『マリオ』や『ゼルダ』や『ピクミン』をつくり、
世界中で尊敬されているゲームクリエイター‥‥
と書くと、正しいんですけど、なんだかちょっと
宮本茂さんのことを言い切れてない気がします。
クリエイティブでアイディアにあふれているけど、
どこかでふつうの私たちと地続きな人、
任天堂の宮本茂さんが久々にほぼ日に登場です! 
糸井重里とはずいぶん古くからおつき合いがあり、
いまもときどき会って話す関係なんですが、
人前で話すことはほとんどないんです。
今回は「ほぼ日の學校」の収録も兼ねて、
ほぼ日の乗組員の前でたっぷり話してもらいました。
ゲームづくりから組織論、貴重な思い出話まで、
最後までずっとおもしろい対談でした。
え? 宮本さんがつけた仮のタイトルが、
『なにもできないからプロデューサーになった』? 
そんなわけないでしょう、宮本さん!

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第4回

宮本茂のダメ出し

糸井
ダメなものに対してきちんとダメだと言う、
というのは、昔から宮本さんがやってきたことで。
最近は、外国のクリエーターに
それを言うことも増えてきそうですが。
宮本
はい(笑)。
最近は、歳をとってきたこともあって、
むしろ言いやすくなりました。
糸井
(笑)
宮本
いまでこそそういうことを言っても
おかしくないですけど、
ぼくは30歳過ぎくらいに糸井さんに会ったときから、
けっこうキツいこと言ってて(笑)。
糸井
(観客の乗組員に向かって)
‥‥キツいんだよ。
一同
(笑)

宮本
若いころから、けっこうふつうに、
「いや、つくるためにはこうですよね」
みたいなことを平気で言ってて、
わりと偉い先生みたいな人にも
けっこう言ってるんですよ(笑)。
糸井
はい(笑)。
宮本
でも、結果的には、よろこんでもらえるというか。
偉い立場の人ほど、若造がつっこんでいくと、
けっこううれしかったりするみたいで。
海外の大物プロデューサーと話すときとかも、
わりとそのパターンでずっとやってるので。
糸井
やってるんでしょうね、きっと。
宮本
そうすると意外と受け入れてくれて、
「じゃあ、こんなんどうや」って提案してきたり。
今回の映画
(『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』)を
手掛けたクリス(・メレダンドリ)さんっていう
プロデューサーもそういうタイプで。
すごく優秀な方なんですけど、
「あれは自分が間違ってた」みたいなことを
きちんと言ってくれるんですね。
海外のクリエーターって、どちらかというと、
自分の意見を曲げない人が多いじゃないですか。
でも、クリスさんは、たとえば
「予告編であのシーンは出さないほうがいいって
おまえは言ったけど、たしかに正しかった」とか、
そういう反省みたいなことも言ってくれるんですね。
だから、すごくやりやすくて。
そのやり取りがあると、こっちも本音で言えるんです。
「どうしていいかわからないけど、
じつはここで困ってるんだ」とか。
そうすると、相手もいっしょに
問題を解こうとしてくれるので助かるんです。
糸井
宮本さんが、相手の弱いところや痛いところを
平気で言える理由はそこですよね。
たんにダメ出ししてるんじゃなくて、
「‥‥ということなんですけど、
さあ、どうしたらいいでしょうね?」
っていう相談や問いかけが含まれてるんですよ。
宮本
はい、はい。
糸井
だから、いいとか悪いとか
ジャッジを言ってるんじゃない。
逆に言うとね、「いい」もあんまり言わない。
「それいいね」ってあんまり言わないでしょ?
宮本
‥‥‥‥反省します。
一同
(笑)

