産婦人科医の宋美玄さんは、
日々、女性のさまざまな体の悩みに向き合っています。
そうした中、宋さんが気になっているのが、
生理痛を我慢している人や
女性の身体について間違った情報に
振り回されている人が少なくないこと。

長く付き合っていく身体の仕組みや、
さまざまな治療方法を知って、
そこから納得できる方法を選んでもらいたい。
自分の人生は、自分でコントロールしてほしい。
──そんな思いで、生理痛、生理前の不調、妊娠、出産など
女性の体に起こりがちな不調や、対処法などを
宋さんが教えてくれました。
自分の身体とじっくり向き合うことになった、
ほぼ日の學校での公開授業の様子をお届けします。

>宋美玄さんプロフィール

宋美玄(そん・みひょん)

1976年兵庫県神戸市生まれ。
2010年に発売した
『女医が教える本当に気持ちいいセックス』が大ヒット、
大きな注目を集める。
2017年には丸の内の森レディースクリニック開院。
一般社団法人ウィメンズリテラシー協会代表理事就任。
二児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立、
さまざまな女性の悩み、
セックスや女性の性、妊娠などについて
女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
著書に『産婦人科医 宋美玄先生の 
女の子の体 一生ブック』(小学館)、
女医が教える オトナの性教育:
今さら聞けない セックス・生理・これからのこと』(学研プラス)などがある。

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2.生理痛は治療の対象。

いきなりですが、クイズです。
この100年ぐらい
日本をはじめとした先進国では
子宮内膜症や卵巣がんといった
女性特有の病気が増えているんですね。
さて、その原因は1〜4のどれでしょう?

──
う〜ん。どれでしょうかね。
どれもあてはまるような‥‥
正解は・・・・4。選択肢1~3のどれでもないんです。
女性特有の病気が増えた原因は、
「冷え」でも、化学物質でも
食品添加物でもありません。
じつは「生理の回数の増加」です。
──
生理の回数ですか。
実はこの100年くらいに
起こった大きな変化のひとつに、
平均初産年齢(ひとりめの子どもを産む年)が
30歳を超えたことがあります。
今から50年くらい前は、大体25歳くらいで
ひとりめの子どもを産んでいたんです。
そのあと晩婚化、晩産化がどんどん進み
2011年には女性がひとりめの子どもを産む年齢の
平均が30歳をこえました。
今では31歳近くになってきています。
そして昔の女性に比べて、
子どもを産む人数が少なくなりました。
戦前は、1人で子どもを6~7人産むのが
珍しくなかったのが、
2022年は、1人の女性が生涯に産む子どもの数は1.26人に。
──
6〜7人から1人に。
子どもを生む人数が減ったことで、
女性の身体に何が起きるのか。
それは、生理の増加です。
妊娠中には生理はありませんし、
産んでも授乳をしている数年間は生理が来ない。
さらに、昔はそもそも栄養状態が悪かったので、
生理が始まるのも今より遅かったし、
生理が毎月来ないことも珍しくなかったそうです。
文献によって差があるんですが、
一人の女性が生涯で経験する生理の回数は
50回から150回くらいだったと言われています。
──
今はどれくらいなんですか?
現代の女性は生涯で生理が
450回くらいあると言われています。
戦前の女性に比べて現代の女性は
3〜9倍くらい増えているんです。
生理の回数が増えたことで必然的に、
子宮内膜症や子宮がんなど女性特有の病気が増えました。
生理は女性の体に
負担がかかっているって知っていましたか?
──
生理痛の痛みという意味では負担がかかっていることは、
なんとなくわかっていました‥‥。
その「なんとなく」のところを、
もう少しくわしく説明させてもらってもいいですか?
──
ぜひお願いします!
まず生理がどうして起きるのかという
基本的なことからお伝えしますね。
女性の体は、生理が始まる前に
準備期間として卵が成熟し、その後「排卵」をします。
そして、子宮の内側に「子宮内膜」という
赤ちゃんが宿るためのふかふかな組織を作ります。

妊娠が成立しないと、リセットするために
子宮内膜が剥がれ落ちて
経血とともに体外に排出されます。
それが生理です。
本来、生理が正常のメカニズムで起こっていれば
痛くないんです。
──
でも生理痛で困っている人は結構多いです。
そうですね。
それを表すのが下のグラフ。
働く女性に、いわゆる生理痛がどれほど重いか、
その程度を聞いている調査です。
だいたいどの調査でも、働く女性の8割くらいの人が
生理痛やなんらかの痛みがあると答えています。

