これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
ヨシカミ(浅草)
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 糸井
- まさこさんは、なにを食べるの?
- 伊藤
- どうしようかなと思って。
ヨシカミさんには、ひとりで来るバージョンと、
友だちといっしょに来るバージョンとが
あるんですけど。
- 糸井
- はい、はい。
- 伊藤
- 友だちと来るときは、
思いっきり東京見物。
船乗ったり、ハイボール飲んで、
ここに来て、みんなでてんでに
食べたいものを食べる。
- 糸井
- いいね。
- 伊藤
- ひとりで来るときは
合羽橋の帰りかなんかで、
カウンターに座ります。
カウンターのなかで料理してる人たちを
見るのが好きなんです。
みなさん、いい顔してるんですよ。
映画を観てるんじゃないかというくらい
カッコいい。
- 糸井
- 食べながらそういうステージを観るようにね。
- 伊藤
- そう、ほんとに。
- 糸井
- で、なに食べるの?
- 伊藤
- なに食べようかな。
- 糸井
- ここにオススメってのが書いてあるね。
- 伊藤
- 今日のランチもいいけど、
牛ヒレのビーフカツっていうのが
目を引きますね。
- 糸井
- ねぇ。ぼくはそれにしよう。
- 伊藤
- このまんま、食べて
「おいしかったですね」とかいって
今日は終わりそう。
- 糸井
- ああ、ニヤニヤしちゃうな。つばが出るね。
- 伊藤
- 私はナポリタンが気になります。
- 糸井
- それも気にはなります。
- 伊藤
- ナポリタンにしようかなぁ。
- 糸井
- それはいさぎよい決断ですね。
- 伊藤
- なんでですか?
- 糸井
- だって、ナポリタンはふだん食べられるから。
- 伊藤
- ああ、そうか(笑)。
うーん、ナポリタンもいいけど
ミートボールもいいなぁ、
ミートボールのスパゲティ、
私はそれにします。
- 糸井
- 俺、そんな勇気ないな。
やっぱりこういうとこではゴハンものを食べちゃう。
ではぼくは、
ビーフカツのセット。
ゴハンは少なめでお願いします。
- 伊藤
- コンビネーションサラダもください。
- 糸井
- ぼくのはサラダがついてるみたいだから、
セットだけでいいかな。
- 伊藤
- それから私は食後にプリンを。
よかった。
これでひと安心ですね。
- 糸井
- 注文しおえたら、ホッとした(笑)。
- 伊藤
- もしよかったら、カウンター席にも
行ってみましょうか。
厨房のみなさんが、ほんとうに、
役者さんみたいな顔してるから。
- 糸井
- じゃあお願いして、
ちょっとカウンターにも座ってみよう。
- 伊藤
- お寿司のカウンターにいる職人さんたちも、
みんなカッコよくないですか?
「見られてる感」がカッコよくさせるのかな。
- 糸井
- 「見られてない感」の寿司屋さんは嫌ですね。
- 伊藤
- そうですね。
- 糸井
- 油断しきってる寿司屋さんがもしいたら、
ちょっと‥‥。
- 伊藤
- それはもう、ちょっと‥‥。
- 糸井
- そういえば、おととい
京都の余志屋さんに行ったよ。
帰りがけにおかみさんが
「まさこさん、このあいだお見えになりました」
って。
- 伊藤
- いいお店ですよね、あそこも。
- 糸井
- うん、いいよね。
なにせメニューにフライ類があるのが、
ぼくなんかにはありがたい。
- 伊藤
- あ、そうですか。フライ類。なぜに?
- 糸井
- いろんな意味があるけど、
まずは店にフライがあるっていったらさ、
急にポピュラーゾーンに入るじゃない。
- 伊藤
- なるほど。
- 糸井
- 天ぷらはあってもフライはないという店も
けっこうあるでしょ?
(厨房を見て)あ、あれはフライかな。
- 伊藤
- フライじゃないか、なにしてるんだろう、
でもフライかもしれない。
あのソースがすごいんです、
何日も煮込んだデミグラスソースを、あ‥‥。
- 糸井
- フライだね。
ああいうフライだね。
油しいて、炒めるがごとくに少ない油で、
上からまた油をかけるのかなと思ったらかけた。
- 伊藤
- あの火加減の強さがカッコよくないですか?
- 糸井
- 強い。カッコいいです。
- 伊藤
- あ、テーブルに
ビーフカツセットについてる
コーンスープが来るみたいです。
では席に戻りましょう。
- 糸井
- あのフライが最後どうなるのか見たかった。
スープ、いただきます。
おととい京都で
うわあごをヤケドしたから注意して‥‥。
- 伊藤
- フライでヤケドしたんですね。
あ、サラダも来ましたよ。
かわいい‥‥(眉をせばめる)。
- 糸井
- かわいいと思います(笑)。
でも、そんなに、
眉をせばめるほど
かわいくはないと思います。
- 伊藤
- そうですか? かわいい(眉をせばめる)。
- 糸井
- これは、性でしょうか。
ぼくはかわいがらない性なんでしょうか。
- 伊藤
- ホワイトアスパラガスもかわいいし、
あと、パセリ。パセリ使いが、おみごとです。
ああ、見てたら急激におなかがすいてきた。
(みんなが写真を撮り終えるのを待っていたが)
もう、食べてもいいのではないでしょうか。
- 糸井
- 食べましょう。
で、今日はどういういきさつで、
我々はここにいるんでしたっけ?
- 伊藤
- 私が糸井さんの話をうかがいたいと思ったからです。
- 糸井
- そうでした。
- 伊藤
- そもそも、なぜ糸井さんのお話を
うかがいたいかと思ったのか。
それを、お話したいと思います。
(明日につづきます)
2019-08-09-FRI