『マリオ』や『ゼルダ』や『ピクミン』をつくり、
世界中で尊敬されているゲームクリエイター‥‥
と書くと、正しいんですけど、なんだかちょっと
宮本茂さんのことを言い切れてない気がします。
クリエイティブでアイディアにあふれているけど、
どこかでふつうの私たちと地続きな人、
任天堂の宮本茂さんが久々にほぼ日に登場です! 
糸井重里とはずいぶん古くからおつき合いがあり、
いまもときどき会って話す関係なんですが、
人前で話すことはほとんどないんです。
今回は「ほぼ日の學校」の収録も兼ねて、
ほぼ日の乗組員の前でたっぷり話してもらいました。
ゲームづくりから組織論、貴重な思い出話まで、
最後までずっとおもしろい対談でした。
え? 宮本さんがつけた仮のタイトルが、
『なにもできないからプロデューサーになった』? 
そんなわけないでしょう、宮本さん!

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第3回

最少人数のチームで

糸井
宮本さんが入社したばかりのころは、
ある意味、任天堂もまだまだ小さな会社で、
『マリオ』っていうゲームをつくるにしても、
ドット絵の大きさからなにから限られてるなかで、
「誰かやっておいてね」っていう人もいないし、
「じゃあ、自分でやるか」っていうのは、
もう、当たり前の選択だったわけですよね。
宮本
そうですね。
その当時はゲームをつくるチームに
専門のデザイナーがいなかったので、
「まあ、自分がやったほうがマシかな」
っていう感じでしたね。
だから、たとえばゲームセンターに置く
実機の筐体のデザインから、
なかのソフトの絵を描くところまで、
デザインまわりはぜんぶ自分でやるっていう。
それは、さっき言ったように
「自分がやったほうがマシ」だから。
糸井
ほかにいないから。
宮本
いないんですよ。
やがて何人か上手な若手が入ってくると、
あ、この人が描いた方がいいんで、
ぼくは降ります、って、
任せるようになっていくんですけど。
だから、考えてみれば、
入社当時に人がいなかったのが
ぼくにとってはよかったんですよね。

糸井
ねえ。その時代のチーム体制って、
いまでも、無理にそうすればできますよね?
宮本
できますよ。
糸井
あえて最小人数のチームをつくって、
「ちょっと自分たちだけでやってごらん?」
っていったら、昔の任天堂を
ある程度再現できるでしょうね、きっと。
宮本
それはね、じつはいま、
わりと意図的にやっていることもあって。
糸井
あー、そうなんですか。
宮本
最終的には100人とか200人規模の
チームでつくるプロジェクトでも、
最初は絞って5人とかではじめるんですよ。
30人以上にしてはダメ、とか。
そういうときにいちばんよくやるのは、
最初のチームにデザイナーを入れないこと。
糸井
おおおー。
宮本
デザイナー入れると、
デザイナーに頼るようになったり、
そのデザイナーが仕事をしてる時間のぶん、
かかってしまうんですよ。
糸井
なるほど。
宮本
自分でぱっと絵を描いたら、
即、その場で実験できるじゃないですか。
たとえば、とりあえず、
既存ソフトの絵をそのままつかって
試作をつくって動かしてみたら、
だいたいの手応えってわかるじゃないですか。
糸井
そうですね。
宮本
でも、「こうしたらどうだろう?」ってときに、
そのイメージをデザイナーに渡して、
絵ができあがって、レイアウトして、
それをプログラマーがコーディングして‥‥
ってやってると、急いでも2日くらいかかる。
極端にいえば、もし伝えたいイメージがあったら、
テレビの画面の上にマジックで描いたら、
1分でわかるじゃないですか。
糸井
うん、うん(笑)。
宮本
そういうふうにして、
開発初期の人数を絞って作業を縮めていくと、
無駄もなくなっていくんですよ。
つくったものをちゃんとつかわなきゃ、
っていう縛りもなくなってきますから。
糸井
ああー。せっかくつくってもらったから、
つかわないと悪いな、とかありますものね。
宮本
そう、そう。
せっかくつくったのに捨てたら悪いとか。
そういうことに気をつかわずに、
自分が求めてるものはなにかってことだけを、
最短の方法でわかるようにって、
みんなが意識すると、たぶん、
3か月かかる実験が1か月でできたりする。
それを拡大すると、
たとえば最初の3年間にいろいろ実験して、
残りの2年で仕上げる
「5年プロジェクト」があったとすると、
最初の3年間を最少人数のチームでやることで、
開発コストが全体に下がるんですよ。
糸井
はい、はい、なるほど。

