これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
ヨシカミ(浅草)
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 糸井
- まさこさんはweeksdaysで
ほぼ日の学校の、河野通和学校長と
本について対談してましたよね。
あれ、おもしろかった。
- 伊藤
- うん、とてもたのしかったです。
河野さんは年間500冊くらい
本を買っていたことがあって、
部屋の床が抜けそうなほどだったみたいです。
学生時代は全集をすみからすみまで読んだと
おっしゃってました。
- 糸井
- そうだね。
- 伊藤
- そのとき私は、
「あ、わかります、私も高校時代に
アイスクリーム屋さんのアイスを
全種類制覇したんです」
とお話ししました。
河野さんはおおまじめに
「まさに同じです」
と返してくださいました。
しまった、と思ったんですが、あとのまつり。
河野さんはこちらのいる場所まで降りて、
「そういうことです、わかったでしょ、伊藤さん」
なんて話をしてくださいました。
ほんとうにやさしい方です。
- 糸井
- 河野さんのおっしゃっていることは正しいですよ。
手の届く範囲なら
ぜんぶ届かせたいという気持ちのことを
河野さんは言ってるんです。
そのアイスクリームの話は、
やっぱりもっと聞きたくなりますよ。
- 伊藤
- 私、言ったとたんバカだなと反省しました。
本の話をしてくださっているのに、
私といえばアイスを食べまくった話‥‥。
- 糸井
- 全制覇する途中で、
「これはいらないよ」ということが
なかったんでしょ?
おいしいアイスクリーム屋さんだったんですか?
- 伊藤
- アイスクリーム屋さんが
高校の近くに4店ぐらいあって、
全部のアイスを制覇しようと、毎日通ってました。
- 糸井
- 1店じゃないんだ。
その中にはサーティワンもありましたか?
- 伊藤
- サーティワン、ありました。
- 糸井
- じゃあその思いつきはきっと
サーティワンのおかげでしょう。
「31種類」を名前にしちゃうような店が
あったおかげで、
全部食べようという気になったんじゃない?
- 伊藤
- ああ、そうかも。
「ヨッシャー!」「28個いった!」
なんて思ってたもんなぁ。
28個ぐらいになると、季節が変わって
新しいフレーバーが出てきちゃうんですよ。
だから「終わんな~い」と思ってた(笑)。
- 糸井
- お店に「サーティワン」という
名前をつけた人がどこかにいます。
その人は、まさこさんみたいな高校生が
いたと聞いたら、うれしくなっちゃうだろうな。
店名がそれだったおかげで、
やっちゃったことだから。
- 伊藤
- たしかにそうですね。
- 糸井
- いっぱい味をそろえて、
毎日来ても31日、違うのを食べられるよ、
というお店の名前なんだからね。
- 伊藤
- そうか、31はひと月ってことか!
- 糸井
- そうだと思う。
- 伊藤
- やだ、いまはじめて気づきました。
- 糸井
- そうか(笑)。
で、ほかのアイス屋さんも含めて4店舗、
食べてみてどうだった?
- 伊藤
- しらみつぶしに食べると、
ある日、沸点を超えるんです。
- 糸井
- 沸点‥‥。
いやぁ、俺だったらその沸点に行く前に、
たぶん16個くらいのところでやめちゃうな。
「このままいったらどうなるんだろう」
「あんまり好きじゃない味を食べる日が入るな」
なんてことに目覚めてしまうわけ。
「正直いえばバニラばっかりでもいい」
「なにを自分に課してるの?」
と思ってやめちゃう。
で、それはなんの沸点なの?
- 伊藤
- 針が振り切れるような感じで。
- 糸井
- 針って、心の動き?
- 伊藤
- なんか‥‥(笑)、
「あ、アイスってこういうもんなんだ」
という針です。
ものごとは量でわかることがある気がするんです。
つまり‥‥どう言ったらいいのかな、
ある量を食べると、
「アイスクリームともっと親密な関係になれる」
んです。
- 糸井
- 来たね、御札発言だ(笑)。
それはね、憧れです。
そうなりたい気持ちはあるのに、
ぼくなんかはどうしても飽きちゃう。
- 伊藤
- でも私が親密な関係になれたのは、
食べものだけですよ。
- 糸井
- 食べものだけ? まぁ、
なかよくベタベタしている恋人たちを見ると、
「あれは終わるんだろうな」と、
先輩である我々は思っちゃいますよね。
- 伊藤
- 私はどちらかというとベタベタ派です。
- 糸井
- あ、思わないんだ。あれ?
それじゃ親密になれないじゃない。
- 伊藤
- ええっ?
- 糸井
- 沸点を超えたから
親密な関係になって一体化するんでしょ?
まさこさんは、食べものではそうなんでしょ?
- 伊藤
- たしかにアイスクリームとは一体化する域まで
行った気がします。
でも、人とはそこまで親密にならなくていいと
思ってるのかもしれないです。
- 糸井
- なるほど。
- 伊藤
- 人とはある程度の距離を置いたほうがいい気がする。
しかし、ベタベタと親密って、
なにが違うんだろう。
- 糸井
- 親密は「相手が自分化している状態」でしょう。
つまり一体化ですよね。
でも、ベタベタは違う。
恋愛や人間関係で誰かとベタベタしているときって、
違いをすりあわせてたのしんでるんだと思う。
性という字はほんとは「違い」と読むと思うんだ。
- 伊藤
- おっと、御札ですね。メモメモ。
- 糸井
- メモっていいよ。
これは俺はほんとうに
なんども考えたことだから。
(明日につづきます)
2019-08-14-WED