『マリオ』や『ゼルダ』や『ピクミン』をつくり、
世界中で尊敬されているゲームクリエイター‥‥
と書くと、正しいんですけど、なんだかちょっと
宮本茂さんのことを言い切れてない気がします。
クリエイティブでアイディアにあふれているけど、
どこかでふつうの私たちと地続きな人、
任天堂の宮本茂さんが久々にほぼ日に登場です!
糸井重里とはずいぶん古くからおつき合いがあり、
いまもときどき会って話す関係なんですが、
人前で話すことはほとんどないんです。
今回は「ほぼ日の學校」の収録も兼ねて、
ほぼ日の乗組員の前でたっぷり話してもらいました。
ゲームづくりから組織論、貴重な思い出話まで、
最後までずっとおもしろい対談でした。
え? 宮本さんがつけた仮のタイトルが、
『なにもできないからプロデューサーになった』?
そんなわけないでしょう、宮本さん!
第10回
得意冷然、失意泰然
- 糸井
- 任天堂という会社は、
「会社のあり方」みたいなものを
ずっと曲げずに維持できている気がしますけど、
なにか気をつけていることがありますか。
- 宮本
- まあ、全社的にやっぱり、
「うかれない」みたいなところはありますよね。
- 糸井
- なんでしたっけ、山内(溥)さんが
よく言ってた四文字熟語の‥‥。
- 宮本
- 「得意冷然、失意泰然」
- 糸井
- そう、そう。
得意になったときも、落ち込んだときも、
落ち着いてなさいってことですよね。
- 宮本
- まあ、ちやほやされて自惚れるなよっていう。
褒められてるときほど、
足元しっかり固めなさいよ、
落ち込んだときに、下向いててもしゃあないから、
そのときは軽く流しなさいよ、と。
- 糸井
- 思えば、宮本さん自身がずっとそうですよね。
ふりかえると、ライバル陣営が元気だったりして、
任天堂に追い風が吹いてない時代って、
あったと思うんですけど、
そんなときでも宮本さんと会って話すと、
だいたい、いつもどおりで、平気な感じで。
- 宮本
- あ、そうですか(笑)。
- 糸井
- 他社の次世代機が話題になっても、
スマホのゲームが普及しても、
基本的に「いや、べつに」って感じで。
- 宮本
- ああ、それは、あれですね。
もう、ファミコンのころから、
持ち上げられて、落とされて、
持ち上げられて、落とされてというのを
ずっとくり返しやられているので(笑)。
- 糸井
- そうか(笑)。
- 宮本
- ファミコンが大ヒットしたときも、
7月に売り出して、半年くらいすごく売れて、
1年経ってお店で値段が下がってきたときに
「ブームも終わりですね」って言われて、
でもクリスマスになったらまた売れて、
つぎの年の夏にまた落ち着いて
「今年こそ終わりですね」って言われたら、
『スーパーマリオブラザーズ』が出て倍売れて、
さらに世界中で売れて‥‥
みたいなことをくり返しているので。
- 糸井
- なるほど、ファミコンのころから。
- 宮本
- ものはぜんぶ同じように動くわけじゃないし、
流れに合わせてどんどん
新陳代謝が起こっていくというのが
まっとうなことだと思うんです。
- 糸井
- そうですね。
- 宮本
- そういう話を、岩田(聡)さんと
よくしていたんですけど、あるとき、
「ゲーム業界で競争してるけど、
競争しながらどんどんゲーム業界全体が
シュリンクしてへんか?」ってことに気づいて、
じゃあ、ゲーム業界のなかで競争するよりも、
ゲームっていうものをもっと世の中に広げることに
力を注ぐべきじゃないかっていうことを
思うようになったんです。
- 糸井
- 岩田さんが大きなテーマにしていた
「ゲーム人口の拡大」ですね。
- 宮本
- はい。そういう流れで、業界内の競争じゃなくて、
我々がほんとうにやるべきことが見えてきた。
そうすると、同じ次元で競争してないので、
ほかの人たちがやってるのとは
違うものをつくるようになりますよね。
それが「おもしろい」って言われる。
だから、よそと違うものを
なんとかしてつくろうとしたわけじゃなくて、
よそと違う考え方をしたら、
よそと違うものが自然に生まれてきた。
- 糸井
- あー、なるほど。
- 宮本
- だから、みんなが同じように考えていることは
どちらかというと怪しいと思って、
自分たちはどう考えているかを大切にしよう、
という空気ができてきたんです。
- 糸井
- いや、それは、すばらしいですね。
- 宮本
- でも、そういうふうに考えるようになったのは、
まず、ライバルといわれる会社が出てきて、
比べられるようになったからなので、
そうすると、きれいごとじゃなく、
「敵がいるってことは、ありがたいね」
とか思うようになるじゃないですか。
- 糸井
- うん、うん。
- 宮本
- ずっと、そういう感じなんですよね、
任天堂という会社は。
ゲームボーイアドバンスが売れてるころには
「携帯電話に取って代わられますね」
って言われたんですけど、そのころって、
ゲーム専用機と汎用の携帯電話は
ぜんぜん性能が違ったから、
まったく気にしてなかったんです。
けど、スマートフォンが世界中に普及したいまは、
むしろ、これをつかわない手はないって思う。
だからうちもスマートフォンをつかうけど、
自分たちのメインのゲーム機には
影響しないようなつかいかたをする。
そうすると、ほかの会社はそんなことしないから、
「ユニークですね」ってまた言われるんです。
スマートフォンに限らず、映画でもなんでも、
とくに海外の会社と交渉すると、
「そんなこと言ってくる日本の会社はいない」
っていうことばっかり言われて、
おもしろがられるんですよ。
- 糸井
- なんだろう、その、欲のかき方が違うんだろうね。
みんな似たような欲をかくから、
競争が成り立つわけですよね。
- 宮本
- はい、はい。
- 糸井
- みんな同じルールのもとで点数を競うから
サッカーという競技が成り立つんだけど、
同じサッカーボールをつかってても、
任天堂がなんかやりたいなと思ったときには、
きっと違うことやるんでしょうね。
- 宮本
- それは山内(溥)さんの教えですね。
「おまえら、どうせ弱いから」みたいな。
- 糸井
- そうだ(笑)、
「わしらはケンカは弱いんや」だ。
- 宮本
- 「ケンカ弱いんやから、
まともにケンカしたらあかんぞ」って。
だから、まあ、ケンカが弱いんだから、
新しい土俵と新しいルールをつくろうっていう。
そのほうがケンカするより、ずっとラクですから。
- 糸井
- でも、そのためには、
考える分量はすごく多くないとダメですね。
- 宮本
- そうですね。
- 糸井
- だから、海外に交渉に行くとしても、
アイディアありきというか、
海外でやるために海外と交渉するんじゃなくて、
海外でやるアイディアがないなら、会いにも行かない。
- 宮本
- はい。
- 糸井
- そのあたりも一般的な
日本の会社と違うのかもしれない。
「なんだか知らないけど、よろしくお願いします」
っていうのは、基本的にないですね、任天堂は。
- 宮本
- そうですね。
あ、そういえばぼく、
海外の会社と話をしてるとき、
日本の会社なのに「持ち帰ります」って
言わへんのはめずらしいと言われました(笑)。
- 糸井
- ははははは、そうか、
日本の会社って「持ち帰ります」よね!
- 宮本
- ぼくが持ち帰ってどうすんのと、
思うねんけども
- 一同
- (笑)
(つづきます)
2024-01-10-WED