これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
秩父宮ラグビー場
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 糸井
- 最近よく言ってるんだけど、ぼくはつねに
「うれしさや幸せの総量を増やせるほう」に
答えを持っていきたいんですよ。
- 伊藤
- 幸せの総量、ですか。
- 糸井
- たとえば、販売しているおまんじゅうがひとつ、
余ったとするじゃない?
そのまま捨てちゃったら、
幸せの総量は増やせません。
おなかいっぱいだけど食べちゃう、ということでも、
幸せの総量は増やせません。
でもそのときまさこさんにお願いして、
油でこんがり、揚げまんじゅうにしてもらったら?
幸せの総量は増えると思います。
こういうこと、いつも考えています。
- 伊藤
- 揚げまんじゅうを作ったら、道行く人に
ちょっと寄ってきませんか? って
声をかけることもできますね。
- 糸井
- そうそう。
そんなすてきな答えを出している人たちを見ると、
いいなと思う。
- 伊藤
- そんなすてきな答え、最近あったかな?
- 糸井
- いっぱいあると思います。
ラグビーのワールドカップが日本で開催されたとき、
会場のお弁当が急に増えたことがありましたね。
オリジナルで作った弁当も、よそから来たものも、
きっとなんでもありの状態だったと思います。
利益もちがうだろうし、
スポンサーがどうのこうのがあって
「これでなきゃいけない」なんてことになると
自由がなくなったことでしょう。
でも、みんなの幸せの総量を増やすと思えば、
「お弁当はたくさんあったほうがいい」
ということになりますよね。
- 伊藤
- そうですね、試合時間も長いだろうし、
ビールも飲むわけですから、
そこにおかしなこだわりはないほうがいい。
私はそういう考え、できてるかな。
- 糸井
- できてると思います。
だって、まさこさんはよく
Too muchにならないおみやげをくれますよ。
- 伊藤
- 相手の負担にならないようにはしています。
- 糸井
- 前にまさこさんのアトリエへ
食事にうかがったときも、
最後に出てきたデザートは、
小さいいちごにお砂糖をかけたものでした。
いいあんばいで力が抜けていて、
すごく上手だと思いました。
- 伊藤
- そうやって喜んでくださる以前に、
そのいちごのヘタ取りが、
私にとってはうれしい作業なんです。
いちごかわいいなぁ、って思いながら。ははは。
- 糸井
- それはやっぱり、作り手を含めたみんなの
幸せの総量を増やしてるんですよ。
- 伊藤
- なるほど。
煮詰まったときの気分転換が人のためになるのは、
けっこういいな。
- 糸井
- 幸せの総量を増やすという意味で、
「休むこと」「気分を変えること」も、
すごく重要で。
- 伊藤
- いい仕事をするために休むって、
すごく大切だと思います。
でもみんな、休むのはけっこう苦手ですよね。
- 糸井
- 上手に休むって、
そうとうクリエイティブなことなんですよ。
訓練しないとできないと思う。
子どもの頃から親が
強制的に休ませたりした人は、
おそらくできると思います。
- 伊藤
- あ、思い当たります。
私は学校があんまりヒットしない子どもで、
遠足なんて、前の日までたのしいのに、
当日になるといやになってました。
そんなとき「ちょっと熱っぽい」とかウソつくと、
「あ、そう」なんて、
見て見ぬふりしてくれる家だったんです。
休んで家で1日を過ごして、
翌日「ま、行こう」という気になれました。
そんな親の対応は、けっこう助かった。
- 糸井
- 休むことも、じつは親が教えられるんですよね。
でも、あんまり思いつかないし、
なかなか自然にできることじゃないと思う。
まさこさんは、そこで得したね。
- 伊藤
- そうですね。
うちの娘もピリッとしない子だったんで(笑)、
たまに休んで1日折り紙したり、
絵を描いたりして過ごすことがありました。
するとまた吹っ切れて学校に通うんです。
- 糸井
- 最近、近くに赤ん坊がいて、
ちょっとわかったことがあるんですよ。
ある日、赤ん坊が母親と遠出して、
くたびれた帰り道、電車で興奮して眠れず、
むずかることがあったんだって。
「そういうときどうしたの?」と
母親に訊いたら、
いったん電車を降りた、と。
- 伊藤
- へぇえ。
- 糸井
- 降りて、駅で子を泣きやませて、
また電車に乗りました、と。
ある本に、そうするといいって
書いてあったらしいんだけどね。
- 伊藤
- ふつうは「もうやだ」なんて思いながら、
そのまま乗ってったりします。
そうか、いったん休んじゃうのがいいですね。
気分転換、ほんとうに大事です。
(明日につづきます)
2020-01-19-SUN