『マリオ』や『ゼルダ』や『ピクミン』をつくり、
世界中で尊敬されているゲームクリエイター‥‥
と書くと、正しいんですけど、なんだかちょっと
宮本茂さんのことを言い切れてない気がします。
クリエイティブでアイディアにあふれているけど、
どこかでふつうの私たちと地続きな人、
任天堂の宮本茂さんが久々にほぼ日に登場です!
糸井重里とはずいぶん古くからおつき合いがあり、
いまもときどき会って話す関係なんですが、
人前で話すことはほとんどないんです。
今回は「ほぼ日の學校」の収録も兼ねて、
ほぼ日の乗組員の前でたっぷり話してもらいました。
ゲームづくりから組織論、貴重な思い出話まで、
最後までずっとおもしろい対談でした。
え? 宮本さんがつけた仮のタイトルが、
『なにもできないからプロデューサーになった』?
そんなわけないでしょう、宮本さん!
第8回
ピクミンというアイディア
- 糸井
- 昔から宮本さんは、
1本のゲームは何千円もするんだから、
そのなかに値段以上のアイディアやたのしさを
詰め込みたいとおっしゃってますよね。
- 宮本
- はい、詰め込みたい。
- 糸井
- 大きなアイディアだけじゃなくて、
ちいさなたのしさとか、気持ちよさとか、
気遣いとか、わかりやすさとか、そういうものを、
チームのみんなでどんどん詰め込んでいく。
- 宮本
- はい、「これは5円分やな」とか、
「ここで10円」とか言いながら(笑)。
- 糸井
- ひとりひとりが入れていくんですよね。
そういう総合的なものづくりが、
どうしてできるんでしょうか。
- 宮本
- なんでしょうねぇ‥‥。
- 糸井
- ひとりずつでつくってる時間が、
まず、あるんですか?
- 宮本
- うーん、どうやってつくってんのかな?
プログラマーがつくってきたり、
デザイナーがつくってきたり、
パートパートの人がなにかつくってくるんですよね。
- 糸井
- 出身地ごとに、得意なことが。
- 宮本
- ありますからね、それは。
で、全体の会議をして、
だいたいの骨組みができたら、そのなかでまた、
「こんなこともできるんですけど?」
みたいな人がでてきて、
そういう人がいるチームはおもしろいですよね。
- 糸井
- ああ、ほかの人の新しいものを見て刺激されて。
- 宮本
- 「だったら、こんなこともできます」とか。
- 糸井
- そういうものが足されてくんですか?
- 宮本
- そういう感じですね。
- 糸井
- じゃあ、たとえば、なんだろう‥‥
いま、宮本さんのTシャツにピクミンがいますけど。
- 宮本
- はい、これ(笑)。
- 糸井
- ピクミンをこういう人にするにあたっては、
これは誰がやったんですか? 宮本さんですか?
- 宮本
- これ、ぼく。ぼくとデザイナーと。
ただ、このデザイン自体は、
ぼくがつくったわけじゃないです。
デザイナーがつくってくれた。
ぼくは、キャラクターというか、設定をつくった。
- 糸井
- 「頭に葉っぱがある」っていうのは、
もう、ひとつのアイディアですね。
- 宮本
- はい、そうです。
すごいですよね、これ。
- 糸井
- このアイディアは宮本さんですか?
- 宮本
- デザイナーが描いてきたスケッチのなかに
葉っぱをつけたこれがあったんです。
ぼくがそれを見て、「これ、絶対これ!」って。
- 糸井
- どういうところがよかったんでしょう。
- 宮本
- まず、わからないんですよね。
たとえばこれがどうやって水を飲むのか、
口で水を飲むのか、頭から飲むのか、
足の根っこから吸い上げるのか、
みたいなことを考えるのがもうたのしい(笑)。
そういうことが話題にできるキャラクターって、
うれしいじゃないですか。
で、じゃあこれ、頭に花咲くよね、みたいな。
- 糸井
- あー、そうですね。
- 宮本
- 葉っぱは枯れて落ちるかなとか、
死んだらどうなるかなってつくってるうちに、
ちょっとこういうキャラクターは
見たことがないな、と。
- 糸井
- いま言っただけでも、
このピクミンという人のなかに
ものすごくたくさんの、
「誰かが考えたこと」が入ってますよね。
- 宮本
- 入ってますね。
- 糸井
- たとえば、この目玉はどういうふうにするかとか。
いまは白目の中に黒目がぽちんとあって、
2つの目が案外離れてる、みたいなことも、
こっちよりこっちがいいって選んでいって、
この答えになったわけですよね。
- 宮本
- そうですね。
細かくいうと、ぐっとカメラが寄ったときに、
焦点が合ってないんですよ、2つの目が。
でも、それがすごく魅力的で、
どこ見てるかわからへんのがいいよなぁ、みたいな。
- 糸井
- ああ、たしかに(笑)。
- 宮本
- じゃあこれは残そう、というので、
ものを目で追ったりしないように設定してみたり。
けど、最近の解像度の高いCGで表現すると、
ちょっとは目が動かないと気持ち悪いので、
じゃあ、どれぐらい動くようにしようか、とか。
- 糸井
- そういう話し相手がいること自体が
すばらしいと思うんですよ。
- 宮本
- ああ、それはそうですね。
こういうやり取りをしてるのがたのしい、
という人がいるのがありがたい。
- 糸井
- そういう人は、どうやって育ったんですかね。
- 宮本
- なんでなんでしょう(笑)。
- 糸井
- 若い人もいますか?
- 宮本
- あー、若い人はちょっと違うんですよ、感覚が。
それは最近、うちのテーマで。
けど、若い人たちのなかにも、
そういうものは生まれていくと思うんですよ。
若い人たち特有の気持ち悪さがあるからこうする、
というのができていったらいいのかなと思うんです。
自分たちと若い人たちの、
そういう感覚の差があるのはなぜなんだろう、
というのはよく話しますけどね。
- 糸井
- さっき言った、ピクミンの目が
動いたほうがいいとか動かないほうがいいとか
あれこれアイディアを出し合ってたのは、
世代的にはどのへんの人たちですか?
- 宮本
- 世代的には、初代からやってた人が多いですね。
- 糸井
- あー、やっぱり、そういう人ですか。
- 宮本
- もちろん、入って10年目くらいの人でも
話に入ってくる人はいますけどね。
ただ、なんていうんでしょう、
たとえばぼくらは、
すごく「いい話」があったときに、
「いい話過ぎてちょっと気持ち悪いよね」
とか思うんですよ(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 宮本
- 「ちゃんとしすぎてて怪しくないか?」とか。
で、若い人たちのなかにも、
そういう話についてくる人は、何人かいるんです。
- 糸井
- あの、たとえば頭のいい人が集まって、
ロジックだけで仕様を固めていったら、
どこのチームもだいたいみんな
同じ答えになりがちじゃないですか。
そこにマーケティングのデータを入れて、
いまの人たちはこういうのを求めてますよ
という要素を加えたりしたら、
どんどん似た答えになっていくわけだけど、
任天堂は、それを求めてないんですよね。
- 宮本
- そうですね。
もしもそういう答えが出たとしたら、
「そこに任天堂はあるのか」みたいな
話になるでしょうね。
- 糸井
- そこだけが商売のタネだと思うんですよ。
もう、そこがあるかないか。
- 宮本
- うん、そうですね。
(つづきます)
2024-01-08-MON