これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。

おしゃべりの場所
ヨシカミ(浅草)

写真
平野太呂

>伊藤まさこさん プロフィール

伊藤まさこ(いとうまさこ)

スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。

> 糸井重里 プロフィール

糸井重里(いといしげさと)

コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。

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第9回 機嫌よく。

糸井
「勝って兜の緒を締めよ」って、
そのとおりなんだけど、
それを言われてがんばれる人って、
そんなにはいないと思う。
人の弱さは、お互いにわかってるから。
伊藤
糸井さんの会社の人たち──つまり、
ほぼ日の人たちってね、
みんながすごく健やかだと思うんです。
糸井
どうしたら健やかでいられるかを、
お互いちょっとずつ考えてるんでしょうね。
まさこさんだって、そうでしょ? 
伊藤
私はわりと、ふだん機嫌よくいるために、
「こうしたらいいんだな」と考えたりします。
たとえば、シーツを替えるとか、
そういうことなんですけどね。
糸井
みんながそういうことを
それぞれ考えてるんだと思う。
そうは言ってもときどき
わかんなくなることもあってね。
ほぼ日のリーダーの仕事としては、
無意識のうちにみんなが
機嫌悪くなりそうなところはどこか、
見ていることが多いかな。
伊藤
だいじなことですね。
糸井
ほとんどのことは放っておけばいいんです。
だけどたまーに、
「このままいくと変なところに突っ込んでいくぞ」
という場合がある。
そんなときは、
「もう、その街を捨てろ!」
と言います。
伊藤
街を捨てろ(笑)。
糸井
「ひとん家の庭だよ、そこは!」
「なに入り込んでんだ!」
伊藤
みんなで引き上げろ、と。
糸井
健やかさって、
頭の中のことだからね。
伊藤
どうして糸井さんには
そういうことがわかるんですか? 
糸井
おおもとは、ぼくがサボりたい人だからです。
伊藤
そうなんですか。
そうなんだ。私もです(笑)。
糸井
それはだいじなことだね(笑)。
伊藤
仕事はしたくない。
でも、「したい」と「したくない」が、
いつも一緒にいる感じ。
糸井
そうですよ、ぼくもそうです。
仕事は「好きです」というようなものじゃ、
ないですよね。
では、自分は遊ぶのが好きか? 
そうとも言えない。
きっと、名前のつかないような
遊びをしているのが
いちばんおもしろいよね。
伊藤
たとえばどんなことですか? 
糸井
「旅行」とか「グルメ」とか、
そういうふうにはバシッと決まらないんですよ。
ほんとうはどうでもいいんだ。
どれもそれなりにたのしいし、
なにをやってるかは、どうでもいい。
伊藤
私は今日、銀座線の浅草駅から
ここに歩いてくるまでの時間も、
とてもたのしかったです。
5人くらいの謎の美人の団体とすれ違ったし、
らくだ色の腹巻きして
ホウキがけしている人にも会った。
みんな機嫌よくて、
人の顔も行動もバラエティ豊かで。
糸井
道歩いてると、
よく「そっかぁ」って思うよね。
伊藤
違う街に来ると、ことさら。
味わいが変わります。
糸井
まさこさんは、鶏肉でいうと、
ささみみたいな人ですね。
味わいを見つける、機嫌のいいささみです。
いろんなところでたのしんでますよね。
伊藤
そうですね、
機嫌よく、たのしく。
糸井
「まさこのいちゃいちゃカレンダー」
というのがあったら、買いたいです。
伊藤
なにそれ。
なにそれ、全然売れるワケないじゃない(笑)。

糸井
毎月いろんなふうに機嫌よく、
ベタベタいちゃいちゃしてくれるの。
秋は栗を食べてね、とか。
ほら、ごはんついてますよ、とか。
伊藤
そういうのだったら、
いくらでも考えられます(笑)。
糸井
思いつくだけでいいんです。
いちゃいちゃの要素を思いつかない人よりは、
思いついたほうがお祭りになりますから。
ファッションってそういうことよ。
御神輿も、上に載ってるのが
ミカン箱だったらダメでしょう。
伊藤
ダメ、ダメ(笑)。
糸井
たとえ立派な御神輿であっても、
あまりにも長く続くと、こんどは
「御神輿めんどくさいね、重いから」
なんてことになる。
祭りはいつだって発明が必要です。
まさこさんは、いつも御神輿を担げる人。
「サーティワンのアイスクリームを
のせてみました~!」
伊藤
(笑)
糸井
たのしそう。
伊藤
たのしそうですねぇ。
糸井
すばらしいと思います。
でも、お祭りはあくまでお祭りで、
それになにかを返す必要はありません。
返したらキリがないから。
人生が二人羽織みたいになっちゃう。
伊藤
人生が二人羽織! 
難しい。
糸井
ぼくたちはそうやって生きてないから、
アイスクリーム型のお家には住めません。
幻影の中にアイスクリームはあります。
でもそこに、とぎれないアイデアを出してくれる
まさこさんがいてくれたら
ぼくらはとてもうれしいんです。
伊藤
なんか今日、ちょっと熱出そう(笑)。
先輩の御札をたっぷり聞きすぎました。
でももっと聞きたい。
もう時間がなくなってしまったけど、
病気のこととか、別れのこととか、
ぜんぜんお話しできませんでしたから、
またやりたいです。
糸井
ぜひやりましょう。
でも、病気のことを話しだしたら、
「急につまんなくなりましたね」
とか言われそう。
「肝臓がさ」みたいなことばっかり。
伊藤
ストレッチとかしたりして(笑)。
糸井
今日、お熱がでませんように。
伊藤
ねえ、ほんと。
ありがとうござました。

(おしまいです。またの「いつか」につづきます。
みなさま、どうぞおたのしみに!)

2019-08-17-SAT

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