これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
秩父宮ラグビー場
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 糸井
- 「この仕事をやっていればなんとかなる」
という考えはあります。ゼロではない。
「ごま塩の弁当」を売り出すのもアリです。
けれどもやっぱり
「昨日と同じ弁当でこれからもずっといく」
というのはありえないんです。
- 伊藤
- そうですね。ごま塩はごま塩なりに、
よりおいしいほうに導いていけます。
ごはんの炊き方や、
お弁当箱そのものの工夫、
ごまを炒るのか炒らないか、
工夫のしどころがあって。
- 糸井
- 工夫のしがいは山ほどありますよね。
たとえば人気のある留守番屋さんになるのも
そうとう大変なことでしょう?
犬や猫のいる家は、
留守番をしてほしい人がけっこう多いと思うけど、
留守を預けるほどの信用をどう作るんだろう、
ということだけでも、
留守番はすごい仕事だと思う。
- 伊藤
- 留守番かぁ。
家の中に入れられる人ってことでしょう?
人となりが重要になりますね。
- 糸井
- いまはペットシッターやベビーシッターと
呼ばれているかもしれないけど、
「丸い卵も切りようで四角」で、
同じように留守宅に入る職業でも、
考え方や意味合いが変われば
仕事はちがうものになります。
「人がいない家に入る」ということについて、
どれくらい練られているかが
仕事を考えるポイントになると思う。
- 伊藤
- そう考えると、
「あったらいいな」と思う仕事って、
いっぱいありますね。
- 糸井
- それが「手に職をつけて」ということとは
限らない。
- 伊藤
- ポイントとなるのはやっぱり
発想でしょうか?
- 糸井
- 留守番さんでいうなら、まずは信用ですね。
信用の考え方こそがアイデアになります。
そこに発想を加えれば。
- 伊藤
- ああ、考えることがいっぱいありそう。
- 糸井
- ほんとに。
- 伊藤
- フリーでも会社員でも、
着眼しだいで工夫はできるし、
考えることはとめどなくありますね。
ほぼ日って、アルバイトさんを含めて
120人くらいが働いていますが、
ひとつのお弁当箱が大きくなっただけじゃなく、
曲げわっぱあり、拭き漆あり、
いくつものお弁当箱が毎日あっちこっちで
動いているような感じです。
糸井さんはいま、お弁当を思いきり
人に任せているように見えます。
- 糸井
- うん、そうですね。
- 伊藤
- じつは私、いままでまったく
人に仕事を任せられないタイプでした。
でもweeksdaysでは、
スタッフみんながすごいんで(笑)、
「じゃあこれ、任せます」なんてことが
これまで何度もありました。
糸井さんは若い頃から
仕事を人に任せられるタイプでしたか?
- 糸井
- いやぁ~(笑)。
- 伊藤
- やっぱり?
- 糸井
- プレーヤーだった頃は無理でした。
なぜなら、プレーヤーとしての
ぼくの品質じゃないといけないから、
どうしても厳しくなります。
人に全部を任せれば品質保証はできない。
- 伊藤
- 仕事の品質って、必ずしも
努力するだけあがる、
というものでもないですよね。
スタイリングについても、訓練でどうにでも、
というものではありません。
経験は必要だけど、それだけじゃない。
- 糸井
- そうね。
体が「なっちゃって」ないとダメなんだよね。
人がお金をくれる仕事って、
こっちがゆがんでいるくらいの何かを持ってないと
引き受けられないんです。
手にコブやタコができて、
形まで変わっちゃってる状態。
職人さんは、みんなそういう一面があります。
ぼくの仕事で言えば、
目玉に映るものがそうなってないといけない。
練習も必要だし覚悟も要る。
- 伊藤
- そういう能力のゆがみを持っていないと
お金にはならないですね。
すると、やっぱり簡単には、
人にすべてを任せられません。
けれどもいまほぼ日を見ていると、
糸井さんはできるだけ、スタッフに任せる方向です。
大枠ではちゃんと軌道修正してらっしゃるけど。
- 糸井
- 軌道修正できてるかな。
- 伊藤
- なさってますよ。
みなさんよく
「糸井さんに一発でダメと言われた」
なんて言ってます。
でも、ほぼ日の人たちは
「自分がやっている」という意識があるから、
みんなすごくいきいきしてるんです。
自由なのにちゃんとしてて。
- 糸井
- 批判的に見たらできてないことも
たくさんあるだろうけど、
うちのみんなが意識して
乗り越えようとしていることは
確かにあると思う。
- 伊藤
- そうですね。
- 糸井
- チームプレーか個人プレーかは、
いま自分が
短距離走の選手なのかサッカーの選手なのか、
ということに似ていると思います。
サッカー選手の場合、
自分が選手を辞めてもそのチームは残ります。
監督として参加する場合もあるし、
オーナーとしてチームを持つこともできます。
でも、個人で100メートル走ってる場合は、
自分でずっと9秒のタイムを追求します。
自分が辞めたら自分という選手は終わり。
ぼくの感想としては、
チームプレーに変わったいまのほうがおもしろい。
「自分よりできるやつばっかりだ」
という状態が、最高の社長の仕事らしいよ。
- 伊藤
- ああ、そうか、そうですね。
- 糸井
- そうなったらいちばんうれしいわけ。
だからこそ、ぼくを含めて、
チームのリーダーシップを取る人が
古くなっちゃいけないんですよ。
置いていかれているのに
気づかないようではダメです。
- 伊藤
- 知らない間に自分がずれてるのは、
すごく怖いことですね。
- 糸井
- いま上手にできていることがあれば、
どうしてもチャレンジがおろそかになって
保守化してしまいます。
つまんなくなっちゃう理由は山ほどある。
- 伊藤
- 怖いですね。
私は自分ではいつも、
「自分に飽きる」ことを
無視しないようにしています。
私が飽きるということは、
私の仕事を見てくださってる方も
飽きてしまうから。
だから、自分が飽きはじめたことを見逃さず、
思い切ってパンッと辞めて、
新しいことをするようにしないと、と思ってます。
- 糸井
- 自分に飽きることはとても大事なんだけど、
そこにちょっと複雑さがまじるんだよ。
- 伊藤
- というと?
- 糸井
- 「本人が飽きてからが仕事になる」
というケースが、ときどきあるんです。
例えばあのやなせたかしさんだって、
「アンパンマンじゃないことしたいな」
と思っておられたかもしれないですよね。
- 伊藤
- ああ、そうですね。
- 糸井
- そこのバランスって、すごく必要なんですよ。
状況にただ反抗するだけじゃダメ。
根気よく話し合わないとなりません。
- 伊藤
- そのあんばいが重要ですね。
急に破天荒な気分になると、
きっと無理したりもするだろうから。
- 糸井
- 無理しますね。
「昔のほうがよかった」とか、
「チャレンジすべきだ」とか、
いろんな人がいろんなことを言ってくるし。
(明日につづきます)
2020-01-16-THU