『マリオ』や『ゼルダ』や『ピクミン』をつくり、
世界中で尊敬されているゲームクリエイター‥‥
と書くと、正しいんですけど、なんだかちょっと
宮本茂さんのことを言い切れてない気がします。
クリエイティブでアイディアにあふれているけど、
どこかでふつうの私たちと地続きな人、
任天堂の宮本茂さんが久々にほぼ日に登場です! 
糸井重里とはずいぶん古くからおつき合いがあり、
いまもときどき会って話す関係なんですが、
人前で話すことはほとんどないんです。
今回は「ほぼ日の學校」の収録も兼ねて、
ほぼ日の乗組員の前でたっぷり話してもらいました。
ゲームづくりから組織論、貴重な思い出話まで、
最後までずっとおもしろい対談でした。
え? 宮本さんがつけた仮のタイトルが、
『なにもできないからプロデューサーになった』? 
そんなわけないでしょう、宮本さん!

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第9回

マリオをつくるときは

糸井
宮本さんはピクミンをはじめとして、
いろんなキャラクターを生み出してますけど、
マリオはやっぱり特別に大事にしてますよね。
宮本
そうですね。
マリオについては、あるときから、
「新しい技術ができたらマリオをつくる」
て決めたことで、すごくわかりやすくなりました。
逆にいうと、新しい技術が出なかったら、
マリオはつくらないって決めたんです。
今回の映画も「映像」っていう
技術をはじめてつかうからつくったので。
そういうふうに方針を決めておくとラクなんです。
マリオを使ってなにか仕掛けてやろう、
とか、ぜんぜん思わないんで。
糸井
マリオのために技術があるんじゃなくて、
技術が先にあって、マリオがある。
宮本
そうです、そうです。
ユニバーサルスタジオジャパンでも、
本気でマリオを原寸大にしたらどうなるか?
っていうことを、まだ誰もやってないので、
一回やってみようっていう。
しかもそれはぼくらがやるんじゃなくて、
ユニバーサルの人たちが、
やろうって言ってくださったので。
ぼくらは「やるからには中途半端なものじゃなくて、
しっかりつくってくださいね」って、
お願いしただけなんです。
で、そうやって、しっかりつくってみると、
「誰がこんなもの本気でつくったんや」
みたいなものができてくるというか(笑)。
一同
(笑)

宮本
実際につくってみてわかったんですけど、
存在するだけでかなりの説得力があるんですよ。
それは、できあがってみて、思いました。
糸井
ぼくは、まだ行けてないんですけど。
宮本
あ、行きましょう!
糸井
行きます、行きます(笑)。
いまのその、実在とか、原寸とか、
「実際にそれがある」っていうのが、
ぼくがいま興味のある部分で。
日本の実際の景色が描かれているアニメとかだと、
その現場をファンがめぐったりするじゃないですか。
いわゆる「聖地巡礼」という。
宮本
はい、はい。
糸井
あの聖地に立ったときの気持ちみたいなものって、
すごく重要な気がして、
「あるんだよ、ほんとに」っていう。
マリオも、あとづけですけど、
「あるんだよ」をつくったわけですよね。
宮本
「あるよ」をつくってみたら、
意外と説得力があったという。

糸井
それはゲームをつくったときとは
やっぱり違うんですか。
宮本
ふつう、マリオのゲームをつくると、
いままでマリオのゲームを遊んできた人は、
「今度のゲームはこうだね」っていう
評価をしてくださるじゃないですか。
でも、USJのマリオを体験した人は、
「わたしもマリオ知ってる」
っていう反応なんですよ、みんな。
「子どもが遊んでました」とか。
糸井
あーー、なるほど。
宮本
あの場所に行くと、
「マリオに触れたことがある」
ってことを言いたくなるみたいなんです。
ゲームをつくっているときに
こういう手応えってなかなかないよねって、
マリオのチームの人たちとも話してたんですけど。
映画のマリオにも、そういう、
いつもは得られない手応えがあるのが、
すごくありがたくて。
糸井
やっぱり、いまいる熱烈なファンだけに
向けてものをつくると、
それ全体を小さくしちゃうところがありますよね。
宮本
ああ、そうですね。

糸井
ぼくは、それについては、
ずっと頭に置いているエピソードがあって。
ずいぶんまえに伊丹十三さんが
『マルサの女』という映画をヒットさせたあと、
『マルサの女2』をつくっているときに、
会ってお話ししたことがあるんです。
そのとき、伊丹さんが、こう、図に描いて
説明してくださったんですけど、
「『マルサの女』がこうだとするだろ」って、
紙にまず丸を描いて、つぎにその丸を囲むように
もうひとまわり大きな丸を描いたんです。
『マルサの女2』は、この、
外側の丸に向けてつくるんだ、と。
宮本
ああーー、なるほど。
糸井
ぼくはそれを聞いたときは若かったので、
「なんでお客さんの規模を
大きくする必要があるんだろう」って、
正直、思ったんですね。
いまいる「いいお客さん」を
大切にすればいいのに、って。
でも、そこの丸を広げないと、
もとの小さな丸も消えてくんですよね。
宮本
でしょうね、たぶん。
あの、一度やったことを「継ぐ」のは、
みんな得意なんですよ。
そもそも得意なことをやったので、
そこを継ぐのは、そんなに難しくないし、
つくったチームも満足するし。
けど、そこにずっといると
だんだんつぎがなくなっていくんですよ。
それよりは、やったことがなくても、
「マリオがほんとうにいると
感じられたらおもしろいよね」とか、
「ほんとうにいると感じられたら、
あと10年くらいたのしめるぞ」みたいなことに
挑戦していったほうがいいんですよ。
糸井
マリオを操作した経験のない人が
たのしめるマリオをつくらないと、
あたらしい人たちには会えないんですよね。
宮本
そうですね。
糸井
だいたい、マリオに会いに行く、
っていう発想がなかったもんなぁ。
そこがおもしろい。
宮本
ねぇ(笑)。
USJで原寸大のマリオをつくらないと、
そういうことはわからなかったですね。
ただ、企画段階でまず出たことで言うとね、
「それスベったらどうすんねや」という。
糸井
はははははは!
一同
(笑)
宮本
ただ、なんとういうか、
それを心配してもしょうがないし。
糸井
うん(笑)。

(つづきます)

2024-01-09-TUE

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