これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
ヨシカミ(浅草)
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 糸井
- 性は違いなんですよ。
性という字がつくものはぜんぶそう。
酸性とアルカリ性だってそうだよ。
「性的な魅力」というのは、
「違い的な魅力」のことだと思います。
- 伊藤
- それは、ほんとにそうですね。
- 糸井
- 親密になった場合は、
「性」が、つまり「違い」がなくなっていき、
一体化して自分化するんです。
- 伊藤
- 他人が自分になるんだ‥‥。
- 糸井
- だから、パートナーや家族って
自分の延長線上の人のことだと思うよ。
- 伊藤
- 次々に御札が(笑)。
持ちきれないです。
- 糸井
- だからたぶん、
カップルの旅行って、ひとり旅ですよね。
- 伊藤
- ええっ。そうなんですか。
- 糸井
- オフコースの歌で、
「今なんて言ったの 他のこと考えて
君のことぼんやり見てた」
というのがあるけど、
あれはきっと、すっかりずっといっしょにいる
人たちの歌なんだと思う。
逆に、ベタベタしてる人たちだったら、
なにも言ってないのに「なに?」なんて
仔犬のように訊きあうでしょう。
まさこさんは、
アイスに対しては沸点を超えたんです。
最初は違いをたのしんでいたけど、
一体化したんですよ。
- 伊藤
- アイスとは親密になったのに。
- 糸井
- まさこさんにとって、アイスは自分なんです。
- 伊藤
- 糸井さん、そんなにも、
性について考えてたんですか?
- 糸井
- うん。若い頃から
「なんだよ、それは」って思ってた。
「ぼくには毎日宿題があるんだ」
「塾で出た宿題?」
「違うんだ。自分で考えることがあるんだよ」
そんなふうに毎日家で宿題をしてた。
性についての宿題を。
- 伊藤
- それは、どれぐらいの期間‥‥。
- 糸井
- もう、60年ぐらい‥‥。
- 伊藤
- ええぇえ!
- 糸井
- 毎日、考えたんだよ。
- 伊藤
- 長い。
- 糸井
- でも、昔の人はとっくに知ってたことなんです。
だから、性という漢字を
そういうふうに使ってるんだよ。
- 伊藤
- 性=違い、かあ。
でも性を強調しすぎると、違いを超えて
こんどは同じになっていきませんか?
セクシーということで考えれば、
ムチムチした身体を強調すると、
ちょっと男性的に見えたりします。
それよりも、もっとさりげなく、
デニムにTシャツの人が屈んだときに
ちょっと見える、というようなのが
いいと思うんですけど。
- 糸井
- うれしそうな顔で言わないでください(笑)。
- 伊藤
- 私もドキッとするので(笑)。
- 糸井
- でもねぇ、そういう
「うっかり見えちゃった」ことも
演出できたりするんです。
これはだから、ずーっと、
追っかけっこなのよ。
- 伊藤
- 追っかけっこですか。
- 糸井
- 追っかける息が荒くなるのが、お祭りです。
ずっとクルクルクルクル追っかけっこしてる、
カリブの海賊みたいなカップルもいるでしょう。
- 伊藤
- あの、ちょっと不自然な動きの(笑)。
- 糸井
- あれをずっとやっていたい。
そういう人の気持ちもぼくにはわかります。
なぜなら、違いがなくなることに対する寂しさは、
やっぱりものすごくあるからね。
でも、年をとればとるほど、
「違いがなくなる」「薄味でこそわかる」
というところに行きたくなることも、事実。
- 伊藤
- それは、安定感のようなことですか?
- 糸井
- 平らなところにある、デコボコかな。
- 伊藤
- んん??
- 糸井
- 0.0000001%の甘みを舐めてみて、
「うん、甘い」なんていうのと同じこと。
「このわずかな風味が」
「お野菜の甘みが」
それを探ることは、子どもにはできない。
大人は、平らに見えるもののなかで
デコボコを探してる。
ある意味これは衰弱で、
いちばん平らになるのは死です。
けれども、その途中にも先にも、
おもしろいことはある。
- 伊藤
- 平らなのが死?
- 糸井
- 止まっちゃうのが死ですから。
そっちに近づいていってもまだ
生きものの気配があるよ、ということです。
- 伊藤
- でも、その平らがつまらないと
思っちゃう人もいると思います。
平らなことをうれしく感じつつ、
一緒にいたいけど。
- 糸井
- ほんとは両方です。
両方の場所で、遊びたいんです。
- 伊藤
- まぁ、そうですよね。
- 糸井
- ゾウを見たときのうれしさと、
アリを見たときのうれしさ、
両方ありますよね。
- 伊藤
- もっと自由になればいいのかな?
もしかしたら、結婚制度が
限界にきているのかもしれないですね。
- 糸井
- それはありますね。
ぼくは結婚制度は
いつかはなくなっていくと思っています。
(明日につづきます)
2019-08-15-THU