『マリオ』や『ゼルダ』や『ピクミン』をつくり、
世界中で尊敬されているゲームクリエイター‥‥
と書くと、正しいんですけど、なんだかちょっと
宮本茂さんのことを言い切れてない気がします。
クリエイティブでアイディアにあふれているけど、
どこかでふつうの私たちと地続きな人、
任天堂の宮本茂さんが久々にほぼ日に登場です!
糸井重里とはずいぶん古くからおつき合いがあり、
いまもときどき会って話す関係なんですが、
人前で話すことはほとんどないんです。
今回は「ほぼ日の學校」の収録も兼ねて、
ほぼ日の乗組員の前でたっぷり話してもらいました。
ゲームづくりから組織論、貴重な思い出話まで、
最後までずっとおもしろい対談でした。
え? 宮本さんがつけた仮のタイトルが、
『なにもできないからプロデューサーになった』?
そんなわけないでしょう、宮本さん!
第5回
操作したときの手応え
- 糸井
- 『MOTHER』をつくったとき、
宮本さんがチーム体制を整えてくれて、
全体のプロデュースをしてくれたわけですけど、
思えば、あれは宮本さんにとって、
新鮮な経験だったんじゃないですか?
- 宮本
- そうですね。ふだんのぼくは
自分のクリエイティブに役割があるんですけど、
『MOTHER』の場合、糸井さんのクリエイティブなので、
ぼくは口挟まずに、支えることだけをするという。
ブレインストーミングとかにいちおう行くけど、
どちらかいうと、プログラマーが足りないな、とか、
そっちに気を回すような感じで。
- 糸井
- その後、ああいう経験は?
- 宮本
- 海外のゲームを移植したりするときは、
ああいうプロデュースの立場になりますね。
たまにそういう仕事があると、たのしいんですよ。
- 糸井
- たしかあのとき、ぼくは宮本さんに、
ああしろ、こうしろって、
言われたことはほとんどなかったです。
ただ、宮本さんが来ると、
ゲームの具体的な部分をつくってる人たちは、
やっぱり、ぴりっとしてましたね。
- 宮本
- まあ、口を挟むとしたら、
操作とアクションの部分だけですね。
- 糸井
- あー、操作とアクション。
ああいうのって、どうやって決めるんですか。
たとえばコントローラーのボタンなんて、
押したときの物理的な感覚はみんな一定のはずで、
でも、押したときに画面のなかで動いたものによって、
この「指先の感じ」が違ってくるわけですよね?
- 宮本
- はい、はい。
- 糸井
- そのあたりの、感覚の調整みたいなものって、
言うに言われぬ難しいものなんじゃないかと。
- 宮本
- うーん、そうですね、
手応えにもいろいろあるんですけど、
まず「手応えがない」っていう状態が
すごく気持ち悪いんですよ。
- 糸井
- あー、気持ち悪いですね。
- 宮本
- ですから、まずは、
操作したときの「手応え」みたいなものを
きちんとプログラムして表現しよう、と。
動かしたキャラクターのレスポンスで伝えるとか、
音を鳴らすこともあるし、絵で表現することもあるし、
反応を長めにしたり短めにしたりして、
手応えを表すというやり方もあるし、
どういう方法でもいいんですけど、
操作したときの手応えを出していく。
それがまずは重要なんですけど、
それがきちんと表現できてなくても
気持ち悪くないという人がいるんですね。
- 糸井
- ああーーー。
- 宮本
- 自分ではほんとにわからない人がいるんですよ。
でも、「気持ち悪くない?」って言ったら、
「あ、気持ち悪いです」って言うんですね。
で、「直します」って言って直るんですけど。
- 糸井
- 言われたそのときにはじめて気づくんですか。
- 宮本
- そうですね。
だって、もし気持ち悪かったら、
その状態で持ってこないはずなので。
だから、そういうところにまず気づけるというのは
自分に才能があるのかな、みたいな(笑)、
それはちょっと思いますけど。
- 糸井
- 感触とか、反応とか、気持ちいいとか、
感情なんだか、論理なんだかわかんないところを、
すくいとって形にするのが
宮本さんも、任天堂も、ものすごく上手ですよね。
- 宮本
- そうですね。そこだけはちゃんとやろうと思ってて。
- 糸井
- そこはやっぱり自信あるでしょう?