──
痛みを感じないという人もいる一方で、
約半数の人は痛みがありながらも我慢しているんですね。
そうなんです。しかも、3割くらいの人は
薬を飲みながらなんとか社会生活を送っていて、
3%くらいの人は薬を飲んでいても
仕事を休むくらい苦しんでいる。
日本には生理休暇という珍しい休暇があるんですが、
実際に取っている人は少ないんですね。
取得率はわずか1%というデータもあります。
制度としてはあるけれど非常に取りにくい休暇なんです。
──
たしかに、動けないくらいつらくても、
生理痛で会社を休むのはすこし勇気がいります。
生理ごときで、と思ってしまうというか‥‥。
いやいや、生理“ごとき”じゃないですよ。
日常生活が送れないくらいの状況なので、
軽く見ちゃだめです。
生理痛は、正式には「月経困難症」という
病名がついていて、治療の対象になっているんですよ。
私、「#生理痛撲滅運動」っていうハッシュタグで
ときどきインスタグラムで上げているんですけど。
生理痛ってあるのが当たり前と
思っている人が多いんですよね。
──
生理痛は「あるのが当たり前」「我慢するのも当たり前」
だと思っていました。
そんなことないんですよ。
──
そもそも生理中に痛みが出るのはなぜなんですか?
さまざまな原因がありますが、
原因のひとつに、
生理の際に子宮内膜がはがれ落ちるときに、
「プロスタグランジン」という
痛みの物質が出ることがあります。
また、子宮口が未発達で血の通り道が狭いと、
経血を出すために子宮が過剰に収縮して、
痛みが強くなる傾向もあります。
要は、子宮になにかの病気があるわけじゃないけれど
子宮が本来の機能を果たそうとすることで
痛みが出てくるわけです。
こうした痛みには、「機能性月経困難症」という
名前がついています。
月経困難症にはもう一つあって
「器質性(きしつせい)月経困難症」という
生理痛もあります。
子宮自体に、子宮内膜症や子宮筋腫、ポリーブなど
なんらかの病変があって、そのせいで痛くなる症状です。
──
「子宮内膜症」って、よく聞きます。
子宮の中に毎月作られる組織である子宮内膜が
子宮の中以外の場所、
つまり本来あるべきじゃない場所に
できてしまうことがあります。
それが子宮内膜症です。

──
どうして本来あるべきではない場所に
できてしまうんですか?
子宮には弁がないので、
生理のときに血が下方向に流れず、
逆流してしまうことがあるんですね。
問題は、血だけならまだしも、
子宮内膜が逆流してしまうこと。
子宮内膜が卵巣、骨盤の底など
他の臓器の方へ引っ越してしまい、
第2の人生を歩み始めてしまうんです。
引っ越した先で生理のたびに出血するので、
卵巣の中に血が溜まっていったり、
臓器と臓器がくっついてしまったりすると、
増殖した子宮内膜によって炎症が起こる。
妊娠が可能な年齢の女性の約1割は
かかっているといわれています。
──
10人に1人も!
結構多いですね。そして、
子宮内膜が筋肉の中に入り込むことで、
子宮周辺の筋肉が腫れてしまう「子宮腺筋症」になって
しまうこともあります。
──
生理の回数が増えると
子宮内膜症や子宮腺筋症になる可能性が高まるんですね。
いま生理痛が強い人は
今後、子宮内膜症になる可能性もあるし
すでに子宮内膜症になっている可能性もあるので、
婦人科の受診をおすすめします。
──
わかりました。
もうひとつ知っておいてほしいよくある症状が、
子宮筋腫です。
──
子宮筋腫も、聞いたことがあります。
子宮筋腫とは、子宮にできる「良性のこぶ」です。
子宮筋腫ができる原因ははっきりわかっていません。
良性なので他に転移することはないんですけれど、
このこぶがあるだけで生理が重くなり、
治療の対象になることもあります。
子宮の「外側」にできる筋腫は、
あってもあまり症状がないんですが、
一方で、子宮の「内側」にできる筋腫は
たとえ1センチぐらいの大きさでも激烈な症状です。
30代以上の女性の2~3割に
子宮筋腫があると言われています。
──
子宮内膜症より、割合が高いですね。
なので、月経量が多い人は、
子宮筋腫がないか一度、
診てもらったほうがよいと思います。
そうすると、手術で子宮筋腫を取ることもありますし、
ホルモン療法で治療することもあります。
──
生理痛だけでは、それが治療したほうがいい病気なのか、
あまり気にしないでいいものなのか判別しにくいですね。
そうなんです。
腹腔鏡で覗いてみないとわからないこともあります。
ちなみに、20歳を過ぎたり25歳ぐらいになって
「生理が軽くなってきたなあ」
と感じたら、機能性月経困難症だった可能性があります。
逆に、20代後半とかアラサーとか年を重ねるにつれて
生理痛が強くなったりや量が増えてきたりした場合は
器質性月経困難症の可能性があり、
子宮内膜症や子宮筋腫など、
進行性の病気が隠れている可能性もあります。
ひとついえるのは、
機能性であっても器質性であっても
生理痛は基本的には治療の対象になるということ。
だから、なにか違和感をおぼえたときは
医療機関に足を運んでほしいと思います。
──
自己判断しないことが大切ですね。
はい。ほかにも、生理の状態から
病院に行く目安があります。
くわしくは、次回お話しますね。

(つづきます)

2024-09-20-FRI

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  • ライティング | 桜田容子
    編集 | かごしま