新井さんから
「読んでいる方にこれは言っておきたい」
みたいなことがあれば。
新井
‥‥いきなり下世話な話になりますけど、
「もしよければ、このLEGOの宇宙服に
投票いただけましたら幸いです」
という(笑)。

ほぼ日
(笑)そうでした、それがありました。
ここから宇宙に興味を持ちはじめる方も
多いかもしれないですし。
新井
ついでに、どなたか宇宙飛行士の方に、
これを月に持っていってほしいですね。
ほぼ日
そこまで行くと最高ですね。
新井
あ‥‥重いかもしれないな。
ほぼ日
なるほど。重量どのくらいですか?
新井
いえ、約1kgで、別に軽いんですけど、
月に行くとなるとやっぱり
グラム単位で軽くしようとするので。
そのほうが燃料も少なくて済みますから。
月着陸船とかを作る人たちは、
「できるだけ軽くしろ、軽くしろ」
って言われるんです(笑)。
ほぼ日
今日はありがとうございました。
宇宙のいろんなお話、
知らなかったことをたくさん知れて
めちゃくちゃおもしろかったです。
新井
普段聞かれないような質問も多くて、
ぼくもたのしかったです。
もっと勉強しなきゃなと思いました。
ほぼ日
またぜひ、いろいろ教えてください。
新井
はい、よろしくお願いいたします。

(おしまいです。お読みいただき、ありがとうございました!)

2021-02-02-TUE

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  • 2024年の「アルテミス計画」で使われる
    船外活動用の宇宙服を、
    身長34cmのLEGOにしたものです。
    本物の約1/7の、
    遊んだり飾ったりしやすいサイズ。
    LEGO社が新製品のアイデアを募集する
    「LEGO IDEAS」に参加しています。

    宇宙服を愛し、実際に関わられている
    新井さんならではの細やかさで、
    それぞれの部位や生命維持装置の中身も
    かなりリアルに作られています。

    関節はほぼ全て動き、
    さまざまなポーズが可能。
    足首、ひざ、腰、股関節、肩ひじ、
    手首、指、すべて動きます。
    実物と同じく、中も空洞になっています。

    投票には無料でレゴアカウントを
    作る必要がありますが、
    もしよければ、新井さんの
    NASA Artemis Space Suitを
    「SUPPORT」してみてくださいね。
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