糸井
まあ、もちろん、
言わないわけじゃないでしょうけど。
宮本
あの、自分で考えたことについては、
すっごい言うんですよ。
糸井
ははははは!
一同
(笑)
宮本
あと、自分がすごくいいなと思うところに、
同じようにたどりついて提案してくれた人には、
「それはいい!」って言うんですよ。
糸井
それは「ありがとう」だよね。
宮本
そうですね(笑)。
まあ、だけど、まわりからは
「褒めてくれない」って言われてて。
糸井
ああー、やっぱりね。
宮本
ごめん、反省してます。
糸井
でも、あの、ビジネス書とかには、
もっと「褒めるべきだ!」みたいなことが
よく書いてありますけど、
褒めるために褒める人の褒めって、
あんまり役に立たないっていうか。
宮本
うん(笑)。
糸井
そうやってマニュアルどおりに褒めても
意味がないと思うんですよ。
だから、「褒められてるけど、
俺はまだちょっと物足りない」とか、
そういう人と仕事したいじゃないですか。
宮本
はい、はい。
糸井
そういうときに、宮本さんの褒めなさは、
ダメ出しのときといっしょで、
「じゃあ、どうしようか?」っていうのを、
どこかでもう考えはじめてるんですよ。
だから、納得できるというか、説得力がある。
あの、今日、集まってるみなさん、
ぼくがかつて宮本さんに泣かされた話は、
知ってますか?
宮本
(笑)
糸井
新幹線でぼくが泣いたっていう
一部の人の間では有名な話があるんですよ。
それは、『MOTHER』というゲームの
ベースになるプロットを書いたノートを
宮本さんに見せたときのことなんですけど。
そのときぼくは、『マリオ』をつくった
あの宮本茂さんがこのプロットを見て、
もう、正直、絶賛されると思ってたんです。
で、えんぴつ書きのメモを見せたんですけど、
宮本さんは「ああー‥‥」って、
褒めないんですね、もちろん。
一同
(笑)
糸井
で、そのとき、宮本さんはひとつの例として、
当時ファミコンで出ていた
『鬼ヶ島』というゲームのセリフを印刷して
まとめてあるファイルを見せてくれたんです。
「あんまり長いゲームじゃないんですけど、
そのセリフを集めるとこのくらいになるんです」と。
そういう厚いファイルが何冊もあるんです。
で、ぼくは、「え?」と。
「ゲームの中のセリフってそんなにあるの?」と。
宮本
(笑)
糸井
「まだこれ一部なんですけどね」って、
宮本さんは言うわけです。
「だから、糸井さんがどのくらい時間を
使えるかっていうのが一番心配なんです」と。
要するに、「監修・糸井重里」くらいで
終わるようなものをつくるんだとしたら、
それはそれでいいけど、
どうやら本気でつくりたそうにしてるから、
「大変ですよ?」っていう話を、
ぼくにしたんですよね。
宮本
そうですね。

糸井
だから、褒めのでも、けなすのでもなくて、
「やるとしたら大変ですよ」って話を。
宮本
そう、そこが大事なんですよ。
こっちは「やるとしたら」で考えてるので。
糸井さんがほんとにやってくれるんなら、
ぼくは名前貸しみたいなものをつくる気はないので、
このファイルぜんぶのセリフを
糸井さんが書くくらいの仕事になって、
しばらくほかの仕事ができないかもしれないけど、
「そのくらいやってくれますか?」
って言ったつもりなんですけど、
どうやら「やれますか?」って聞こえたみたいで。
一同
(笑)
宮本
これ、微妙な違いで。
糸井
いや、言われたほうからすると、
根本的には同じですよ。
物語的に言えば、ぼくとしては、
あの宮本茂が、ぼくの企画書を見て
「わーお!」と言ってくれるはずだったんですよ。
ところが、わーおの「わ」の字もない。
それで、帰りの新幹線のなかで、
「‥‥なんにもなんなかった」と思ったら、
じわぁぁーっと涙が出てきて。
一同
(笑)
糸井
無力感ですよね、いわゆるね。
そしたら、しばらくして、
「製作チームが見つかったんですけど」
って連絡が来たんですよ。
宮本
はい、そうですね(笑)。
糸井
えっ、「やる」ってことなの?
一同
(笑)
宮本
こちらはつくる体制をずっと考えてたんですよ。
やるとしたらどういう体制かなぁって。
糸井
ありがたかったですよね、思えばね。
で、つくってみたらほんとにたいへんで。
宮本
はい、はい。

(つづきます)

2024-01-04-THU

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