これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
秩父宮ラグビー場
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 伊藤
- 自分の成長は、目で見えないし、
よくわからないですね。
- 糸井
- うーん‥‥、たとえばほぼ日の面々だって、
だんだん上手になっているとは思います。
本人が道をひと回りして
なんにも変わらないと思っていても、
工夫したり挑戦したりしてるなら、
スタートよりぜったい上にいると思います。
- 伊藤
- 高速道路の池尻のトンネルのようですね(笑)。
同じハンドルの切り方でぐるぐる回りつづけて、
上がってるんだか下がってるんだかわからない。
もう~、と思うけど、
ちゃんと出口に導いてくれます。
- 糸井
- ぐるぐる回るときって気持ち悪いんだよね。
自分で心配になったりします。
でも「目線は高くなっていますよ」ということは
教えてあげたいです。そして、
「ぐるぐる回っている道の途中であらわれる
見晴らしから、また考えろよ」と。
- 伊藤
- そのときに、たとえば車を降りたり。
- 糸井
- そう。車線を変えたりするだけでもいい。
あるいは、もう車はやめよう、といって、
そこから階段で帰ってきてもいい。
- 伊藤
- ついつい「ドライビングテクニック」を
よくすることに気がいっちゃうけど、
意識して風景を見ないといけませんね。
「同じ車で、この前は1時間で行ったけど、
今日は50分で行けそうだ」
ということももちろん好きで、
ひとつのことをコツコツやるのがえらいと
思いがちですけれども、
「飽きる人いいじゃん」「飽きるってすごいよ」
ということはもっと言いたいです。
飽きなければ、流行は生まれないですから。
- 糸井
- ぼくもそう思います。
スタイリストの仕事って、そういう意味では
バリエーションがあったのかな?
- 伊藤
- そうなんです。
この飽きっぽい私が25年以上も、
ひとつの職業でやってこられたのは、
たまたまスタイリストだったからです。
- 糸井
- でも、スタイリストは
ある意味職人の世界でしょう?
まさこさんがスタイリストになってすぐの頃なんて、
いろんなお作法を言われたと思うけど。
- 伊藤
- そうですね、決まりごとはたくさんありました。
雑誌の見開きページで、
右に楕円のお皿があるとしたら、置き方はこう、
そして次は丸にするものだ、とかね。
お箸はそれぞれのページで変えなきゃダメ。
「ひとりの人の食卓なのに、
おうちにお箸が数種類もあるかなぁ」
「楕円だけのお皿のページもいいのになぁ」
いちいちそう思って、
いちいち反抗してました(笑)。
- 糸井
- 新人時代にそのアドバイスを守ったとしたら、
こんにちの「伊藤まさこ」まで
たどり着いてないとぼくは思います。
どんなに奇想的なことだったとしても、
同じことをしていたら
生き延びられなかったでしょう。
- 伊藤
- う~ん‥‥、そうかもしれないですね。
私はほんとうに若い頃から
「こうだから、こう」というルールが
好きではありません。
いちど、広告の仕事で
ブルーの布を借りてブルーで撮影しよう、
というプランがありました。
ぜんぶブルーでそろえてセッティングしたら
「オレンジはないの?」と
アートディレクターが言いはじめました。
すっごく若いときだったんですけど(笑)、
「ブルーって話でしたよね?」
と言い返しました。すると、
「いや君ね、広告の仕事なんだから、
『はい、これ』って言われたら、
すぐ持ってこなきゃ」
- 糸井
- はははは。
- 伊藤
- 「えー! 私、魔法使いじゃありません」
若かったんで、そう言いました。
- 糸井
- はははははは。
- 伊藤
- それ以降、自分には向かないと思って、
広告の仕事を減らしました。
- 糸井
- それは広告に向かなかったんじゃないよ。
- 伊藤
- そうですね、
その人に合わなかったんでしょうね。
- 糸井
- ろくでもない人は多いです。
広告だけじゃない、
ろくでもない人はどこにでも、山ほどいます。
その人たちがいろんなことをつまんなくしてる。
ろくでもない人がいる場所は、
ほんとうはとても小さい世界なんだよ。
でも、その小さい世界には、
ろくでもなくない、飽きっぽくても根気のある人が
まじっているんです。
つまり「言うだけじゃない」ということが、
重要なのかな?
- 伊藤
- そうですね。
好きなことに対する根気なら、みんな
あるのかもしれないですね。
でも、好きなことが見つけられず、
「将来なりたい仕事がよくわからない」ってこと、
うちの娘もそうですけど、あると思います。
糸井さんはそんなふうに迷った感じがしません。
糸井さんはどうやって
「糸井重里」になったんですか?
- 糸井
- ぼくはあんがい、流されるままに来ました。
負け戦も平気で、
いつも「これでもいっか」の連続でした。
でもそのなかで
「こういうことだったらいいのになぁ」
とは思ってた。
- 伊藤
- ああ、なんとなくわかります。
- 糸井
- 川の流れには身をまかせましたが、
自分から見えてる世界が
なんだかあったんでしょうね。
まさこさんはどうだったんですか?
どうやって「伊藤まさこ」になったの?
- 伊藤
- 私も‥‥、流されるままですね(笑)。
「それ、たのしいかも」の連続です。
糸井さんは川に流されていても、
上流から何が流れてくるか、
ワニが来るか、桃が来るか、
そのあたりの勘がすごいと勝手に思ってます。
- 糸井
- ぼくは、運も勘も、
じつはふつうだと思いますよ。
サイコロ振るゲームも得意じゃない。
運は、偶然じゃなくて、
必然的についてくることなんじゃないかな。
- 伊藤
- ああ、そうですね。
私は時折、人から
「運がいいね」と言われることがあるんですが、
自分ではそう思わないです。
でも、ほかの人を見ててわかったことがあるんです。
運のいい人って、まちがいなく機嫌のいい人です。
機嫌のいい人は、
人にやさしくされる確率が高い。
そのあたりに秘密があるような気がします。
- 糸井
- それこそが運だよね。
- 伊藤
- だから機嫌よく、みんなにいてほしい。
- 糸井
- 赤ん坊だってそうですよ。
笑っていればむこうも笑う。
ご機嫌でいられるくり返しがある。
- 伊藤
- はい。
頑固にならないようにも気をつけています。
何においても否定から入る人もいますが、
それはちょっとちがうかな、なんて
私は思います。
- 糸井
- でも、カミさんは、
旦那の言ったことは、
ぜんぶ否定から入りますよね。
- 伊藤
- はははは。
また竹を割った話ですね。
- 糸井
- ほかの人が言ったことだと耳に入るんだけど、
旦那が言ったことは、ダメですよ。
- 伊藤
- そうですか(笑)。
- 糸井
- それじゃあ次は、
そういう話になるのかな?
- 伊藤
- また考えて、お話をうかがいに来ます。
- (最後に、おまけがあります)
おまけ
今回、伊藤まさこさんが
作ってくださったお弁当に入っていた
「切り干し大根」は
食べたことがない味でとてもおいしかったので、
伊藤さんに作り方を教えていただきました。
お弁当の箸やすめにぴったりの、
すっきりした「切り干し大根」です。
作り方
1・切り干し大根を水で戻し、よくしぼる。
2・1に、軽く炒ったじゃこ、酢、塩少々、ごま油を入れて、
よくあえる。
3・味を見て、足りなかったら塩を足し、
風味づけにしょうゆをほんの少したらし、
白ゴマを加えてよくあえる。
酢やごま油など、種類によって味わいも変わるので
好みのものでどうぞ。
(おわります)
2020-01-20-MON