宮本
あと、そういうふうに
チームの中心になる人数を絞っておくと、
なにかを決めるときにもいいんですよね。
ほんとうは責任者って、
ディレクターがひとりいればいいんですよ。
いいにせよ、悪いにせよ、
その責任者がひとりで判断して結果が出れば、
そのぶんだけ答えに近づいていくから。
ところが、大勢いると、責任者自身も
漠然としたことを言いがちになって、
そうするとみんなのレスポンスも悪いので、
なんか結果も漠然としていく。
漠然としながら、みんなでちょっとずつ
ものをつくっていくのってとても難しくて、
たとえ間違っててもいいから、
はっきりしたイメージを
責任者が持ったほうがいいんですよ。
そのために、まず最少人数でやるのは
すごくいいことなんですよね。
糸井
それはつまり、宮本さんが入社したころの
つくりかたに戻してるってことですね。
宮本
うん。そのほうがよかったっていう。
糸井
それって、最近のチームにありがちな、
優れた人たちが最初から集まる、
っていうつくりかたとは逆。
宮本
そうそう、対極ですよ。
糸井
オールスターチームをつくりました、
みたいなことって、
じつは難しい道を選んでるんですね。
宮本
そう思います。
だからたとえば、若いプランナーに、
なにか自由に考えてごらんって言うと、
意気込んで、脚本をこの人に書いてもらって、
絵はこの人に頼んで、プログラマーは
このあたりのチームで、みたいな、
オールスター企画を出してくるので、
ぼくがそういうのを見てよく言うのは、
「こんなチームがあったら、
あなたは必要なくなるよね」っていう。
糸井
うん、「あなたがいらない」。
宮本
だから、やっぱり、
「自分でできることがどこまでか」
ってことがはっきりするほうが大事で、
もしもそれを見極められたリーダーが
ひとりで苦労してるとしたら、そこではじめて、
「じゃあ、もっと人を増やそうか」
っていう話になる。
そういうふうにチームを大きくしていったほうが
ゴールにはやく近づけますよね。
糸井
「足りないところを見つける」
っていうことだけでも、
少人数でやったらはやいからね。
宮本
そうなんです。なんか大勢で進めていくと、
邪魔なとこを見つけるのが難しいし、
見つけたとしても「邪魔」って言いにくいし。

糸井
あと、いわゆる「先生」みたいな人が
プロジェクトに加わってると、
あんまりよくないものが出てきたとき、
断りにくかったりする。
宮本
そう、そう(笑)。
だからぼく、いまも、
「先生」に頼むのはすごく苦手です。
断れないやん、みたいな。
糸井
そうなんですよね。
だからぼく、チームのみんながそういうふうに
「断っちゃ悪いな」ってなってるときに、
自分が悪者になって
「もう一回やり直してもらおう!」って
言うときがありますよ。
宮本
ぼくもあります。
あと、自分がそう思われてるんじゃないかな、
っていうようなことも感じていて。
糸井
あー、宮本さんが言ったから、みたいな(笑)。
宮本
そうなんですよ(笑)。
でも、ぼく自身は自分が出したプランを
変えてもぜんぜんOKなので、
それは会議なんかでよく言うようにしてるんです。
ぼくが言ったことは絶対動かせない、
みたいなパズルになってるとよくないので、
いや、そこ変えてもぜんぜんかまへんよって。
糸井
それ、ある意味では、自分がいちばん、
変えるつもりがありますよね。
宮本
あるんですよ。

(つづきます)

2024-01-03-WED

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