- 宮本
- 自信ありますね。
そこはちゃんと掘り下げて、
スタッフもちゃんと話ができる。
たとえば、マリオが走ってきて、
ピョーンってジャンプして、着地したら、
こう、ドンと止まらないと気持ち悪いでしょ?
着地した感じがないと。
- 糸井
- はい。
- 宮本
- だけど、遊んでるほうとしては、
着地で速度が落ちるのはイヤじゃないですか。
そこで、なにをするかというと、
着地したアニメーションと音はしっかり出すけど、
その状態でちょっと滑らせて、
速度は80パーセントぐらいに抑えて、
そのまま走ってるという感覚は残す。
そうすると、ちゃんと着地をして、
そのまま走ってる、と感じるようになる。
そういう設計をして、そこに時間軸を入れて、
アニメーションのコマを入れ替えたりして、
「これ!」っていうところに持っていくんです。
- 糸井
- 時間のものさしがあるわけですね。
- 宮本
- そうですね。
だから、1秒の間に60フレームで動いてて、
どの瞬間にその速度がリニアになるのか、
だんだん変わるのか、一気に変わるのか、
みたいなところをプログラマーと話すんですけど、
ゲームデザインする人って、
プログラマーに伝えるときに、
「いい感じで跳んで着地してください」みたいな
仕様書を書く人が多いんですよ。
でも、それだと、けっきょく動きや感覚を
プログラマーがつくることになるので。
- 糸井
- あー、なるほど。
- 宮本
- そうすると、ジャンプの動きは、
このプログラマーがつくって、
演出は別のプログラマーがつくって、
音楽は音楽の係が鳴らしてってなると、
それらを寄せ集めると、バラバラの人がつくってるので、
なんかこう、一体感がなくて。
「だとしたら、監督いらへんやん」
というのが、ぼくのいつもの理屈で。
- 糸井
- うん、うん。
- 宮本
- まあ、そう言っても、いまのゲームの規模が
これだけ大作になってくると、
どうしてもいろんなパートに
分かれてつくっていくことになるので、
しかたない部分はあるんですけど、
できたら、そこに一つ筋が通った、
「だってそれじゃ気持ち悪いでしょ?」
っていうひとりがいて、
その人が気持ちいいというふうに
全体ができてるほうがいいなと思うんです。
まあ、だから、ぼくがやっているのは、
そういう仕事なんだと思います。
- 糸井
- つまりそれは、心がどう動くか、
っていうことについて観察してる、みたいな?
- 宮本
- 観察というより、自分で触ってみて、
気持ち悪いかどうかだけなんですね、たぶん。
人が触ってるのを見ても、
「ちょっと心動いてないな」って感じたり。
「なんでこの人はこんな淡々と客観的に
これを見られるのかな?」と思うと、
ちょっとなんか仕掛けてみたくなったり。
- 糸井
- その「気持ち悪い」っていう感覚は、
宮本さんのチームでいっしょに働いてると、
うつるんですか?
- 宮本
- うつってる人は安心ですね。
でも、なんかちょっといま、自分が
立派なことを言い過ぎてる感じがしてますけど、
たいしたことしてないんですよ、本当に。
- 糸井
- 宮本さんにとっては、ふつうに、
「これはちょっと気持ち悪いな」
という問題なんですね。
- 宮本
- うん、そうですね。
それを、気持ちよくしていくことを優先させる。
それは絵とかプログラムだけじゃなく、
たとえば音楽担当者でも任天堂の場合は、
コンポーザーであることよりも、
そういう感覚をわかってることのほうが重要で。
ゲームというインタラクティブなものを
つくっているわけですから、
どういうリアクションでどういう音を返すかとか、
どんな効果音をつかうと気持ちいいかということを、
全体を通じてわかってはじめて
ゲームのサウンドデザイナーなんです。
それを、ゲームはもうアートなんだとか、
表現とか芸術みたいにとらえると濁ってしまう。
むしろゲームは「科学と技術」だと思うんですよね。
- 糸井
- その技術でできたものの上に、
絵も音楽も乗っかってるわけですよね。
- 宮本
- そうですね。
(つづきます)
2024-01-05-FRI