編み図と編み針と毛糸がセットになった
ミクニッツのムック本『Miknits TO GO』no.3no.4で、
ニットデザイナーの三國万里子さんが、
画家のミロコマチコさんが暮らす
奄美大島を訪れました。

ミロコさんが東京から奄美大島に
拠点を移されたのは、2019年のこと。
「地球のすべてに感動して、描きたくてうずうずしてきます」
と話す奄美のエネルギーや
ミロコさんの創作の源を体感したいと、
新しいアトリエやお気に入りの場所を案内いただきました。
そのひとつが、古代天然染色工房の「金井工芸」さん。
奄美大島伝統の「泥染め」を行っている工房で、
ミロコさんは創作に泥染めを取り入れることもあるそう。
金井工芸さんでの染め体験の様子をお届けします。

 

写真 | 近藤哲

>ミロコマチコさんプロフィール

ミロコマチコ

画家・絵本作家。1981年大阪府生まれ。独自のタッチで描かれたいきものたちからは、強いエネルギーを感じる。絵本『オオカミがとぶひ』(2012年、イースト・プレス)で第18回日本絵本賞大賞を受賞。ブラティスラヴァ世界絵本原画ビエンナーレ(BIB)で、『オレときいろ』(WAVE出版)が金のりんご賞、『けもののにおいがしてきたぞ』(岩崎書店)で金牌を受賞。その他にも著書、受賞歴多数。本やCDジャケット、ポスターなどの装画も手がける。最新刊に『たいようがわらっている』(作・川平慈英、学研プラス)。現在、展覧会「いきものたちはわたしのかがみ」が全国美術館を巡回中。

>三國万里子さんプロフィール

三國万里子(みくに・まりこ)

ニットデザイナー。1971年新潟生まれ。3歳の時、祖母から教わったのが編みものとの出会い。早稲田大学第一文学部仏文専修に通う頃には洋書を紐解き、ニットに関する技術とデザインの研究を深め、創作に没頭。現在はニットデザイナーを本職とし、2009年『編みものこもの』(文化出版局)を出版。以降、書籍や雑誌等で作品発表を続ける。2013年よりほぼ日で編みものキットや関連するアイテムを展開する「Miknits」をスタート。2012年より「気仙沼ニッティング」のデザイナーを務める。最新刊に『ミクニッツ  大物編 ザ・ベスト・オブ Miknits 2012-2018』『ミクニッツ  小物編 ザ・ベスト・オブ Miknits 2012-2018』(文化出版局)。2020から2021年にかけて福岡の美術館「三菱地所アルティアム」と、渋谷PARCO「ほぼ日曜日」にて自身初の大規模個展を開催した。

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03


自然の力を借りて、染色する。

 
車輪梅に染める工程の次は、
工房の横にある泥田で泥に浸します。
鉄分が豊富な奄美大島の泥が広がる作業場。
植物が生い茂り、シリケンイモリが顔を出すような、
奄美の空気をたっぷり感じられる場所です。

▲自然の中にたたずむ泥田。囲われた3箇所が作業をするスペース。 ▲自然の中にたたずむ泥田。囲われた3箇所が作業をするスペース。

 
「奄美大島でも特に、150万年前の
古い地層が残っている地区になります。
その名残で、鉄分が多く、
水の絶えない沼地が昔からここにあったため、
現在も泥染めができる環境にあります」と金井さん。
鉄分が少ないと感じたら、
自然の中に育つ蘇鉄の葉っぱや茎を
泥田に放り込んで鉄分を保つそうです。
泥に手を入れてみると、
きめ細やかで、しっとり気持ちのいい泥です。
泥田は膝の深さまであります。
底を踏み込んで、沈殿している泥をかくはん。
毛糸や靴下を泥に浸して、揉み込んでいくと
赤みが黒色に変化していきます。

