これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
ヨシカミ(浅草)
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 糸井
- 結婚は「養うこと」に
重みがあった時代の制度だと
ぼくは思っています。
いまの家庭で、
一家の長に養ってもらっている、なんて思ってる人は
あまりいないんじゃないでしょうか。
逆もありませんよね。
家族は経済的に助け合ってはいるでしょうけれども、
義務ではなくなってきた。
じつはそのことは、家庭を維持していくのを
ものすごく難しくすると思います。
「結婚はつらいものです。我慢しなさい」
なんてことは言えなくなっています。
だからぼくは、いつかは結婚はなくなると思う。
- 伊藤
- うん、そうですね。
- 糸井
- 子どもを社会がどう面倒みるのか、
という問題はあります。
そこは重要ですけれども。
- 伊藤
- 友人が不妊治療をはじめたんですが、
そこの病院は籍を入れた夫婦でないと
治療をしてくれないのだとか。
「いまの時代に‥‥」と、
それを聞いてクラッとしました。
- 糸井
- 子どもを育てるのにはコストがかかるから
経済を維持できない可能性がある人はダメだ、
ということなんでしょうね。
でも、安定の根拠が結婚だというのは、
いまは通用しないですね。
- 伊藤
- そう。夫婦ふたりいても
コストを維持できないこともあるでしょう。
安定の証がなんで結婚なのかな?
- 糸井
- 結婚という制度ができた当時、
それはもう、すごい発明だったんだと思う。
みんなの幸せのためのね。
社会もそれでうまくいった。
- 伊藤
- なるほど。
- 糸井
- いま、ちょっとわからずやのキャラの人たちが
主張していることというのは、
その人が育った時代にはいい発明だったんだよ、
ということなんですよ。
「女の子はオレとか言うんじゃないよ」
なんて咎めたりするのも、
そのほうがチャンスが増えるよ、と
言いたいんだよ。それだけだと思う。
孫は「おじいちゃんはなにもわかってない!」なんて
反抗するかもしれないけれども、
タイムマシンに乗ってさかのぼれは
「おじいちゃん、それは大発明だね!」
なんてことになると思います。
- 伊藤
- そうですね。
結婚は、食料や職業が少ない時代に、
子どもを生み育てていくための
大発明だったのかも。
- 糸井
- ルールというものは、その時代時代に、
不幸せを作らないために、
考えられていくのだから。
- 伊藤
- なるほど。
そして、幸せは変わっていきますからね。
- 糸井
- そう。
- 伊藤
- 糸井さんが「幸せ」と思うときって、いつですか?
- 糸井
- 思わないよ、そういうことは。
- 伊藤
- ええっ。
「幸せだなぁ」は?
- 糸井
- 「だなぁ」っていうのはあるな。
やっぱり食いものでしょう。
- 伊藤
- やっぱりそうですか。
でも、同じ食べものでも、
食べている場所とか、
いっしょにいる人によって、
「だなぁ」が変わってきますよね。
- 糸井
- その意味では、
もうすっかり平らになっちゃってるけど、
奥さんが喜んでるのを見るのがいちばんいいです。
ふだんそんなにお愛想してないぶんだけ、
「行って返ってきた」の
お得感がありますから(笑)。
- 伊藤
- 樋口さんは全く嘘をつかないですからね。
私もちょっとそういう傾向がありますが、
竹を割ったような性格じゃないですか。
樋口さんはキングオブ竹です。
- 糸井
- 妻の名前を「タケ」にしたいぐらいです。
- 伊藤
- すごいですよね。
大好きすぎます。
- 糸井
- 俺は竹と暮らしてるわけだから。
- 伊藤
- キングオブバンブーの、
ふだんの竹があってこその、
喜ぶ姿がいちばんうれしい、
ということなんですね。
- 糸井
- まさこさんは、
娘さんが喜んでるのを見るのは
うれしいでしょ?
- 伊藤
- そうですね。
娘がただ機嫌よさそうにしてるのがうれしい。
機嫌よくいることって、
私はほんとうにだいじだと思います。
- 糸井
- ほんとにね。
ちょっと野球の話をするけどね、
ジャイアンツが9連戦やっててさ。
9連戦って、選手はけっこうヘトヘトになるんだよ。
最後の試合の日、
原監督が選手にこう言ったわけ。
「みんな大変だったけども、
あと3時間、集中してたのしくやりましょう」
- 伊藤
- 3時間って試合時間ですか?
- 糸井
- そう。
1試合にかかる時間が、
だいたい2時間から3時間。
- 伊藤
- 長い。
でも「あと3時間」と、
監督は言ったんですね。
- 糸井
- そう。
前の試合からの練習を経て、
ずっと緊張感を保つことががんばることだ、と
ぼくたちは思いがちです。
だけど監督から
「3時間集中してたのしくやろうと思います」
と言われたら、ちょっと心が変わりませんか?
- 伊藤
- なんとなくわかります。
ほぼ日の人たちだって、
「生活のたのしみ展」で、
5日間ぶっ通しでイベントしてるのに、
最終日になって、
たとえ誰かからパシッと叩かれたとしても
痛いと思わないんじゃないかな、
というくらいの気の張り方で、
たのしんでました。
- 糸井
- 「家に帰るまでが遠足です」とか
「最後まで大変だよ」とか言いすぎるよりも、
これで終わりだ、と自分たちで言っちゃう感じ。
後片づけしないで帰る人はいないんですよ。
だけど「いまできることをしよう」という
気持ちにもっていくんだね。
それってコツですよ。
- 伊藤
- そうですね、肩の力が抜けます。
「こんなことじゃ試合に勝てないぞ、がんばれ」
とずーっと言われつづけるよりも
「あと3時間たのしく」と言われたい。
(明日につづきます。明日は最終回です)
2019-08-16-FRI