『マリオ』や『ゼルダ』や『ピクミン』をつくり、
世界中で尊敬されているゲームクリエイター‥‥
と書くと、正しいんですけど、なんだかちょっと
宮本茂さんのことを言い切れてない気がします。
クリエイティブでアイディアにあふれているけど、
どこかでふつうの私たちと地続きな人、
任天堂の宮本茂さんが久々にほぼ日に登場です! 
糸井重里とはずいぶん古くからおつき合いがあり、
いまもときどき会って話す関係なんですが、
人前で話すことはほとんどないんです。
今回は「ほぼ日の學校」の収録も兼ねて、
ほぼ日の乗組員の前でたっぷり話してもらいました。
ゲームづくりから組織論、貴重な思い出話まで、
最後までずっとおもしろい対談でした。
え? 宮本さんがつけた仮のタイトルが、
『なにもできないからプロデューサーになった』? 
そんなわけないでしょう、宮本さん!

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第7回

宮本茂の誇り

糸井
当時のファミコンの枠組みのなかで、
「ここまでつくれる人は世界中にいない!」
って確信できたのは、宮本さんだけじゃなく、
そのチームの人たち全員が
同じ気持ちでつくっていたからですよね。
宮本
あ、そうですね。
当時のチームのみんながいっしょに
おもしろいと思いながらつくってました。
糸井
その人たちは、お元気ですか。
宮本
あ、それはね‥‥
これがぼくのいちばんの誇りだと、
よく言ってることなんですけど、
いまだに、全員いっしょにやってるんです。
一同
えーー!
糸井
すごい(笑)!
宮本
すごいでしょう(笑)。
だって、何十年も経てば、バンドなんかもだいたい、
バラバラになるじゃないですか。
お金とか、クリエイティブとか言い出して。
一同
(笑)
糸井
バンドじゃなかったんだね(笑)。
宮本
そうなんですよ。
うちの場合、当時のメンバーが、
ほとんどみんな任天堂で仕事してる。
もちろん、同じチームでやってるわけじゃなくて、
ほかのチームをそれぞれがまとめてたりして。
糸井
はーーー、すごいことだ。
宮本
もともとはね、50歳ぐらいのときに、
「あなたの仕事の誇りはなにか」って、
インタビューで聞かれたことがあって、
「なにが自分の誇りかな?」と考えて、
ふと思ったのがそれだったんです。
最初、仕事しはじめたときのメンバー、
全員いるわ、みたいな。
バンドだってほとんど解散するのになぁ、
と思って、それ以降、それをネタに(笑)。

糸井
つまり、バンドでいえば、
ローリング・ストーンズだね(笑)。
宮本
ローリング・ストーンズです、はい(笑)。
糸井
いまのうちに記念写真撮っといたほうがいいね。
宮本
(笑)
糸井
いやー、それは誇りでしょう。
全員がいまも現役でやってるってことは、
時代の変化にもみんなついていってる。
宮本
そう! そうなんですよ。
糸井
ねぇ(笑)。たとえば、ぼくが憶えているのは、
『スターフォックス』というゲームで、
宮本さんたちが3Dの仕組みに
本格的に寄っていったことがあって。
あの、面と面でできている‥‥。
宮本
ポリゴン。
糸井
ポリゴン、ポリゴン(笑)。
ぼくなんかは、宮本さんがそれをつかって、
まだまだ粗い3Dに取り組んでいるとき、
正直、こんなカクカクした映像を
なんでやるんだろう? って思ってた。
でもあっという間にその3Dがなめらかになって、
ほとんどのゲームが3Dになったわけで。
宮本
そうでしたね。
糸井
あれって、つまり、ドット絵で
2Dの最高峰をつくってきた自分たちを、
否定するようなチャレンジじゃないですか。
新しいものを取り入れて、
いちからまたやり直さなきゃいけない。
でも、ファミコンのころからやってきた
チームのメンバーたちは、
みんなそれをやってきたってことですよね。

宮本
はい。なぜそれができるかというと、
ずっと真剣に2Dのおもしろさを追求していると、
「これはもう2Dの限界かな」
っていうのがだんだんわかってくるからなんですよ。
糸井
あーー、そうか、先に限界を感じてるんだ、
あたらしさの発見のまえに。
宮本
しかもそれは2Dの表現と3Dの表現という
単純なことだけじゃなくて、たとえば開発するとき、
2Dだとぜんぶ手で描かなきゃいけないんですよ。
マリオがジャンプするときは、
横から見たマリオと、前と、後ろとって、
ぐるっとぜんぶ描かなきゃいけない。
ところがポリゴンとか3Dグラフィックになると、
機械が描いてくれるので、
つくってるときにすごくありがたいわけです。
糸井
なるほど、なるほど。
宮本
マリオの動きをいろんな角度から見た絵を
1枚1枚手で描かなくても、
3Dのモデルをつくってしまえば、
それをぐるぐる動かすことができる。
だから、『マリオ64』のときにやりたかったのは、
マリオのいろんな動きをぜんぶつくる、
ということだったんですね。
しゃがんだり、ぶら下がったり、そろそろ歩いたり、
マリオがいろんな動きをするんですけど、
3Dだからそれはぜんぶつくれるんです。
糸井
機械におまかせで。
宮本
はい、おまかせで。
だから、まずは、開発しやすい。
そして初期は粗かった3Dの表現も、
つかっているうちに、
技術はどんどん進化していくので、
じゃあそれをこうつかおうか、
というふうに考えられるようになる。
それも、粗かったり、動かなかったりという、
「できなかったころ」から知ってると、
技術がアップデートされてつかえるようになると、
それをなにに利用すればおもしろいか
という理解もはやくなるんですよ。
糸井
はーーー、なるほど。

宮本
逆にいうと、黎明期からずっと
一個ずつ積み上げてきたぼくらは
ラッキーなのかもしれないですね。
いまの人は、もう、いきなりぜんぶそろってるので、
「どっから覚えていったらええのやろ」
ってなるんじゃないですか。
やっぱり、最初からちゃんと覚えていったほうが
わかりやすいんですよ。
糸井
ほんとにそうですね。
じぶんのなかにスタート地点があるっていうのは、
大変だけど、恵まれてますね。
宮本
そうですね。
糸井
なかったところから知っていると、
「そもそもなんであるんだっけ?」
みたいなことが、ぜんぶわかるものね。
だから、いま、ぜんぶあるところから、
それをつかっていく人たちは、
その流れをどういうふうに学んでいくのかが、
けっこう重要になるかもしれませんね。
思えば、必要最小限のちいさいチームから
プロジェクトをスタートさせるというのも、
そういう意味合いがあるのかもしれません。
宮本
あ、それはそうですね。
糸井
できないことがはじまりにあって、
そこから足されていくから、
いろんなことを全員が把握できる。
宮本
はい。

(つづきます)

2024-01-07-SUN

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