▲毛糸を泥に浸して、揉み込んでいきます。泥は生温かく、気持ちが良いもの。 ▲毛糸を泥に浸して、揉み込んでいきます。泥は生温かく、気持ちが良いもの。

 
泥を揉み込んだら、
山の川まで行って泥を洗い流すそう。
「ここの泥は粒子がとても細かいので、
泥が糸の組織に入り込んで
毛羽立ったり、傷んだりする原因になります。
川は留まることなく水が流れているので、
泥がよく落ちるんです。
また、水道水だと配管によって水質が異なるので、
抽出される色が変わってきてしまう。
水場が豊富な地域でもあるので、
川まで行って洗うのが、いちばんいいんです」
「藍泥染め」の場合は、
車輪梅ではなく藍で染めてから泥に浸します。
じっくりと時間をかけて揉み込み、
しっかりと藍色を糸に入れます。
グレーがかった深みのある藍色も、
ここでしか生まれないきれいな色です。

▲藍に浸している糸。 ▲藍に浸している糸。

 
様々な色を生むにはどうしているのか、
金井さんにうかがいました。
「泥染めの場合は、
車輪梅に染めた分しか泥は反応しません。
なので、20-30回車輪梅に染めてから、
一度泥に浸す、という作業を繰り返します。
回数を重ねることでしか黒色は生まれないので、
80-100回くらい染めの作業をすることになります。
つくりたい色は同じでも、
職人さんによって作業の過程が異なります。
季節や温度、湿度でも色の出方が変わってくるので、
そこは職人さんの腕と勘頼み。
大島紬に関しては、最初から最後まで
一人で、一製品の染色を担います」

 
乾かないと出来上がった色がわからないので、
時間をかけながら、調整をくり返します。
「梅雨時はぜんぜん乾かなかったり、
悪天候が続いて泥田の質が変わることもあります。
しかし、自然の力を借りることで
生まれる色だと思うので、
必要な分だけ材料を採取して、
一つ一つを丁寧につくって、
自然の恵みを大事にしながら色を染めています」
と金井さん。
自分本位ではなく、
糸の素質や自然環境を考えて染色することが
「泥染め」だと教えてくれました。
「たどり着きたい色を思い描きながら、
毎回考え、手を動かしていくことが、
職人さんたちの作る喜びに
つながっているのだろうと感じました。
ミロコさんをはじめ、
洋服ブランドのコズミックワンダーなど、
日本の若いクリエイターとの
コラボレーションが進んでいるのも、
伝統と現代の両方を知る
金井さんならではなんでしょうね。
物を作ることの喜びや広がり、それに責任を考える上で、
大事なヒントをもらったように思います」と三國さん。
ミロコさんも、
「私も初めて出会ったときに、感動しました。
それから描いた絵をそのまま泥に染めてみたり、
車輪梅で赤褐色にしたり、
いろいろな実験を試させてもらっています。
島で育ったものを創作に取り入れることで、
島から大きな力を貸してもらうような気持ちになります」
染め上がった糸は後送いただき、
三國さんはミロコさんへプレゼントを編みました。
*金井工芸さんの最新情報は
こちらからご確認ください。

(おわります。)

2021-09-01-WED

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  • ミロコさんのアトリエとお気に入りの場所を、
    たっぷり紹介しています。

    おうちで、バスの中で、公園で。
    どこでも、だれでも、気軽に編みものを楽しんでほしい。
    そんな思いがつまったムック本「Miknits TO GO」。
    三國さん監修の編み図と編み針、
    オリジナルのアラン糸がセットになっているため、
    この一冊で作品を編みはじめることができます。
    no.3は葉っぱ柄のベレー帽「木の葉のタム・オシャンター」
    no.4は編み込み柄が素敵な「オーロラミトン」を編めます。

    編みもの時間をさらに楽しむための冊子では、
    ミロコさんの暮らす奄美大島を訪れた様子をお届けします。
    no.3ではミロコさんお気に入りの場所を、
    no.4では完成したばかりの新しいアトリエを、
    それぞれ12ページにわたってたっぷりご紹介しています。
    おふたりの創作や奄美での生活にまつわる対談、
    三國さんのエッセイなど読みものも充実しています。
    編みものの休憩に、じっくり楽しんでください。