これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
秩父宮ラグビー場
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 伊藤
- 仕事って、
自分のしてきたことで形作られていくから、
たとえひとつでも適当なことはできないです。
- 糸井
- ぼくはだいたい85点でオッケーにしています。
100点や200点を求めると、
気張っちゃって袋小路に入るから。
85点くらいに考えておいたほうが、
たくさんの機会を得られると思います。
だいたい100点って、観念だと思うんだよ。
現実には100点なんてあるもんじゃなくて、
振り向いて
「あー、よかった。おー100点だよ」
という感じ。
- 伊藤
- うーん、そうかぁ‥‥。
でも、たとえば自分の仕事を、
「もうちょっと時間があればもっとできたのに」と
卑下して表現することがありますよね。
- 糸井
- うん、ありますね。
- 伊藤
- それは謙遜なのかもしれないけど、
ちょっともったいない気が私はします。
リミットがある仕事でも
「リミットの中で最大限のことをした」
と思うように仕事したい。
だから、本を出しても
「すっごいおもしろい本ができた」なんて、
つい言っちゃいます。
「もっと時間があればよかったんだけど、
それでも読んでください」
みたいな言い方だと、
いろんな意味で礼を失する感じがしてしまいます。
- 糸井
- そうだね、自己採点って難しいね。
苦しいから逆に自分に
100点つけてみたくなったりすることもあります。
突っ張ってるときって、そうですよ。
- 伊藤
- 突っ張るとそうなりますね。
たしかに。
- 糸井
- 自信がないから
100点だと言わなきゃいけなくなっちゃう。
自分の採点ひとつとっても、
いろんな人がいます。
- 伊藤
- ほんとうにそうですね。
- 糸井
- 「こうなんないほうがいいな」とか、
「ああなりたいな」とかいう見本が
いっぱいあるってことですよ。
その一覧表のかたまりが自分だね。
- 伊藤
- そうですね。
一覧表のかたまりが‥‥自分。
あの人のここがいいからこうしよう、
こうはなりたくないな、
その集大成が、自分。
- 糸井
- そうでしょ?
- 伊藤
- そうですね(笑)。
- 糸井
- ぼくはもう、犬や猫のまねまでしてますよ。
- 伊藤
- でも「いやだな」だらけもよくないですよね。
「○○さんのあそこが嫌い」という人って、
「いや、あなたがそうなってますよ」
なんてことが多い気がします。
それは「集大成」に活かせてないって
ことなのかな。
- 糸井
- 「嫌い」の話をすると一瞬だけ、
人となかよくなれるんですよ。
- 伊藤
- ああ、そっか。
- 糸井
- ほんとに一瞬だけね。
「あの人のああいうところが嫌い」「そうよね」
と言えたら、ものすごく共感したかのように
思えてしまうんです。
だけどね、悪口って、必ず
よそで自分のことを同じように言われます。
それは当然です。
- 伊藤
- そうそう(笑)、そうなんですよね。
だから、言いたくもないし、
聞かされたくもないです。
- 糸井
- 逆に「○○さんのここが好き」という話は、
人に「ええ? そうかな」なんて
言われるだけでしょう。
なかよくもなれませんし、損するだけです。
だけどその「損」が人を作ります。
一瞬の悪口の共感なんて、なくていい。
負け戦の分量がその人の大きさです。
ポーカーの世界一位の人って、
いちばん負けてるらしいよ。
- 伊藤
- へえぇ。
- 糸井
- 負けるためには、勝ってなくてはいけません。
「いいよいいよ」と負けてるぶんが、
人の実力だよね。
- 伊藤
- そうかぁ。
「負けてるぶんが実力」
- 糸井
- 勝ってなきゃ、負けらんない。
実力のある人が負けるんです。
- 伊藤
- ほんとですね。
- 糸井
- 「そんなのいいよ、負けときなよ」
と言えるのは強い人です。
ちょっと多く勝ちがあれば貯金になる。
そうやって、人は大きくなります。
- 伊藤
- 糸井さん、若い頃からそう思ってましたか。
- 糸井
- 広告のプレゼン仕事については
ゲームのように勝たなきゃいけない、
なんてことがあったけど、
ふだんのぼくは、わりとそうでした。
「勝たなきゃ」という場合、
勝つことに集中しちゃうからね。
「そこんとこ、ぼくはいいよ」
というほうが都合がよかったです。
100円や200円で「どっちが得した」みたいな
話を聞くと、
「そんな100円、損してもいいじゃない?」
と思うでしょう?
ところがそれが100万や200万に
なったらどうですか。だいぶ痛いですね。
しかし、それをかすめ取って
逃げていく人がいたとしたら、
その人のそのあとの人生は、
「かすめ取って逃げた人生」になります。
- 伊藤
- 何をするにしても、やっぱり
してきたことが自分になりますね。
- 糸井
- そう思います。
言ったことじゃなくて、
してきたことです。
それは必ず。
(明日につづきます)
2020-01-18-SAT